大人ピアノ指導法:「基本3和音」の解り易い説明法
体験講座が終わり、いよいよ第1回、第2回の講座が始まる。
この時期は、講師にとっても受講者にとっても、とても大切な時間です。
けれども実際には、この最初の時期、どこか“しらっとした空気”や、まだ場が温まりきっていないような雰囲気を感じることはありませんか。
講座を担当されたことのある先生でしたら、「そうそう」とうなずいてくださる場面かもしれません。
なぜそのような空気になるのでしょうか。
それは、受講者の皆さんがまだそれぞれに疑問や不安を抱えながら、「この講座はこれからどのように進んでいくのだろう」「自分はついていけるだろうか」と様子を見ておられる時期だからです。
言い換えれば、講師が“試されている”ような感覚のある時期ともいえるでしょう。
こうした時期に、講座の団結を高め、安心感のあるよい雰囲気をつくっていくために、今日は三つの方法をご紹介いたします。
1.カタルシス効果を用いる
まず一つ目は、カタルシス効果を用いることです。
私はこれが、最も効果的な方法の一つだと感じています。
カタルシス効果とは、心の中にしまっている不安や違和感、いら立ちなどを言葉にすることで、気持ちが整理され、すっきりすることを指します。
講座の初期には、受講者の皆さんの中にも、言葉にはしていない不安があるものです。
たとえば、
「まだ始まったばかりなので、少し雰囲気がまとまっていないように感じられるかもしれませんね」
と、講師の側からあえてその“グレーな部分”に触れてみるのです。
これはとても大切なことです。
また、「この講座にはご経験のある方もいらっしゃるので、その方はどうなるのだろうと思っておられる方もあるかもしれません」
「反対に、自分はついていけるかしらと感じておられる方もいらっしゃるかもしれません」
というように、受講者が心の中で感じているであろうことに、こちらから少し言及して差し上げるのです。
講座の初期段階は、どうしても一人ひとりに丁寧に対応する時間が限られます。
講座全体の雰囲気を整えながら、カリキュラムを進めていくだけでも精一杯になりがちです。
そのため、慣れていない先生ほど、そうした曖昧な空気に触れないまま一生懸命進めようとして、かえって空回りしてしまうことがあります。
だからこそ、このカタルシス効果をぜひ活用していただきたいのです。
言葉にしてあげることで、場がふっとやわらぎます。
2.イエス・バット法を用いる
二つ目は、イエス・バット法です。
これは、相手の言葉をまず否定せずに「そうですね」と受け止め、そのうえで自分の考えや補足を伝える方法です。
たとえば、受講者の方から
「キーボードはどうしたらいいですか?」
「重たいものだと大変ではないですか?」
と聞かれたとします。そのときに、まず
「そうですよね」
「確かにそう感じられますよね」
と受け止めることが大切です。
そのあとで、「でも、地域によってはお車で持ってこられる方も多いので、最終的には少し大きめのものを選ばれる方もいらっしゃいますよ」
あるいは
「小さなキーボードは持ち運びしやすい反面、音が少し軽く感じられたり、鍵盤が狭かったりすることもありますね」
とお伝えしていきます。
つまり、最初に“イエス”で相手に寄り添い、その後で“でも”と続けながら、現実的な見通しや別の視点を加えていくのです。
この順番がとても大切です。
最初から否定に入ってしまうと、相手は心を閉じてしまいます。
けれども、まず理解してもらえたと感じられると、その後の説明も自然に受け取っていただけます。
講師としては、つい「でも」「ただ」「それは違って」と言いたくなることもありますが、“バット”ばかりにならないよう気をつけたいものです。
まずは共感、そのうえで説明。
これが、講座の空気をやわらかく保つ大きなポイントです。
3.クローズドクエスチョンで場をまとめる
三つ目は、クローズドクエスチョンを活用することです。
これは、相手が「はい」と答えやすい問いかけを重ねながら、自然に前向きな流れへ導いていく方法です。
人は「はい」が続くと、最後も前向きに応じやすくなる傾向があります。
たとえば、こんなふうに問いかけてみます。
「皆さん、ピアノには憧れがありましたよね」
