大人ピアノ指導法:簡単で華やかな伴奏形「1本指スペシャル」

光畑浩美

光畑浩美

テーマ:講師の養成/大人ピアノ指導法

中高年の初心者にこそ喜ばれる「簡単で華やかな伴奏」とは

ピアノ指導の現場では、「少しアレンジを加えて、もっと素敵に聴こえるようにしたい」と考えることがよくあります。
けれども、その“少し”が、先生にとっては簡単でも、受講生さんにとっては大きな挑戦になることがあります。
逆に、先生側から見ると「こんなことで本当に喜んでいただけるのかしら」と思うような小さな工夫が、中高年の初心者の方にとっては、ちょうどよく、そしてとても嬉しいアレンジになることも少なくありません。
今回は、そんな
「簡単なのに華やかに聴こえる演奏レベル1」
のアレンジについてお伝えしたいと思います。

1.まずは「一本指スペシャル」

たとえば《メヌエット》のような曲で、右手が
「ソ ド レ ミ ファ ソ…」
と動いているとします。
通常、左手はコードネームが書いてあるところで、単音を「ポーン」と弾く形でも十分です。
それだけでも、皆さんにとっては弾きやすい伴奏になります。
では、「一本指スペシャル」とは何か。
それは、左手も右手と一緒に同じタイミングで動かすことです。
たとえば右手が
「ソ ド レ ミ ファ…」
と進むなら、左手は
「ド ド ド ド ド…」
というように、一本指で同じリズムに合わせて弾いていきます。
ここで大切なのは、
左手を四分音符で機械的に
「ド、ド、ド、ド…」
と刻むことよりも、右手の動きに連動して一緒に動かすほうが、実は本当の初心者にはやさしいということです。
一般には、一定の拍で伴奏を刻むほうが簡単そうに見えるかもしれません。
けれども中高年の初心者の方には、「別のことを同時にする」ことのほうが難しい場合があります。
だからこそ、
右手と同じ流れに乗せて左手も動かす。この方法が、とても取り入れやすいのです。
これが、私の言う「一本指スペシャル」です。

2.意外と喜ばれる「一本締め」

次にご紹介したいのが、一本締めです。
「ピアノのレッスンで一本締め?」
と驚かれるかもしれませんが、やることはとても簡単です。
たとえば《夕焼け小焼け》の終わり。
テキスト通りに最後まで弾いたあと、最後に“ド”をポンと加えるだけです。
右手なら1オクターブ上のド、
左手なら1オクターブ下のド。
その音を最後に加えるだけで、演奏の終わりがぐっと引き締まり、華やかに感じられます。
「そんな簡単なこと」と思われるかもしれません。
けれども、中高年の初心者の方にとっては、この“最後に別の音へ飛ぶ”ということ自体が、とても大きな挑戦になることがあります。
以前、ある受講生さんがフェスティバルに出演される前のことです。
その方は本当に熱心に練習されていて、出演の1か月前にはしっかり準備を進めておられました。
そこで私が、
「もしよろしければ、最後に“ドーン”と一本締めを入れてみませんか」
とお伝えしたところ、
「えっ、今からですか? もうあと1か月しかないのに……」
「最後で間違えたら大変ですね」
「これはかなり練習しないといけませんね」
と、本気でおっしゃったのです。
私たち指導者からすると、
「最後に一音足すだけ」
と思えることでも、受講生さんにとってはそれほど大きなことなのです。
だからこそ、そこを乗り越えて弾けたときの喜びも大きい。
そして実際、この「一本締め」は、さまざまな曲でお伝えすると、思いのほかとても喜ばれます。
特に、本当に初期の段階の方にはおすすめしたいアレンジです。

3.注目を集める「グリッサンド」

もうひとつ、華やかさという意味でおすすめしたいのが、グリッサンドです。
あの、
「トゥルルルル……トン!」
という、耳にも印象に残る奏法です。
グリッサンドは、普段あまり目立たないと感じておられる方にも、ちょっとした“晴れ舞台”をつくってくれることがあります。
上級者のように複雑なアレンジができなくても、たったひとつの工夫で、ぱっと場の空気を変えることができるのです。
教え方にも少し工夫があります。
私は、
まず「ドン」と音を入れて、
そこから爪でツルツルツルッと滑らせ、
最後に「トン」と止める、
そんなイメージでお伝えすることがあります。
このように、動きのイメージを勢いごと伝えると、受講生さんは思い切って
「タン、トゥルルル、トン!」
と弾いてくださいます。
反対に、
「ここでドを弾いて、爪で滑らせて、最後は高い音を弾いてください」
と説明だけを丁寧に重ねると、どうしても勢いが弱くなり、うまく弾けないことがあります。
レッスンでは、それまでゆっくりと曲を弾いておられた方が、急にグリッサンドを覚えて
「トゥルルルル、トン!」
と決められると、周りの皆さんが
「おおっ!」
という表情になることがあります。
ご本人もそれが嬉しくて、何度も弾いてみたくなられるのです。
もちろん、指先が少し痛くなることもありますが、キーボードのように軽い鍵盤であれば、比較的取り入れやすい奏法でもあります。
華やかさを出したい方には、ぜひおすすめしたい方法です。

おわりに

中高年の初心者の方にとって、「簡単であること」は決して物足りなさではありません。
むしろ、無理なくできて、しかも華やかに聴こえることこそ、大きな喜びにつながります。
指導する側は、つい「もっと良く」「もっと音楽的に」と難しさを加えたくなることがあります。
けれども、受講生さんが本当に求めておられるのは、
“ちょうどよい達成感”
なのかもしれません。
一本指スペシャル。
一本締め。
そしてグリッサンド。
どれも小さな工夫ですが、中高年の初心者の方にとっては、演奏がぐっと楽しくなり、自信につながる大切なアレンジです。
ぜひ、必要な方にそっと取り入れてみてください。
きっと、思いがけない笑顔に出会えるはずです。

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光畑浩美
専門家

光畑浩美(大人ピアノ指導の専門家)

一般社団法人全日本らくらくピアノ®協会  株式会社PREMUSE

大人のピアノ初心者向け。特許庁登録「らくらくピアノ®︎」で憧れの曲を楽しく実現。オンライン講座や認定講師養成講座を展開。著書累計17万部超、Amazonや全国書店で販売中。

光畑浩美プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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