大人ピアノ指導法:「見えないものを売る」ビジネスとは
「簡単に和音を楽しむために、どのような固定観念は避けた方がよいでしょうか?」
というテーマについてお話ししたいと思います。
この「固定観念を避けた方がよい」という言葉に対して、
「そこまで言うのは、なぜなのだろう?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
けれども、和音を無理なく、そして長く楽しんでいただくためには、この視点がとても大切なのです。
「Fはドファラ、Gはシレソ」と思い込んでいませんか?
昔、バイエルなどで学ばれた方の中には、
「Fはドファラ」
「Gはシレソ」
と習った記憶を強くお持ちの方がたくさんいらっしゃいます。
もちろん、それは間違いではありません。けれども、そこで
「Fはドファラしかない
「Gはシレソしかない」」
と思い込んでしまうと、その先の広がりが止まってしまうことがあるのです。
たとえば、ご自身は「私は昔からFを知っている」と思っていらっしゃる。
その一方で、お隣の初心者の方が「ドミソ、ファラド、ソシレ」と基本形から学んでおられるのを見ると、
「え、それはちょっと違うのでは?」と感じられることもあるかもしれません。
でも実は、その“基本形からの学び”こそが、後々大きな力になっていくのです。
基本形から学ぶと、和音の世界がどんどん広がる
らくらくピアノでは、和音が少しずつ増えていきます。
そうすると、ただ「Fはドファラ」「Gはシレソ」と覚えているだけでは、対応できなくなる場面が出てきます。
たとえば、
「では、Dマイナーの第二転回形は?」
と聞かれたときに、「あれ?」となってしまうことがあります。
つまり、「ドファラ」と「シレソ」だけを知っている状態では、ほかの転回形へつながっていかないのです。
一方、まったく初めての方はどうでしょうか。
「ドミソ」
「ファラド」
「ソシレ」
と基本形で学んだあと、さらに
「レファラ」
「ミソシ」
というように、さまざまな和音へ自然に進んでいきます。
その後は、
「ドソド」
「ドソドミ」
というように、転回形や伴奏の形へと発展していきます。
さらに上達されると、
「ドソドミソミドソ、ドソドミソミドソ」
というような、たいへん豊かな伴奏も楽しめるようになります。
つまり、最初に基本形から入った方のほうが、結果としてたくさんの和音を知り、たくさんのアレンジを楽しめるようになるのです。
「知っているつもり」が、広がりを止めてしまうことも
指導の場では、ときどきこんなことが起こります。
最初は「私は昔習っているから大丈夫」と思っておられた方が、あとになって、
「あら、私はドファラしか知らなかったわ」と気づかれるのです。
これは決して悪いことではありません。
けれども、せっかくピアノを楽しもうとしているのに、そこで少し残念なお気持ちになってしまうのは、もったいないことでもあります。
ですから、指導者としては、最初の段階でやさしくお伝えしておくことが大切です。
お伝えするときは、否定ではなく“提案”で
では、実際にどのようにお伝えすればよいのでしょうか。
たとえば生徒さんから、
「私は昔、Fはドファラ、Gはシレソと習いました。それで弾いてもいいですか?」
と聞かれたとします。
そのときに大切なのは、まず相手のご経験を否定しないことです。
「もちろん、それでも大丈夫ですよ」と、いったん受け止めて差し上げる。そのうえで、
「もし機会がありましたら、基本形にもチャレンジしてみませんか」と、やわらかくご提案してみてください。
この“チャレンジ”という言葉は、とても前向きです。
「今までのやり方を間違いだと言われた」と感じにくく、自然に新しい学びへ向かっていただきやすくなります。
基本形にチャレンジするメリット
基本形で和音を学ぶことには、大きく二つのよさがあります。
ひとつは、
さまざまな和音を簡単に学びやすくなること。
そしてもうひとつは、
アレンジのバリエーションが増えること。
この二つを丁寧にお伝えすると、生徒さんも「なるほど」と納得しやすくなります。
ただ形を変えるためではなく、
これから先、もっと自由に、もっと豊かにピアノを楽しむために基本形がある。
そのことが伝わると、学びへの姿勢がぐっと前向きになります。
和音は「ひとつの正解」ではなく、「広がっていく楽しみ」
和音を学ぶとき、
「これだけが正しい形」
と思ってしまうと、その先へ進みにくくなります。
けれども本来、和音はもっと自由で、もっと広がりのあるものです。
最初はシンプルな形から始まり、
少しずつ転回形へ、伴奏形へ、そして表現の幅へとつながっていきます。
だからこそ、昔の学びを大切にしながらも、“それだけではないかもしれない”
という柔らかな気持ちを持つことが、和音を楽しむ第一歩になるのです。
和音は、覚えるものというより、広がっていくもの。
そんなふうに感じながら、無理なく、楽しく学んでいただけたら嬉しく思います。


