「娘への手紙」
先日、本屋さんに行った時のこと。
そこは、1階が本屋さんと珈琲店、2階がCDやDVDのレンタル店といった大型店舗。
広い店内でお目当ての本が中々見つからず、店員さんに聞こうかなあ~と思っていたところ、
私の脇を、4~5歳くらいの女の子が、走り抜けて行った。
見るとその子は、消え入りそうな小さな声で 「おかあさん どこ?」 と言いながら、
今にも泣きだしそうな顔をしている。
「あ~迷子になっちゃったな~」 と思って見ていると、
私と同じように、その少女に視線を向けている人が、まわりに数人いた。
いずれも、私と同じくらいの女性だった。
どの人も 「今度自分のそばを少女が通ったら、声を掛けてあげよう」 と思っているように見えた。
なぜかというと、私も同じ気持ちだったからだ。
すると、その少女は、突然店の外に向かって走り出した。
「あ~、あの勢いで店の外に出たら危ない!」 と思い、声を掛けようとした瞬間、
一人の女性が、その子の前にまるで 「通せんぼ」 をするように両手を広げ、
その子を優しく抱きとめた。
「お母さんかしら?」 と思って見ていると、その女性は少女に向かって言った。
「お母さんが見つからないのね。でも、外に出てはダメ!」
「お母さんはお店の中にいると思うから、一緒に探しましょう!」
私は 「店員さんに頼んで、店内アナウンスをしてもらいましょう!」 と言って、
近くのレジの店員さんに声を掛けた。
店員さんと一緒に、その子のところに戻っていくと、ちょうど、お母さんが子供を見つけたところだった。
お母さんが見つかって安心したのだろう、その子は堰を切ったように大声で泣いていた。
「よかったわね。お母さんが見つかって」 と少女に声を掛ける女性に、お母さんは
「ありがとうございました。ありがとうございました」 と言いながら、何度も頭を下げた。
安心したようにその様子を見ていた周りの女性たちにも、お母さんはお礼を言った。
少女に 「通せんぼ」 をした女性は、私と目が合うとにっこり笑った。
私も笑いながら小さく頷いた。他の女性たちも、みな微笑んでいた。
「迷子の少女」 に気づいてから、無事にお母さんが見つかるまで、わずか5~6分の出来事だった。
外は木枯らしが吹いていたが、私の心は温かだった。