売上と粗利益を簡単に上げるサイレントセールスマンを創る POPの力と基本原則を知る
関西圏のスーパーマーケット業界では、予想を超える迫力に衝撃を受けている人が多いはずです。関東のロピアがオープンさせた「ロピア寝屋川島忠ホームズ店」です。関西地区にはなかった店の雰囲気と商品のボリューム感、売場づくり、そして、品揃えと低価格。近隣(徒歩10分圏内)で営業している万代香里西店、ライフ香里園店、平和堂のアル・プラザ香里園など、どの店舗と比べても、明らかな違いが数多くあります。
生産性の観点から、ロピアの生産性対策の特徴を考えてみます。
生産性を上げることは、企業の成長と発展には絶対不可欠なことです。また、生産性を向上させるとは、営業利益を拡大させることと同じ意味です。
そのためには粗利益高を上げて、支出(固定経費)を下げる。そして、日々多くの顧客の来店頻度を高める。この3つの数値をそれぞれに上げることによって、生産性は雪だるま式に高まっていきます。
明確な経営理念が生産性を上げる
ロピアの店舗の入口には、会社の経営理念がお客にわかるように大きく掲示されています。
会社が、何を考えているか、何をしたいのか。どうあるべきか、どう行動するのか。そういったことが、新入社員でも理解できるように表現してあります。
このわかりやすい行動指針は、社員一人ひとりが、明確な目標に向かって、日々無駄なく行動するために重要なものであり、それが生産性に大きく関わることになります。お客も、それを理解し納得して来店してくれることになります。
生産性を上げるターゲティングの明確さ
ロピアは「食べ盛りの小・中・高校生の子どもがいる世帯」をターゲットにしています。したがって、生鮮品の売場は普通のスーパーマーケットに比べると、大容量のパックが圧倒的に多く、小分け商品が少なくなっています。
このことは、単身者やお年寄り世帯のように、それを不便と感じるお客がいる反面、ターゲット顧客にとっては、とてもリーズナブルで、お得感満載で、魅力的に感じることになります。
そして同時にこの大容量パックを販売する戦略によって、加工や陳列の作業工数を大幅に減らすことができます。単純作業全体の投入人時数は、確実に減ることになります。
また原価(FLコスト)の視点で考えると、商品管理全体の効率が良くなり、そのことが、売価を低く抑えることを可能とします。この「FLコスト」のFはFood(食材費)、LはLabor(人件費)の略で、食材原価と人件費を足したものを示します。
一方、競合するライフコーポレーションのライフ香里園店は、京阪電車の香里園駅西側すぐに位置し、仕事帰りに電車から降りてくるお客を確実に取り込んでいます。ロピアからは徒歩約10分の位置にあります。比較的高所得層が多く住んでいる地区で、その層が中心ターゲットになります。
万代香里西店はロピアから徒歩約9分で、高層マンション群が周りを囲む立地です。店舗南側を走る府道は、比較的車の通行量も少ないことから、車の出入りもしやすくなっています。近隣住民の高い支持を得て、開店から15年以上経った今も、確実に売上げを伸ばしています。
後方に在庫を積み上げても生産性は上がらない
若いころ、ペガサスクラブのセミナーの個人面談のとき、故・渥美俊一先生に「君がつくったレイアウトには、広いバックルームがあるじゃないか」と言われたことを、今でもはっきり覚えています。バックルームの面積を縮めて、「1坪でも広く売場にするべきだ」というご指摘だと理解しました。
ロピア寝屋川島忠ホームズ店は、レイアウトや棚割り、陳列什器や陳列方法にロピアなりの工夫が随所にあります。その最大の特徴は商品の絞り込みを行って、売れ筋商品や主力カテゴリーのフェーシングと陳列量を拡げることです。これによってその販売数量の膨大さに比べて補充作業が簡単で、やりやすく、作業時間は短縮化されていくことになります。
大量陳列什器の多くは、キャスターが付いた移動式を採用しています。補充作業が楽なだけでなく、柔軟に売場を変更することも可能です。
また、グロサリーの定番ゴンドラの最上段は、出し切れなかった在庫のストック置場にしています。定番のバックルーム在庫は、これによって少なくなります。このことは、「商品を探す」ことや、「移動」の動作を確実に減らすことになり、FLコストを低減させます。
このように、FLコストを確実に減らす仕組みがロピアには数多くあり、その大量販売の実態に比べて、担当者の作業負担軽減は実現されています。
スーパーマーケットは売れれば売れるほど作業量が増えて、「骨折り損のくたびれ儲け」に陥りやすい商売です。ロピアはそのあい路に陥らないような、ロピアらしい作業システムを模索しています。
営業中のカート作業を見掛けない
生鮮もグロサリーも、商品の絞り込みと大量陳列によって、補充頻度を確実に減らしています。
