大人ピアノ指導法:「親近感とパーソナルスペース」
講座を続けていると、「どうすれば受講者の皆さんのモチベーションが上がるのだろう」と考える場面が何度もあります。
けれども、これは一言で答えられるほど単純なことではありません。
同じように講座を行っていても、
教室ごとに雰囲気はまったく異なります。
参加されている方々の構成によっても違いますし、
その時々の流れや空気感によって、
「今日はとても良い状態だな」と感じる日もあれば、
「なんとなく全体が沈んでいるな」と感じる日もあります。
私たちはいつも、講座の中で皆さまが気持ちよく学び、
前向きな雰囲気の中で過ごしていただけるよう願っています。
そのために、私がとても大切だと感じているポイントが4つあります。
1.大切な場面では、モチベーションの高い方に発言していただく
まず一つ目は、
モチベーションの高い方に発言していただくことです。
これは本当に大切なポイントです。
たとえば、月に4回講座があるとして、
たまたま祝日で1回お休みになったとします。
そうすると、「5週目に振り替えて実施するかどうか」という話が出てくることがありますよね。
そんな時に、先生が皆さんに向かって
「皆さん、どうされますか?」
と、ざっくり尋ねてしまうと、どうなるでしょうか。
多くの場合、全体の空気は慎重な方、消極的な方へ引っ張られていきます。
すると、「まあ今回は3回でもいいのでは」「無理しなくてもいいのでは」
という流れになりやすいのです。
でも、講座全体のモチベーションを上げたいのであれば、ここで工夫が必要です。
たとえば、普段から前向きで意欲的なAさんに事前にお声がけしておくのです。
「私は5週目も実施したいと思っているのですが、どう思われますか。
よろしければ、皆さんにもそのようにご提案いただけますか?」
すると、先生が提案するのではなく、受講者の中から前向きな意見が自然に出る形になります。
この違いはとても大きいのです。
私自身の苦い経験から学んだこと
実は、私にはこの大切さを痛感した出来事があります。
まだ中高年の皆さまがピアノを学ぶ講座が、
今ほど一般的ではなかった頃のことです。
ある時、「発表会をやりましょう」という話になりました。
最初は皆さんも「やろう、やろう」と前向きでした。
ところが、練習が進むにつれて、だんだんと
「思うように弾けない」
「本番が怖くなってきた」
「やはりやめたくなってきた」
という空気が広がっていったのです。
その時、私はホールも予約していましたし、「せっかくここまで来たのだから頑張りましょう」
と、自分だけがどんどん前向きになってしまっていました。
けれども、参加者の皆さんの多くは、不安の中にいらしたのです。
そんな中で私が、皆さんに向かって
「どうですか、頑張っていらっしゃいますか?」
と問いかけてしまいました。
すると、お一人が
「なかなか思うように弾けないのよ」
と本音をこぼされ、それをきっかけに、
「そうだ、そうだ」
「やっぱり難しい」
「もうやめたほうがいいのでは」
という声が一気に広がってしまったのです。
しまいには、
「私たちは発表会をしたくて始めたわけではない」
「家で気軽にピアノを楽しみたかっただけなのに」
というお話にまで発展し、講座そのものを畳もうかと思うほど、深刻な空気になってしまいました。
この経験から、私ははっきり学びました。
大切な場面ほど、最初に発言していただく方を意識すること。
これを知っているだけで、教室の空気が揺れた時にも、良い方向へと整えやすくなります。
2.小さくても「役割」を持っていただく
二つ目は、役を決めることです。
たとえば、20名のクラスがあったとします。
そのうち何人かに、小さな役割をお願いするのです。
講座が終わったらカーテンを閉める役。
電気を消す役。
忘れ物を確認する役。
出席の声かけをする役。
こうした役割は、一見すると本当に些細なものに思えるかもしれません。
「カーテンを閉めるだけなのに、そんなに大げさにしなくても」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
けれども、人は不思議なもので、
自分の役割があると、その場への関わり方が変わります。
ただ参加するだけではなく、「自分もこの場を支えている」という気持ちが生まれるのです。
できれば、メンバー全員に何らかの役割がある状態にできると、とても良いと思います。
小さな役でも構いません。むしろ、小さいからこそ無理なく続けられ、自然に責任感や一体感につながっていきます。
3.一人ひとりが輝ける「スターの時間」をつくる
三つ目は、スターにさせることです。
もちろん、ピアノがお上手な方は、演奏そのものがスターの場面になります。
けれども、講座の中で輝ける場面は、何もピアノだけではありません。
たとえば、ある方が
「今日は淡路島に行ってきたんですよ」
「こんなお土産があったんですよ」
と話してくださったとします。
そんな時に、
「それでは講座の前に、よろしければ淡路島での楽しかったお話を1分だけ、
皆さまにもお裾分けしていただけませんか?」
とお声がけするのです。
すると、その方にとっては、ほんの少しの時間かもしれませんが、
そこで自然にスポットライトが当たります。
そして、その“ちょっとしたスターの時間”が、
講座全体の雰囲気を明るくしてくれるのです。
これは本当に大きな力があります。
ただ淡々と進む講座よりも、
一人ひとりが輝く場面を少しずつ組み込んでいく講座のほうが、
場の温度がまったく違ってきます。
人は「できること」や「得意なこと」を認められると、自然と前向きになります。
だからこそ、演奏以外のことも含めて、
その方が輝ける場面を見つけて差し上げることが大切だと思うのです。
4.ささやかなイベントで講座にメリハリをつける
四つ目は、ささやかなイベントでメリハリをつけることです。
講座は、継続するほど安定感が出てきます。
その一方で、どうしても単調さが生まれやすくなります。
だからこそ、少しだけ特別感のある日をつくるのです。
季節に合わせたミニイベントでもよいですし、
ちょっとした発表の機会でもよいでしょう。
何かを大々的にする必要はありません。
ほんの少し「今日はいつもと違う」という工夫があるだけで、
参加する楽しみがぐっと増します。
講座には、学びだけでなく、期待感や変化も必要です。
その積み重ねが、モチベーションの維持と向上につながっていきます。
おわりに
講座のモチベーションを高めるためには、
特別なことをしなければならないわけではありません。
大切なのは、
誰に最初に発言していただくか。
どんな役割を持っていただくか。
誰が輝ける時間をつくるか。
そして、どんな小さな変化を講座の中に取り入れるか。
こうした積み重ねによって、教室の空気は少しずつ変わっていきます。
そして、その空気が変わることで、
受講者の皆さまの表情も、取り組み方も、確実に変わっていくのです。
ぜひ、ご自身の講座の中でも取り入れてみてください。
少しの工夫が、大きな違いを生み出します。


