大人ピアノ指導法:「テキスト・習慣」進歩の早い人・ゆるやかな人

光畑浩美

光畑浩美

テーマ:講師の養成/大人ピアノ指導法

進歩のペースが異なる受講者が混在する講座を、どう進めるか

講座では、ゆるやかに進歩される方と、早いペースで進歩される方が同じ場にいらっしゃることがよくあります。
そのような場合、どのように学習を進めていけばよいのでしょうか。
らくらくピアノの講座は、多くの場合、1時間半から2時間ほどで構成されます。
ただ、2時間になると、受講者の皆さまにとっては少し“お腹いっぱい”になってしまうことがあります。講座の中で満足感が高まりすぎると、ご自宅に帰ってからの練習が少なくなってしまうこともあるのです。
その点、実は1時間半という長さは非常に効果的だと感じています。
もちろん、実際には「こんにちは」「さようなら」といったやり取りだけでも20分ほど取ることがありますから、集中して取り組める時間は正味1時間ほど、というのが本音かもしれません。

おすすめしたい講座の基本構成

1時間半の中では、次のような流れがおすすめです。
まず最初の30分は、ソルフェージュやハノンに相当する基礎的な内容に取り組みます。
続く30分から40分ほどで、お一人ずつ拝見しながら個人指導を行います。
そして最後の10分から20分程度を、全員でまとめて楽しむ時間にします。
たとえば、
・みなさんで合わせて楽しむ
・音楽鑑賞をする
・その日の特別プログラムを行う
といった時間です。
この“最後に皆で共有するひととき”は、講座全体の充実感を高めるうえで、とても大切です。

全体で合わせる時間は、技術の差を超えて音楽を楽しむ時間

一般的なアンサンブルでは、ある方がメロディを担当し、別の方が伴奏を担当するなど、緻密に役割分担をして合わせることがあります。
けれども、らくらくピアノの通常の講座では、進度や経験の差がある中で、それを細かく合わせるのは、実際にはなかなか難しいものです。
ですから、全体で合わせるときには、皆さんで右手を弾くという形もとても喜ばれます。
ただし、ここでひとつ工夫したい点があります。
皆さんがキーボードを使っている場合、全員がピアノ音色のままで合わせると、思ったほど盛り上がらないことがあります。
そのため、音色設定を工夫することをおすすめします。
たとえば、

・パイプオルガン
・チャーチオルガン
・テナーサックス
・ストリングス

といった、響きに広がりや力強さのある音色はとても効果的です。
こうした音色で皆さんがメロディを弾き、そこに講師が伴奏を添えると、場の音楽がぐっと豊かになります。

「上手な人が退屈するのでは?」という心配について

講師の立場からすると、上達の早い方や、すでにアレンジ演奏もできる方に対して、
「皆さんと一緒に右手だけで大丈夫かしら」
「退屈されるのではないかしら」
と心配になることがあるかもしれません。
けれども、多くの受講者の声をうかがうと、そうした時間はとても良い時間だと言われます。
これは、講師にとっては少し意外に感じられることかもしれません。
音楽の場で大切なのは、単に「弾ける・弾けない」ではありません。
音楽を楽しむことそのものに、大きな価値があるのです。
上達の早い方ほど、
「先生がこういう伴奏をつけると、こういうふうに音楽が豊かになるのだ」
「こうすれば、皆でこんなに気持ちよく弾けるのだ」
ということを、実は多く学んでおられます。
そして、
「やっぱり音楽っていいな」
「ここに来てよかったな」
と感じてくださるのです。
つまり、講座の価値は、単純に個々の技術レベルだけで測れるものではありません。

全体で進めるときは、やや低めのレベルに合わせる

では、全体で合わせるときには、どのレベルに合わせればよいのでしょうか。
基本的には、やや低めのレベルに合わせて進行することになります。
そのうえで、演奏の質を高めたいときには、テキストのヘッダー部分、つまりページ上部に書かれている課題やテーマに注目します。
たとえば、

・今日はDマイナーを学びましょう
・輝くような感じで
・元気になるような感じで

といった指示が書かれていることがあります。
そうした言葉を受講者の皆さんに示しながら、
「今日はこのことを意識して練習してみましょう」
と、全員で同じ課題に向かうことがとても大切です。
なお、毎回合わせる曲を変える必要はないかもしれません。
1か月、あるいは3か月ほど、同じ“テーマソング”のような曲に取り組むのも良い方法です。
繰り返し取り組むことで、受講者の皆さんも安心して音楽に向かうことができます。

ゆるやかに進歩される方への指導で大切なこと

ゆるやかに進歩される方への指導には、特に大切な原則があります。
それは、基本的に宿題を出さないこと、そして復習に重点を置くこと
です。
ゆるやかな進歩の方ほど、
「進まなければ」
「遅れてしまう」
「練習してこなければ」
という気持ちに追われやすく、苦しさを抱えてしまいがちです。
だからこそ、無理に先へ進めるのではなく、復習を中心に据え、安心して取り組める環境を整えることがとても重要です。
少し余裕が生まれるだけで、音楽に向かう表情も変わってきます。

早い進歩の方には、明確な課題を伝える

一方で、早いペースで進歩される方には、明確な課題を伝えることが効果的です。
たとえば、
「今回はこの3点を意識してみてくださいね」
と、具体的にポイントを絞って示すだけでも十分です。
そして、ここでも大切なのは、単にアレンジの幅を広げることだけを目標にしないことです。
むしろ、表現の深さを重視したレッスンへと導いていくことが必要です。
技術が高い方ほど、実は失意を感じるのも早いものです。
年齢を重ねる中で、「以前のようにはいかない」と感じる場面も出てきます。
だからこそ、上手さだけではなく、音楽の表現そのものに目を向けることが大切なのです。

技術差があっても、同じ場で音楽は育つ

講座の中には、さまざまなペースの方がいらっしゃいます。
けれども、その違いがあるからこそ、学びは豊かになります。
大切なのは、一律に同じことを求めることではなく、
それぞれの進歩のあり方を尊重しながら、
同じ場で音楽を楽しみ、共有し、育てていくことです。
らくらくピアノの講座は、単に弾けるようになるための場ではありません。
音楽を通して「ここに来てよかった」と思える時間を、皆さんとともにつくっていく場なのです。

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光畑浩美
専門家

光畑浩美(大人ピアノ指導の専門家)

一般社団法人全日本らくらくピアノ®協会  株式会社PREMUSE

大人のピアノ初心者向け。特許庁登録「らくらくピアノ®︎」で憧れの曲を楽しく実現。オンライン講座や認定講師養成講座を展開。著書累計17万部超、Amazonや全国書店で販売中。

光畑浩美プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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