産後の腰痛が抱っこで悪化、広背筋に着目した鍼灸施術例
反ると痛い腰痛と肩の痛み、仕事中の姿勢が影響していた鍼灸症例
「体を後ろへ反らしたときだけ、腰が痛む。朝、布団の中で伸びをすると、特に強く響く」。こんな腰痛を抱えて当院に来られた方がいらっしゃいました。
一日中つらくて仕事にならない、という状態ではありませんでしたが、「普段は大丈夫なのに、ある動きをすると痛い」という状態が、数か月続いていたそうです。鍼灸を受けるのは、このときが初めてとのことでした。
今回は、2025年に当院で経過を追った一つの症例をもとに、私が何を見て、施術の内容をどう変えていったのかをお話しします。
反ると痛い腰痛と、肩を回したときの痛み
この方は38歳の男性で、飲食店のフロア業務に従事されていました。腰痛が始まったのは2024年の夏ごろ。じっとしているときはそれほど痛まないのに、体を後ろへ反らすと痛みが出て、特に朝起きて伸びをするときに強い痛みを感じていました。
発症してから徐々に悪くなっているように感じていたことも、ご本人にとっては不安材料でした。
肩のほうは、通常の生活では大きな支障はありませんでしたが、肩を内側や後ろへ回す特定の動作で痛みが出る。入浴中、肩甲骨のあたりを洗おうとして腕を回した際に、上腕の後ろ側に痛みを感じていたそうです。
ずっと痛いわけではないけれど、ある動きをすると痛い、といった状態が数か月続き、腰は当初より悪くなっている感覚があり、肩にも新しい症状が出てきていました。
こうした「特定の動作だけで痛む」症状は、日常生活への支障が比較的小さいぶん、そのままにされやすいものです。ただ私は、これは体の使い方を見直すきっかけになる、大事なサインでもあると考えています。
痛む場所ではなく、仕事中の体の使い方を見る
実はこのとき、私が確認していたのは、痛みの出ている場所そのものだけではありませんでした。
初診時に姿勢や動作、筋肉の状態を確認すると、安静にうつ伏せになっている状態でも、腰方形筋、三角筋後部線維、上腕三頭筋に筋緊張が認められました。
腰方形筋とは、骨盤と肋骨をつなぎ、姿勢の保持や体を横へ曲げる・反らすといった動きに関係する、腰の深部の筋肉のことです。三角筋後部線維は肩の後ろ側、上腕三頭筋は二の腕の後ろ側にある筋肉で、いずれも腕や肩を動かす際に働きます。
そこで、お仕事中の動きを詳しく伺いました。この方の場合、左手でトレーを持つ、右手で配膳する、右足に体重をかける、という動作を繰り返していらっしゃいました。
左右で役割がはっきり分かれた動作を一日に何度も繰り返し、その積み重ねによって、特定の筋肉へ負担が蓄積している可能性を考えました。
私が大切にしているのは、痛む場所だけを見て終わらせないことです。同じ「腰が痛い」でも、どんな動きで痛むのか、仕事中はどんな姿勢でいるのかによって、確認すべき筋肉は変わってきます。
肩が先に落ち着き、施術の重点を腰へ移した
初回は緊張している筋肉を中心に鍼を行い、まずは筋緊張をやわらげることを目標としました。施術直後の確認では、症状の軽減がみられました。
2診目も経過は良好でしたので、基本的な施術方針はそのまま継続しています。
3診目になると、肩関節後面の痛みとつっぱり感はみられなくなりました。一方、腰については、体を最大まで後ろへ反らしたときの痛みが残っていました。そこで、施術の重点を肩から腰へ移していきました。
4診目には右の腰痛も軽減してきたため、腰部への施術に加えて、脾兪・腎兪など腰背部のツボへのお灸と、大殿筋というお尻の大きな筋肉の緊張をゆるめる施術を追加しました。
腰が痛いからといって、腰だけを触り続けるとは限りません。骨盤のまわりまで含めて範囲を広げたほうがよい段階もある、というのが私の見方です。
最後に残った後屈時痛と、腰方形筋への置鍼
5診目の時点で痛みが残っていたのは、後屈の動作でした。
肩の痛みはなく、腰を反らした際の軽い痛みだけ。そこで、腰方形筋の起始部から停止部まで、筋肉の走行に沿って置鍼しました。置鍼とは、鍼を刺したあとすぐに抜かず、一定時間そのまま置いて刺激する方法のことです。
施術後にあらためて体を後ろへ反らして確認したところ、後屈時の動作痛はみられませんでした。
初診は2025年1月25日、最後の施術は3月18日。約2か月のあいだに5回の施術を行った経過です。
肩と腰が同じタイミングで変化したのではなく、肩が先に落ち着き、そのあとに腰の症状が段階的に軽くなっていった。この順番が、私にとっては印象に残っています。
※ここでご紹介したのは一症例の経過であり、同じような症状の方に同様の変化をお約束するものではありません。施術の回数や経過には個人差があります。
その時点で残っている症状に合わせて変える
この症例で私が特に意識していたのは、とてもシンプルなことでした。最初から最後まで、同じ場所に同じ施術を続けなかった、それだけです。
初期は腰と肩の両方に対応し、肩が先に落ち着いた時点で腰中心へ。腰の痛みが残る段階では大殿筋など骨盤周囲まで範囲を広げ、最後に残った「最大まで反らしたときだけ痛む」という症状には、腰方形筋の走行を確認しながら部位を絞りました。
その時々で残っている症状を確認しながら施術内容を少しずつ変えていくという、いわば当たり前のことかもしれませんが、これを毎回きちんと行うかどうかで、経過の追い方は変わってくると私は思っています。
腰痛というと「腰そのものが悪い」、肩が痛ければ「肩そのものが悪い」と考えがちですが、実際の生活では、仕事中の姿勢、左右どちらの手をよく使うか、どちらの足に体重を乗せるかなど、毎日繰り返している何気ない動作が筋肉への負担に関係していることがあります。
「普段は痛くないけれど反ると痛い」「朝の伸びで腰が痛い」「腕を後ろへ回したときだけ肩が痛い」。こうした症状が長く続いている場合には、痛い場所だけでなく、姿勢や仕事中の体の使い方まで含めて確認することが大切だと考えています。
※なお、痛みが続く場合や悪化する場合、しびれ・筋力低下などをともなう場合には、鍼灸院だけで判断せず、医療機関での評価を受けることが重要です。
まとめ
「反ると痛い」「回すと痛い」という症状は、痛む場所だけでなく、毎日繰り返している体の使い方まで含めて確認することで、見直せる余地があると私は考えています。
・体を反らしたとき、腕を回したときなど、特定の動作でだけ痛みが出る方
・同じ症状が数か月続き、少しずつ悪くなっている感覚のある方
・仕事中の姿勢や体の使い方が痛みに関係しているのか、一度整理したい方
金沢市北安江のトキの森鍼灸院では、初診時にまず約30分かけてお話を伺い、今の体の状態と施術の見通しをご説明してから施術に入ります。
今回の方のように、鍼灸を受けるのは初めてという方もいらっしゃいます。その日の状態を確認しながら進めていきますので、気になる症状があれば、まずはお気軽にご相談ください。


