岡山おもてなしエキスパート認定研修
ホスピタリティと「三方よし」
―相手だけではなく、自分も、組織も、社会も幸せにする仕事とは
ホスピタリティ&マナー・ラボ代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
これまでのコラムでは、
ホスピタリティの原点について、さまざまな角度からお伝えしてきました。
「愛」の反対について考えたコラムでは、相手の存在に気づき、関心を寄せること。
(よろしければご覧ください https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232177)
そして、「目配り・気配り・心配り」のコラムでは、
目配り=観察する
気配り=想像する
心配り=行動する
という、ホスピタリティが生まれるまでの流れについてお伝えしました。
(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232341)
では、そのホスピタリティは、誰に向けられるものなのでしょうか?
目の前のお客様や患者様を大切にすることは、もちろんです。
ですが、私はホスピタリティとは、単に「相手を喜ばせること」だけではないと考えています。
相手を大切にすることが、自分自身の喜びにつながる。
一緒に働く仲間を大切にすることが、より良い仕事につながる。
そして、その仕事が組織への信頼となり、地域や社会にも良い影響をもたらしていく。
そのようなつながりを考えたとき、思い浮かぶのが、近江商人の商いの精神として知られる、
「三方よし」
です。
今回は、「ホスピタリティ」と「三方よし」のつながりから、
**相手、自分、組織、そして社会へと広がっていく「よろこびの循環」**について考えてみたいと思います。
ホスピタリティにも通じる「三方よし」とは?
「三方よし」とは、
「売り手よし」
「買い手よし」
「世間よし」
という、江戸時代に活躍した近江商人の商いの精神を表す言葉として知られています。
売り手だけが利益を得るのではなく、
買い手にも喜んでもらい、
その商いが世間にとっても良いものであること。
つまり、
自分によし。
相手によし。
そして、周囲や社会にもよし。
という考え方です。
私は、この言葉に触れるたび、ホスピタリティにも通じるものがあるなぁと感じます。
私自身、ホスピタリティの原点として、
「よろこんでもらうよろこび」
という言葉を大切にしています。
相手に喜んでいただくことが、自分自身の喜びになる。
そして、その喜びが次の良い仕事につながっていく。
誰か一人だけが幸せになるのではなく、関わる人の間に「よし」が循環していく。
そこに、「三方よし」とホスピタリティが重なるように思うのです。
お客様を大切にするために、働く人も大切にする
私がANA全日空の客室乗務員(CA)として勤務していた頃のことです。
大阪―ロンドン線は、約14時間にわたる長時間のフライトでした。
メインのお食事サービスが終わった後も、
お客様の様子や機内の安全に目を配りながら、次のサービスの準備、
入国や税関に関わる多くの書類の作成、
機内免税品の販売、
お客様からのさまざまなご要望への応対、
トイレを含めた機内の清掃や美化など、
CAの仕事は次々と続きます。
そして何より、
お客様が目的地に到着し、無事に降機される最後の瞬間まで、
常に五感を働かせて機内の安全を守る
という大切な役割があります。
そのような中で、CAも交代で食事を取っていきます。
(食事はお客様と同じ機内食です。お客様の人数+CA数で搭載されるので、余った機内食をいただきます。例えばフィッシュ《お魚料理》かチキン《お肉料理》など、バランス良く残ることもあれば、どちらか一方だけが残ることも…)
私がエコノミークラスのパーサーを担当していたときは、
役割や経験年数などのバランスを考えながら、
誰がどの順番で食事に入るかを決めていました。
食事時間は、一人15分から20分ほどです。
特に新人や若手のCAは、
「先輩たちが働いているから、早く戻らなければ」
と、急いで食事を済ませ、早めに持ち場へ戻ってくることがありました。
だからこそ私は、
「急がなくていいから、ゆっくり味わって、よく噛んで食べてきてね」
と一人ひとりに声をかけていました。
正直に言えば、早く戻ってきてくれれば、もちろん助かります。
それでも、限られた時間だからこそ、
きちんと食事を取り、少しでも身体と心を休めてほしい。
そこには、
「あなたのことを大切に思っていますよ」
「あなたは大切なクルーの一員ですよ」
というクラスのパーサーとしてのクルーへの想いがありました。
「休息も仕事」―仲間を大切にすることがお客様にもつながる
CAにとって休息も仕事です。
万が一の緊急事態が起きたときには、
冷静に判断し、迅速かつ的確に行動し、お客様を安全に誘導しなければなりません。
そのためには、自分自身が心身ともに良い状態でいることが大切です。
もちろん、これは客室乗務員だけが特別に大変だということではありません。
医療や福祉、接客・サービス、製造、運輸、事務など、
どのお仕事にも、それぞれの忙しさや大変さがあります。
だからこそ、相手を大切にする仕事を続けるためには、
働く人自身も大切にされることが必要なのではないでしょうか。
お客様を大切にする。
患者様を大切にする。
そして、その方々を大切にするために、一緒に働く仲間を大切にする。
仲間を気遣う一言や、少し休める環境をつくることも、
巡り巡って、お客様へのより良いサービスや安全につながっていきます。
お客様のために働く人を大切にし、