1日の補充作業の工数を減らし、投入人時を削減する意味では、開店前の閉店時間内に、いかに陳列在庫を積み込むことができるかが重要になります。店が開店して、お客が売場に入ってしまうと、補充作業のスピードは大幅に低下してしまいます。その間、補充担当者は作業に集中するため、接客対応レベルも低下します。そして何よりお客の買物の邪魔になり、場合によっては、お客と作業カートが接触して怪我を負わせてしまうことさえあります。
売場のフェーシングと陳列在庫が十分に確保されていることによって、ダイナミックな売場をつくることとができます。売上げに対する相対的なローコスト・オペレーションを実現させることもできます。
青果は売場でも作業する
ロピアの青果部門は、店内入口横に作業場があり、補充のための作業導線が短くなる設計になっています。さらに店内では、葉物類のカット作業やブドウの盛り付け作業などを行っています。これらの作業の仕組みによって、補充のための移動距離は大幅に減ります。
同時に、売場チーフは、現場を確認する頻度が増えることによって、迅速に作業指示を出すことが可能となります。
これら独自のオペレーションと品揃えの絞り込み、そして売れ筋商品の大量陳列によって、大繁盛店にもかかわらず、混雑時の店内作業が少なくなって、作業効率を高めることができます。そしてロピアは作業効率が高くなければ、売場が回らないビジネスモデルなのです。
また、担当者が常に売場にいますから、お客の動きが逐次観察できます。何か問題が起こっても、迅速に対応でき、サービスレベルも高く維持されます。
ちなみに、ロピアと隣接する平和堂の青果売場は、ロピアに比べると品揃えが豊富な半面、低回転の商品群のフェーシングをとらざるを得なくなり、その分、高回転品のフェーシングと陳列在庫量が確保しにくくなります。ロピアのシンプルなオペレーションを見ていると、レギュラーのスーパーマーケットや品揃えの豊富な食品売場が、生産性をつくることの難しさを実感させられます。
一方、万代もロピアほどではないにしても品目数を絞り込んで、単品量販するタイプです。それは結果として万代の基準に沿った繁盛店型ローコスト・オペレーションとなっています。
レギュラータイプのスーパーマーケットでは補充の作業回数が増えて、人員も多く投入されることになります。グロサリー売場でも、同じようなことが行われています。
チラシはフロントエンドの役目を果たす
ロピアのオープンチラシは、B3サイズの両面一色刷りで、言うまでもなく低経費です。掲載品目もきわめて少なく設定されています。他の競合店とは、まったく真逆のやり方です。
また、チラシには、LINEのQRコードが載っていて、簡単に登録して、日々の特売品やチラシの確認をすることができるようになっています。ロピアの価格を知っていれば、見る価値のある情報だと認識して、アプリを開いてみる人の割合は、多いだろうと推測されます。
紙面では、圧倒的な低価格を打ち出していて、マーケティングの「フロントエンド」(集客のための仕掛け)の役目を十分に果たしています。集客効果が高く、費用対効果が抜群に高いと判断できます。
一方、売場には、チラシをはるかに上回る数の超特価品が豊富に用意され、お客の購買意欲を刺激します。「チラシは迫力があるのに、売場はしょぼい」という店とは大違いです。お客は、期待を大きく超える体験をすることになります。当然、再来店の可能性が高まります。
店内作業の視点で考えれば、チラシの掲載品目が少なければ、仕入れや売場づくり、POP作成などの準備や後片付けの作業工数が大幅に減ることになります。そして売場担当者は、売り切れを心配することも少なくて済みます。
現金払いと100円カート
ロピアでは、レジの支払いは現金のみです。クレジットカードなどは使えません。そして、ショッピングカートを利用する際は、100円が必要となります。顧客がカートを元の場所に戻せば、お金が返ってくるシステムです。
この2つの施策は顧客のクレームになって跳ね返ってくると思われます。
しかしこれらの仕組みも、ローコスト・オペレーションを実現するためのシステムなのです。カードのシステム開発費や手数料、ショッピングカート回収のための人件費など、固定費を抑えることができるからです。
従業員の視点で考えると、チェックスタンドはすべてセミセルフタイプですので、レジ担当者の負担は少なくて済みます。ショッピングカートの回収作業もなくなります。
「何でも(は)ないけど、これがある」
ロピアの売場には、少容量商品や小分け商品、刺身の盛り合わせや手の込んだ細工のある惣菜はありません。しかし、ロピアにしかないものは、売場の中にたくさんあります。
