大人ピアノ指導法:「中高年のマイナス出発」5つの要因とは?
テンポが速くなって止まらない方へ、どう伝えるか
ピアノ指導の現場では、「テンポがだんだん速くなってしまい、止まらなくなる方」に出会うことがあります。
たとえば、「タラリラ」と感じられるような伴奏型です。
ドソミソ、ファドラド――このような伴奏に象徴されるように、思いのほかテンポが速くなってしまう方が少なくありません。
私たちはつい、「中高年の方はゆっくり弾かれるだろう」とイメージしがちです。ところが実際には、予想以上に速くなり、そのまま止まらなくなってしまうことがあるのです。
たとえば『夕焼け小焼け』の
「ソソソラソソソミ」
という部分でも、左手がどんどん先へ進んでしまい、気づけば“夕焼け小焼け”ではなく、ただ音を追いかけているような演奏になってしまうことがあります。
このようなとき、「止まってください」「もっとゆっくり弾いてください」と言葉でお伝えしても、なかなか改善しないことがあります。なぜなら、ご本人には「自分が速くなっている」という自覚がないことが多いからです。
また、楽譜に「ゆっくり」と書き込んだとしても、それだけでは十分ではありません。
その場では「なるほど、ゆっくりですね」と理解されたように見えても、家に帰ると「ゆっくりって、どのくらいだろう?」となり、結局また速くなってしまうのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
そこで大切になるのが、「歌う」ことです。
フレーズを声に出して歌っていただき、その長さを身体で感じてもらうのです。たとえば、
「ソソソラソソソミドドレミレ」
という流れを、できるだけひと息で歌ってみます。
速いテンポで歌えば、苦しさはあまり感じません。すると、「あまり苦しくないということは、これは速いのだな」と気づくことができます。
一方で、ゆっくり歌ってみると、息が長く必要になり、お腹がキュッとするような感覚が出てきます。そのとき初めて、「ああ、このくらいが“ゆっくり”なのですね」と、身体で理解できるようになるのです。
つまり、テンポは言葉だけで伝えるのではなく、声を出し、呼吸を使い、身体感覚としてつかんでいただくことが大切なのです。
「ゆっくり弾いてください」と説明するだけでは、なかなか伝わらないことがあります。
だからこそ、実際に歌い、感じていただきながら、ご本人に“速さ”を体得していただく。
この積み重ねが、無理のない自然なテンポへとつながっていきます。
指導の際には、言葉だけに頼らず、身体を通して理解していただく工夫を大切にしたいものです。