「好きな曲が弾けたら素敵だな、と思われますよね」
「でも、なかなか今まではその機会がなかったのではないでしょうか」
この流れのあとで、
「では、この講座でぜひその夢を叶えてまいりましょう」
とお伝えすると、受講者の気持ちは自然と“はい”の方向へまとまりやすくなります。
これは決して特別な誘導ではなく、皆さんがもともと心の中に持っておられる願いを確認し、その思いを講座につなげていく方法です。
初期段階でこのような流れをつくることができると、講座全体にまとまりが生まれます。
反対に、こうした心のつながりをつくらないまま、
「今日のカリキュラムはこれです」
「はい、弾けましたね」
「では、さようなら」
と進めてしまうと、どうしてもモチベーションに差が出てきます。
講座は、内容だけで成り立つものではありません。
「この場で頑張ってみたい」と思える空気づくりがあってこそ、継続につながっていくのです。
おまけ
講師への信頼感と親近感を高める三つの視点
ここからは少しおまけとして、講師に対する信頼感や親近感を育てるための方法
についてもお話ししたいと思います。
1.ツァイガルニク効果を活かす
一つ目は、ツァイガルニク効果です。
これは、人が“未完成のもの”や“続きのあるもの”に惹かれやすいという心理効果です。
ドラマの続きが気になるのと同じですね。
講師自身も、初期の講座でこの効果を上手に活かすことができます。
たとえば、
「私はこういう思いでこの講座を始めました」
「けれども、まだ緊張もしておりますし、至らないところもあるかもしれません」
「でも、これから皆さんと一緒に、こんな講座に育てていきたいと思っています」
というように、自分の思いを“物語”として語るのです。
すると受講者は、単なる説明としてではなく、「この先生はどんな思いで進めておられるのだろう」と自然に関心を持ってくださいます。
そこに、親近感と信頼感が生まれてくるのです。
2.アンダードッグ効果で誠実さを伝える
二つ目は、アンダードッグ効果です。
これは、少し弱い立場や控えめな姿勢を見せながらも、一生懸命取り組んでいる様子に、人が心を動かされるという効果です。
たとえば、
「ピアノは敷居が高いと思われがちですよね」
「難しそうで、自分には無理かもしれないと感じる方もいらっしゃると思います」
「でも実は、工夫次第でとても心に良い効果をもたらしてくれるんです」
というように、最初にハードルの高さに共感し、そのうえで価値や可能性を伝えていく方法です。
あるいは講師自身が、
「私もまだまだ至らないところがありますが、皆さんと一緒によりよい講座にしていきたいと思っています」
という姿勢を見せることも、かえって誠実さとして伝わります。
完璧さだけが信頼を生むのではありません。
一生懸命さや真摯さが、受講者の心に届くことも多いのです。
3.パーソナルスペースを意識する
そして三つ目は、パーソナルスペースを意識することです。
人にはそれぞれ、心地よい距離感というものがあります。
特に第1回、第2回の講座では、まだお互いに遠慮があり、どこかよそよそしい雰囲気になりがちです。
そんなときは、相手の真正面に立つよりも、横に寄り添う位置に立ってお話しすると、ぐっと柔らかな空気になります。
真正面から向き合うと、どうしても緊張感が生まれやすくなります。
けれども横に立つことで、物理的にも心理的にも距離がやわらぎ、親しみやすさが増していくのです。
ほんの少し立つ位置を変えるだけでも、受講者の受け取り方は大きく変わります。
最初の講座は、「内容」以上に「空気づくり」が大切
第1回、第2回の講座は、まだ技術を教え込む段階ではなく、この講座なら安心して続けられそうと思っていただくための大切な時間です。
だからこそ、
不安に言葉を与えること。
まず受け止めてから伝えること。
「はい」が重なる空気をつくること。
そして、講師自身の思いや誠実さが伝わるように工夫すること。
こうした積み重ねが、講座の信頼関係を育て、よい雰囲気へとつながっていきます。
ぜひ、最初の講座づくりにおいて、今日の内容を少し意識してみてください。
講座のまとまり方も、受講者の表情も、きっと変わってくるはずです。


