「新幹線の車中にて」 (下り編) その2
「サンタクロースの服はなぜ赤いの?」
この質問に、生活総合誌 「暮らしの手帖」 の創業者の大橋鎭子さんが、
エッセイ 「すてきなあなたに」 の中で、こんなステキな答えを残しています。
ご紹介しましょう。
「サンタクロースの服」
小さいとき、クリスマスが一日一日近づいてくると、どんなに胸をはずませたことでしょう。
「ほんとにくるの?」
「エントツがなくても入れるの?」
「起きて見ていちゃダメ?」
「どうして赤い服を着てるって知ってるの?」
しまいに、うるさくなった大人は、
「早く寝ないと、サンタさんは来ませんよ!」
そう言われると、びっくりして、ふとんをかぶり、いつしか眠ってしまいました。
北ヨーロッパの冬の訪れは早く、クリスマス近くの頃は、あらゆるものが灰色に沈んでゆきます。
もうじきクリスマスというある日のこと、しんと静まりかえったロンドンの公園で、
私は、忘れがたいものを見ました。
氷になった池には、まるで真珠のように、かもめが池に張り出た棒くいに並んでいます。
私はからっぽのベンチに座りました。
音のない灰色の風景が、私の前に広がっていました。
その時です。池の向うの岸を、赤いものがふたつとび出してきました。
真紅のオーバーにくるまった、5つと7つぐらいの姉妹・・・。
赤いコートには、一人前に白いベルトをしていて、そのベルトの白が、コートの赤をひきたたせ
ふわふわと、さも暖かそうに見せています。
よく見ると、その子たちは、靴下も白、ブーツも白。
グレイ一色の公園の中に、二つの真紅。その美しさを想像して頂けるでしょうか。
その時でした。
突然、サンタクロースが、なぜ赤い服を着ているのかが、わかった思いがしました。
雪と氷に閉ざされて、あらゆる色彩を失ってしまう、北ヨーロッパの冬のさなかに、
人はどうしても、太陽の色をうつした燃えるような真紅の色、それを迷わずにサンタクロースに着せた。
その気持ちが、今わかったような気がしました。
この冬景色のなかに、やはり一点色をおくとすれば、それは赤よりないのです。
トナカイに乗ってサンタクロースは、今年も真紅の服を着て、北の国からやって来る。
いくら大人になっても、まだ私の心のどこかで、サンタクロースのいることを
信じていたい気持ちがのこっています。 (暮らしの手帖版「すてきなあなたに」より 抜粋)
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私が大橋さんのエッセイに出会ったのは、今から30年近く前のことです。
当時、初めて担当したラジオ番組の生放送で、オープニングの1分間のフリートークを考える時に、
季節の話題や日常の出来事への目のむけ方などをこの 「すてきなあなたに」 から、
たくさん学ばせて頂きました。
大橋さんの、物事に対する優しく温かい眼差しが、私は大好きで
これまで、朗読会などでもその作品を読ませて頂きました。
現在も、毎週水曜日にラジオ3で放送している私の番組でも、
大橋さんの 「すてきなあなたに」 を朗読しています。
これからも折に触れて大橋さんの作品を紹介していきたいと思っています。
大橋鎭子さんは2013年の3月に、93歳で亡くなりましたが、
来年4月から、大橋鎭子さんの生涯をモチーフにしたドラマ 「とと姉ちゃん」 が、
NHK の連続テレビ小説でスタートします。今から楽しみです!