大人ピアノ指導法:「目標設定」全く異なる価値観
体験会で「弾けた!」を実感していただくために
右手・左手の伝え方と、楽しい体験講座の流れ
体験会では、参加者の皆さまに「難しそう」ではなく、
「できた」「楽しい」と感じていただくことが何より大切です。
そのためには、最初の声かけや進め方に工夫が必要です。
今回は、鍵盤に指を下ろしていただくときに、
どのようにお伝えすると安心して取り組んでいただけるのか、
右手・左手それぞれの教え方、
そして体験講座全体の流れについてお話しします。
まずは右手の導き方から
最初に、楽譜に「ミ」と書いてありますので、
皆さまには紙鍵盤の「ミ」の位置を見ていただきます。
そして、こうお伝えします。
「音が出ないので安心してください。
ミのところに、3番の指を“ポチッ”と置いてください」
この“音が出ないので安心です”という一言は、とても大切です。
初心者の方にとって、間違えて音が鳴ることは大きな不安になります。
けれど、紙鍵盤なら音が出ません。
だからこそ、恥ずかしさを感じずに取り組んでいただけるのです。
指を置いていただいたら、次にこう続けます。
「そのまま目を閉じてください。閉じたまま、“3”とおっしゃってください」
皆さんが「3」と言ったら、そのまま手を離さずに、
今度は目を閉じたまま「4」、そして「5」と進めていきます。
さらに、「5、4、3、2」と続けます。
そして最後に、
「手を離さないで、目を開けてください。
レのところに行った方、おめでとうございます」
とお伝えします。
ここまでで、実はミ・ミ・ファ・ソ・ソ・ファ・ミ・レ
まで弾けたことになります。
参加者の方にとっては、「もうこんなに弾けた」という実感につながります。
これが大きな自信になるのです。
紙鍵盤だからこそ、初心者の方が安心できる
紙鍵盤の体験会には、大きな意味があります。
それは、間違えても恥ずかしくないということです。
私たちからすると、「ピアノがないのに体験会?」と思うこともあるかもしれません。
けれど、本当に初めての方にとっては、
まず恥をかかずに弾き方がわかることが大切なのです。
実際、「紙鍵盤で体験会をします」とお伝えすると、
「それなら行ってみようかしら」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
それほど、最初の心理的ハードルを下げることは重要なのです。
紙鍵盤で指の動かし方を理解し、それから実際に音の出るキーボードやピアノに進む。
この順番だからこそ、初心者の方も安心して一歩を踏み出せます。
「目を閉じる」ことには大きな意味がある
先ほど、ミの位置に3の指を置いていただいたあと、
「そのまま目を閉じてください」とお伝えしました。
これには、実は大きな理由があります。
目を閉じると、不思議と手も自然に閉じるのです。
反対に、目を開けていると、指の間が必要以上に開いてしまうことがあります。
すると、いらない音を弾いてしまったり、
指が移動してまったく違う場所を押してしまったりして、
「やっぱりピアノは難しい」と感じてしまうのです。
ところが、ミの位置に3の指を置き、
そのまま目を閉じると、手も自然にまとまります。
指の幅と鍵盤の幅は、だいたい合うようになっていますので、
そのまま4、5とストンと落としていくと、
自然にミ・ファ・ソと進めるのです。
ここでひとつ大事なのは、「ミ・ミ・ファ・ソ」が本来の流れであっても、
最初の指示では「ミ」を一度しか言わないことです。
なぜなら、目を閉じたままもう一度「ミ」と言うと、場所がずれてしまいやすいからです。
ですから、
「目を閉じて、3の指をミのところに置いてください。
次は4と言ってください」
というように進めます。
そのあとで4、5、そして5、4、3、2と続けることで、
ソ・ファ・ミ・レまで
自然にたどりつけます。
最後は、「手を離さないで、目を開けてください。レのところに行った方、おめでとうございます」
という順番で声をかけます。
この“手を離さないで目を開ける”という順番も、とても大切です。
目を閉じたまま進めるのは、ミミファソソファミレまで
この先、さらに進めると
