大人ピアノ指導法:信頼をもたらす「看板・コース設定」
基本三和音「C・F・G」は、どう教えるとわかりやすいのか
〜中高年に伝わる、楽しく身につく教え方〜
ピアノ指導の中で、基本三和音である C・F・G をどのようにお伝えすると、中高年の方にわかりやすく、楽しく身につけていただけるのでしょうか。
Cは「ド・ミ・ソ」、Fは「ファ・ラ・ド」、Gは「ソ・シ・レ」。
もちろん、音だけをそのまま説明することはできます。けれども、ただ「これはドミソです」「これはファラドです」と伝えるだけでは、「ああ、そうですか」で終わってしまうことが少なくありません。
中高年の指導では、わかることと同時に、楽しいことがとても大切です。
ですから、3和音も「説明」だけではなく、イメージで伝えることがポイントになります。
「5・3・1」を、見てわかる形にする
まず私が大切にしているのは、5・3・1という指の形を、目で見てわかるようにすることです。
テキストに書いてあるだけでなく、できれば黒板やホワイトボードに、下から 5・3・1と書きながら、だんごのような丸いマークで示していきます。
特に一番下の「5」の指は大切ですから、ニ重丸にするなどして、目立つようにしておくとよいでしょう。
C・F・Gの和音は、左手のこの5の指をポイントとして考えると、とてもわかりやすくなります。
つまり、「手の形をそのまま保ったまま、小指の位置を移動する」という感覚です。
レッスンでは「シュー、カチャン」で伝える
実際のレッスンでは、私は次のようにお伝えしています。
まず、
「では皆さま、今日は左手の和音を練習しましょう」とお声がけをします。
そして、
「左手を出してください。猫の手のように、“にゃん”の形にしてみましょう」
と、まずは手の形をやわらかく作っていただきます。
その上で、
「5・3・1です」と、指のポジションを確認します。
ここで大切なのは、5の指、つまり小指の位置をしっかり意識していただくことです。
指を持って差し上げるときも、できれば内側から支えるようにします。外側から持ってしまうと、弾こうとしたときに自分の手が邪魔になり、見えづらくなってしまうからです。
形ができたら、まずCで
カチャン。
次に、そのまま小指をFへ
シュー、カチャン。
そしてGへ
シュー、カチャン。
この「シュー、カチャン」という言い方が、とても大切です。
まるでUFOキャッチャーのように、手の形を保ったまま、すっと移動して、ぽんと置く。
このイメージを持っていただくと、C・F・Gがぐっと身近になります。
しかも、この感覚が身につくと、やがてDマイナーやEマイナーなど、ほかの和音にも自然に応用できるようになります。
つまり、ただ音名を覚えるのではなく、和音のつかみ方そのものが身体に入ってくるのです。
中高年の指には、子どもとは違う配慮が必要
和音指導でもうひとつ大切なのは、中高年の手への配慮です。
子どもの手と違い、中高年の方、特に60代後半、70代になってくると、指の節が大きくなっていたり、長年よく働いてこられた手であったりして、思うように曲がりにくいことがあります。
このような手に対して、子どもと同じ感覚で「はい、5・3・1で弾いてください」とお伝えしても、無理が出てしまうことがあります。
たとえば、ド・ミ・ソを5・3・1で弾こうとしても、4の指が十分に上がらず、ミではなくレが一緒に鳴ってしまい、ド・レ・ミ・ソのようになってしまうことがあります。
ご本人は一生懸命に弾いておられるのに、思うように指が動かない。
これは決して努力不足ではなく、手の状態によるものです。
「正しく」よりも、「続けられる」ことを大切に
どうしても5・3・1が難しい場合には、4・2・1など、別の指使いで弾かれる方もいらっしゃいます。
そのような場合、私はあまり厳密にこだわりすぎないほうがよいと考えています。
もちろん、可能であれば5・3・1に挑戦していただきたい。
けれど、それは「できなければいけないもの」ではなく、ストレッチのつもりで取り組んでみるものとしてお伝えすると、ぐっと前向きに受け止めていただけます。
「もしよろしければ、ストレッチのつもりで5・3・1にも挑戦してみましょうか」
そうお伝えすると、生徒さんはとても安心されます。
最初はきれいなドミソにならなくてもいいのです。
少し余分な音が鳴っても、それもまたその方の一生懸命さのあらわれです。
時には、思いがけずやわらかく美しい響きになることさえあります。
大切なのは、無理なく、楽しく、挑戦を続けられること。
中高年のピアノでは、その視点がとても重要です。
指導は「できるようにすること」だけではない
中高年のピアノ指導では、単に弾けるようにするだけではなく、
「わかった」
「できた」
「楽しい」
という気持ちを積み重ねていくことが何より大切です。
基本3和音のC・F・Gも、ただ音の名前を伝えるだけではなく、
だんごマークで見える化すること、
5の指をポイントにすること、
“シュー、カチャン”というイメージで伝えること。
こうした工夫によって、ぐっと身につきやすくなります。
そしてもうひとつ忘れてはならないのが、手にはそれぞれの歴史があるということです。
長年がんばってこられた手だからこそ、思うようにいかないこともあります。
その手に寄り添いながら、少しずつ、できる形を見つけていく。
それが中高年のピアノ指導の大切な姿勢だと、私は思っています。


