40代女性「検査では異常なし」と言われた腰痛としびれ|4回の鍼灸施術例
人前に出るとお腹が張るという悩み
外出先や人前に立つ場面になると、お腹が張ってガスがたまり、お腹が鳴ってしまう。そんな悩みを長く抱えている方は、決して少なくありません。緊張する場面ほど症状が強く出て、逆に自宅で一人で過ごしているときは比較的落ち着いている。そうした特徴に心当たりがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私のもとにも、中学3年生の頃からこの悩みを抱え続けてきた20代の男性が来院されました。これまで医療機関を受診し、整腸薬や漢方薬の処方を受けてきたほか、高校時代には専門的な検査のうえで過敏性腸症候群という診断を受け、薬を服用していた時期もあったといいます。
しかし、それでも十分な変化は得られず、数年が経っても外出時や人前でのお腹の症状という悩みは続いていました。
就職を控えていたこの方には、これから始まる生活への期待とともに、症状への不安も大きくなっていたようです。県外への転居も決まっており、生活環境が大きく変わろうとする時期でもありました。
周囲に相談しづらいまま一人で抱え続けてきたこの悩みに、区切りをつけたいという気持ちもあったのだと思います。Webでの情報をきっかけに、薬による対応だけでなく、体質そのものと向き合う方法を探して来院されたと伺いました。何年も付き合ってきた症状だけに、当院を選ぶまでにも迷いがあったのではないかと想像しています。
症状そのものより、外出への不安が大きな負担に
お話を伺う中で強く感じたのは、お腹の症状そのものよりも、「外出すると症状が出るのではないか」という不安のほうが、この方にとって大きな負担になっていたということです。
ガスや腹部の張り、お腹が鳴ることへの気がかりが人前に出る緊張をさらに強め、その緊張がまた症状を強めるという流れが続いていました。
学生時代の人間関係でつらい経験があったことも、背景として考えられました。それ以来、自分の気持ちを人前で表現することが苦手になり、心理的な緊張が長期間にわたって続いていたようです。悩みを人に相談すること自体にも、ためらいがあったのではないかと想像しています。
就職を控えて新しい生活が始まろうとする時期でもあり、就寝が午前2時頃と不規則な生活や食事の偏りも重なっていました。生活リズムの乱れは自律神経に負担をかけやすく、症状の背景の一つとして無視できない要素だと私は考えています。
不安と生活習慣の乱れが重なり合い、悪循環から抜け出しにくい状態になっていたのでしょう。緊張しやすい場面を避けようとすればするほど、かえって意識が症状に向いてしまう。そうした面もあったのではないかと感じました。
症状への不安が新たな緊張を生み、その緊張がまた症状につながるという流れを、ご本人も薄々感じていたのかもしれません。一つの悩みが別の悩みを呼び込んでしまう状態から、どうにか抜け出したいという思いを強く受け取りました。
お腹だけでなく全身の緊張に目を向けた問診
初回は30分ほど時間をかけ、今の症状だけでなく、睡眠や食事の内容、中学時代からの経過、人との関わりの中で感じてきたストレスについても丁寧にお話を伺いました。
当院では、施術を始める前にこうした問診とカウンセリングを重視しており、体の状態を図解を交えて説明したうえで、納得していただいてから施術に進むようにしています。いきなり施術に入ることはありません。
体を拝見すると、お腹全体の強い緊張に加えて、ふくらはぎの筋肉の緊張、脈拍の増加、体全体にわたる緊張状態が見受けられました。こうした所見から、緊張する場面で交感神経が優位に働きやすく、それが腸の動きにも影響している状態ではないかと考えました。
そこで、お腹という一部分だけを見るのではなく、全身の緊張や自律神経のバランスに働きかけることを目的に、鍼灸による施術の方針を立てることにしました。局所への刺激だけに頼らず、体全体を診るという当院の考え方を、この方にも当てはめて計画を立てています。
問診を通じて、この方自身も自分の緊張の強さに改めて気づかれた様子でした。長年当たり前だと思っていた体の緊張に、初めて目を向ける機会になったのではないかと感じています。
全身の緊張をゆるめることを目的にした施術
施術では、お腹への刺激だけに偏らず、全身の緊張をゆるめることを目的とした鍼灸を行いました。2回目も同じ方針で施術を継続し、体の反応を確認しながら刺激の強さを調整しています。3回目の施術のあと、新しい仕事のために県外へ移ることが決まっていたため、そこで一区切りとしています。
初回の施術のあと、大量の排便があったと報告をいただきました。もっとも、施術は全部で3回にとどまり、本来であれば数か月かけて少しずつ体質と向き合っていく計画だったため、継続できなかったことは私自身も残念に思っています。短い期間での関わりだったため、施術の効果を評価できる段階には至っていないというのが実際のところです。おからだの反応がよかっただけに残念でした。
体質と向き合うには、本来もっと時間をかけた継続的な関わりが必要だと私は考えています。
限られた回数の中でも、この方は不安を抱えながら、新しい仕事を前向きな気持ちで迎えようとしていました。そうした姿が、今も印象に残っています。体の状態だけでなく、これから始まる生活に向き合おうとする気持ちの変化も、私にとっては大切な手がかりの一つでした。
継続して関われなかったことは心残りですが、短い期間の中でもご本人なりに前を向こうとされていた。そのことが、私にとっても励みになりました。新しい環境でも、ご自身の体と上手に付き合っていってほしいと願っています。
同じ悩みを抱える方へ伝えたいこと
こうしたお腹の不調は、お腹だけの問題として片づけられるものではないというのが、私の考えです。ストレスや睡眠不足、生活習慣の乱れ(特に食生活の乱れ)、自律神経のバランスなど、さまざまな要因が絡み合っていることが少なくありません。検査で大きな異常が見つからなかったとしても、日々感じているつらさがなくなるわけではないはずです。
鍼灸による施術は、お腹だけでなく全身の緊張や自律神経のバランスに働きかけることを目的として行うものであり、体質の変化そのものを保証するものではありません。それでも、薬による対応だけでは十分な変化を感じられずにいる方にとって、体全体を整えるという視点は、選択肢の一つになり得ると私は考えています。
長く一人で悩みを抱えている方には、まず医療機関で相談し、適切な診断や検査を受けていただきたいと思います。そのうえで、こうした視点も知っていただけたら幸いです。
当院では、施術に入る前の問診とカウンセリングに時間をかけ、体の状態を一緒に確認しながら進めることを大切にしています。外出先での症状に不安を感じてきた方にとって、体全体の状態に目を向けてみることが、悩みと向き合う一歩になると、私は考えています。
まとめ
外出時に強まるお腹の不調は、お腹だけでなく心と体全体のバランスと関わっていることが少なくないと、私は感じています。まずは医療機関で診断を受けたうえで、体全体を整える視点も選択肢に加えていただければと思います。
・外出先や人前に立つ場面でお腹の張りやガス、腹鳴が気になる方
・医療機関を受診したものの、十分な変化を感じられずにいる方
・薬による対応だけでなく、生活習慣や体質から見直したいと考えている方
お問い合わせはこちら:トキの森鍼灸院ホームページ
※注記
本コラムで紹介した症例は、患者様の同意を得たうえで、個人が特定されないよう一部内容を変更して掲載しています。施術の結果には個人差があり、同様の変化を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、まず医療機関で適切な診断・検査を受けたうえで、鍼灸施術の利用をご検討ください。