ド・ド・レ・ミとなります。
けれど、ここから先は注意が必要です。
2番の指と1番の指の間は、目を閉じていると離れやすいのです。
そうすると、初心者の方には難しく感じられてしまいます。
ですから、体験会で目を閉じて行うのは、
ミミファソソファミレまでで止めておくのが最も良いのです。
ここまでで、「指番号で弾けるんだ」ということがしっかり伝われば、
その後は個別指導へとつなげることができます。
右手については、以上です。
次に、左手の教え方です
左手をお伝えする前に、必ず添えていただきたい言葉があります。
「今日は体験会ですので、お上手な方もいらっしゃれば、
本当に初めての方もいらっしゃいます。
今日はあえて、一本指伴奏の仕方をお伝えします」
このひと言を先に伝えることで、
経験のある方にも初めての方にも、
安心して参加していただけます。
そのうえで、楽譜を見ながら進めていきます。
まずは、
「お好きな指を一本ご準備ください。では、この人差し指を“ポン”と出してください」
と声をかけます。
そして、
「はじめにCと書いてありますので、紙鍵盤のCをポチッと押してください。
では、そのまま“C”と声を出してください」
とお伝えします。
さらに、先生も一緒にテンポを感じられるよう、
机などを軽くトントンとたたいて4つ数えてあげてください。
カウントを耳と体で感じられるようにしてあげることが大切です。
進め方としては、たとえばこのようになります。
「指を一本出してください。Cの鍵盤をポチッと押してください。
Cと声を出してください。
では、一緒にいきます。さんはい、C次はGです。
Gを押してください。G。
今度はCです。C。ドレミ。
今度G。ミレレ。
はい、ありがとうございます」
このとき、私は途中からメロディーを歌いながら、
「次はC」「ドレミ」「今度はG」「ミレレ」
というように、指示と歌を同時に入れていきます。
こうすることで、参加者の方は
「自分はいま伴奏をしているのだ」と自然に理解できます。
このような伝え方によって、左手も無理なく体験していただけるのです。
体験講座で「楽しい」を実感していただく流れ
では、体験講座全体として、どのような流れで進めると
「楽しかった」と感じていただけるのでしょうか。
先ほどお伝えした右手・左手のレクチャーも、
全体の流れの中に組み込むことで、より効果的になります。
基本的には、次のような流れになります。
まず最初は、生徒さんからの自己紹介です。
通常は、先生が先にたくさん話すことが多いかもしれません。
けれど、ここではまず生徒さんから自己紹介していただくことがポイントになります。
その前に先生は、お名前と立場、
たとえば「認定講師です」といったことを簡潔にお伝えします。
そしてすぐに、生徒さんから少し詳しく自己紹介していただきます。
その後に、先生からの自己紹介へと入ります。
ここでは、ご自身の思いや信念なども交えながらお話しすると、
安心感や信頼感につながります。
続いて、中高年のソルフェージュに入り、
その後、空中指さばきで右手をお伝えします。
その次に、個別指導を行い、
さらに、一本指伴奏として左手を指導します。
そしてまた、個別指導を入れます。
そのうえで、最後は全体演奏として、
皆さんで合わせて弾いたり、お歌を歌ったりして
、体験会全体を楽しく締めくくります。
そして最後に、片付けとなります。
この一連の流れで進めていくと、参加者の方は無理なく体験でき、
しかも「自分にもできた」「楽しかった」と感じやすくなります。
体験会で大切なのは、「できる形」でお伝えすること
体験会では、難しいことを教える必要はありません。
大切なのは、参加者の方が「わかった」「できた」と感じられる形で、
やさしく導いていくことです。
紙鍵盤を使うこと。
目を閉じて指の感覚を活かすこと。
右手は成功体験で止めること。
左手は一本指伴奏で役割を実感していただくこと。
その一つひとつの積み重ねが、
「ピアノって楽しい」「私にもできるかもしれない」という気持ちにつながっていきます。
体験会は、ただピアノを教える場ではありません。
音楽のある喜びへの入り口を、安心してくぐっていただく場なのです。