近年、他店との違いを意識して、面白い商品や面白い売場をつくることがトレンドのようになっています。それも、顧客本意ではなく、売り手の趣味的な売場づくり、商品づくりになっていることが多いように感じます。このことは、無駄な在庫とロスを生み、生産効率の低い売場をつくり出すことにもなります。ロピアは、このような考えの企業とは、完全に違います。
たとえば、アメリカのトレーダー・ジョーには、全店にそれぞれ配置されているアーティストがつくった楽しいトップパネルやPOPがあります。お客が気になっている商品を、その場で試食させてくれるサービスもあります。単純に考えればムダにも思えることです。しかし、このようなことは、顧客の心を掴み、顧客との繋がりを深くして、多くのファンを獲得することになります。
ロピアの店内で見かける手描きのパネルやPOPは、本部のデザインチームによるものだと聞きます。その責任者は精肉部門の元チーフです。トレーダー・ジョーの売場を思い起こさせてくれます。楽しさを演出して、ストアイメージを高めることに大いに貢献しています。
この点もロピアが単なるディスカウンターではないことを示しています。
以上のことを実現するためには、オープンマインドで、組織に縛られない自由な発想が必要です。そしてこの自由なマインドとともに、ローコスト・オペレーションの仕組みが根底を支えていなければなりません。ロピアにはそれがあります。
10年経っても変わらないものに注力する
人も企業も、変化する方に注意を取られがちになります。新しいことに気を取られ、変化しなければならないと考えてしまいます。
しかし、私は、今回ロピアの出店を見て、3つのことを考えました。
⑴ターゲティングを明確にすること
⑵やることと、やらないことを決めること
⑶ローコスト・オペレーションに磨きをかけ続けること
そして5年後、10年後も変わらないことに注力することの重要性を改めて、確信することができたたような気がします。
時代の変化に流されずに、自分たちの軸をしっかりもって、目標に向かって無駄なく成長し続けることが重要であると思います。
万代もライフも、そして平和堂も、それぞれに生産性が高い企業であり、独自の魅力をもっています。そして日々、ファンを喜ばせています。とくにこの地域商圏のそれぞれのターゲットを確実に取り込んでいます。お客の側も便利に店舗を使い分けているのだと思います。今回のロピアの進出は、それぞれに刺激を与え、それぞれの独自性にさらに磨きをかける努力をさせることになるでしょうし、大いにそれを期待したいと思います。
ちなみに、ロピアの開店当日、万代は30%程度の影響を受けたものの、2日目は10%程度に戻したとのことです。しかし、それまで前年対比120%以上を記録していることから、年度末にも前年を割り込むことはないと考えられます。
平和堂は、ロピアの開店の4日前に店内大改装を終えて、リニューアルオープンしました。
万代もライフも、今までやっていることに、さらに磨きをかけて確実に進化させてくるでしょう。
ローコスト・オペレーションは根っこ
高級志向のスーパーマーケットも、ディスカウント型のスーパーマーケットも、普通のスーパーマーケットも、ローコスト・オペレーションこそ、企業の成長と発展を支える「木の根っこ」の役目を果たす重要なものです。
ディスカウントストアは、あらゆるコストを下げることに努力して、固定費を下げ、売価を下げることを実現させようと努めます。楽しさや面白さを差別化として打ち出す店は、ローコスト・オペレーションによって、単純作業の時間を削減して、商品開発や売場づくりなど、付加価値業務の時間を確保しなければなりません。その結果として、ユニークな特徴を出すことが可能になって、粗利益(価値)が拡大します。
たとえ企業の戦略が違っても、ローコスト・オペレーションは、企業の戦略実現のための「根っこ」なのです。
ロピアは、安さと楽しさの両方を実現することを目指しています。だから、普通のスーパーマーケットが当たり前に行っていることでも、「それはしない」と決めています。それは、セグメンテーションとターゲティングを行って、「こういうお客に来てもらいたい」と、明確に自分の店の顧客を設定して、ポジショニングをしているからです。
ロピアの出店によって、隣接する平和堂(アル・プラザ香里園)との相乗効果が生まれ、この地域はさらに活性化すると考えられます。そして、他の競合店舗は、とくに週末の売上げが徐々に影響を受ける可能性が高くなると予想されます。しかもそれは、広域に及ぶものと思われます。
競争環境が変わったのですから、今後改めて、自店のオペレーションやコストを見直し、生産性を高めることにフォーカスして、資産を戦略分野に確実に割り振ることが重要になります。目先の売上げを追うような、枝葉末節のことではなく、根っこをしっかりと鍛え直すことです。
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