働く人を大切にすることが、またお客様を大切にすることにつながっていく。
「買い手よし」と「売り手よし」は、どちらか一方ではなく、互いにつながっているのだと思います。
「よろこんでもらうよろこび」は、一方通行ではない
ホスピタリティは、相手だけが喜ぶ一方通行のものではありません。
相手が喜んでくださる。
その姿を見て、自分自身もうれしくなる。
「ありがとう」とおっしゃっていただくことで、
「この仕事をしていてよかった」
「また頑張ろう」
と思えることがあります。
相手の喜びが、自分自身の喜びや仕事への誇りにつながり、
その人が生き生きと働くことで、周囲にも良い影響が広がっていく。
私は、それを**「よろこびの循環」**だと思っています。
「買い手よし」が「売り手よし」につながり、
その「売り手よし」が、また次の「買い手よし」につながっていく。
三方よしは、三つの「よし」がそれぞれ別々に存在するのではなく、
つながり合っているのです。
「世間よし」―良い病院・クリニックが地域の安心につながる
そして、三つ目が、
「世間よし」
です。
私は、「サービスの健康診断」として、
さまざまな医療機関やサービスの現場で覆面調査を行っています。
その中で、接遇やサービスの評価が特に高いクリニックを訪れると、
スタッフの皆さまだけではなく、
待合室で過ごしている患者様方の表情まで穏やかだと感じることがあります。
患者様同士が笑顔で言葉を交わしたり、
リラックスして待ち時間を過ごしたり。
覆面調査員としてその場にいる私にも、
「このクリニックは、地域の方々にとって安心できる存在なのだろうな」
と感じられることがあります。
良いクリニックや病院が地域にあることは、
単に質の高い医療を受けられるということだけではありません。
「何かあったときには、ここで診てもらえる」
と思える信頼できる場所が身近にある。
そのこと自体が、地域で暮らす方々の安心につながっているのではないでしょうか。
これは医療機関に限りません。
良い福祉施設がある。
気持ちよく利用できるお店がある。
信頼できる企業やサービスがある。
そうした一つひとつが、
その地域で暮らす人の安心や満足につながり、
地域そのものの魅力にもなっていく。
目の前の一人を大切にする仕事が、その人だけで終わらず、
その良い影響が、まるで水面の波紋のように少しずつ優しく周囲へ広がっていく。
私は、さまざまな現場を訪れる中で、これも現代の「世間よし」の姿なのではないかと感じています。
地域から社会へ―今の時代の「世間よし」
そして現在、「世間よし」という視点は、地域だけにとどまらないでしょう。
SDGsが叫ばれる今、
環境への配慮や持続可能な社会を目指すことは、
企業や組織にとっても、すでに大切な前提の一つとなっています。
地球環境や限りある資源、そして次の世代のことまで考えながら事業を行う。
こうした考え方もまた、
「自分たちだけがよければよい」ではなく、 社会全体の「よし」を考えることにつながっています。
近江商人の時代とは、社会のあり方も大きく変わりました。
けれども、自分たちだけの「よし」ではなく、その先にいる人や社会、地球の「よし」まで考える。
地球温暖化や気候変動、それに伴う自然災害など、
私たちを取り巻く環境が大きく変化している今、
そんな「世間よし」の心は、現代を生きる私たちだからこそ、これまで以上に責任を持って大切にしていかなければならない仕事のあり方ではないでしょうか。
「三方よし」から考える、ホスピタリティ
今回、「三方よし」を通して、ホスピタリティについて考えてきました。
目の前のお客様や患者様を大切にすること。
一緒に働く仲間を大切にすること。
そして、自分たちの仕事が、地域や社会にどのようにつながっていくのかを考えること。
振り返ってみれば、
私が客室乗務員時代に仲間へかけていた一言も、
覆面調査で感じた地域のクリニックの温かな空気も、
一見まったく違う出来事のようでいて、そこには共通するものがあったように思います。
それは、目の前の人を大切にすることが、その人だけで終わらないということ。
誰かを思って行動したことが、その人の喜びや安心につながる。
その喜びが働く人の喜びとなり、より良い仕事につながる。
そして、その積み重ねが組織への信頼となり、やがて地域や社会へと広がっていく。
冒頭で、
「ホスピタリティを発揮するとき、誰の幸せを考えるのか」
という問いを投げかけました。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」。
三方よしという言葉は、その答えを一つに決めるのではなく、
自分だけでもなく、
相手だけでもなく、
関わる人たち、その先にある社会まで大切にするという視点
を私たちに教えてくれているように思います。
昔から伝わる「三方よし」を、今の自分の仕事に重ねてみる。
そうすると、いつもの仕事の中にも、
まだ気づいていない「よし」が見えてくるかもしれません。
皆さまのお仕事の中には、どのような「三方よし」があるでしょうか?
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
http://www.hospitality-m-l.com/
(3月台湾へ。利用させていただいたエバー航空さんの機内食です。おいしかった(^_^))
岡山を拠点に、岡山県内をはじめ、東京・大阪・兵庫・広島・香川・高知など、
中国・四国・関西エリアにおいて、
接遇マナー・ビジネスマナー・コミュニケーション研修の講師
ホスピタリティコンサルタントとして、接遇コンサルティングを務めております。


