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「最近、疲れやすい・肩がこる・寒がりになった」
その不調、更年期だけではないかもしれません
40代、50代の女性から、
「最近とにかく疲れやすい」
「肩や首がずっとこっている」
「動悸がすることがある」
「急に汗が出る」
「眠りが浅くなった」
「以前より寒がりになった」
「便秘やむくみが気になる」
「体重が増えた、あるいは減ってきた」
というお話を聞くことがあります。
この年代でこうした症状が出ると、まず思い浮かぶのが「更年期」ではないでしょうか。
もちろん更年期に伴って、このような症状が現れることは珍しくありません。
しかし、実はよく似た症状を起こす病気があります。
その一つが甲状腺の病気です。
特に40〜50代の女性では、更年期症状と甲状腺疾患の症状が重なることがあります。
そのため、
「この年齢だから更年期でしょう」
と決めつけないことが大切です。
甲状腺はどこにある?

甲状腺は、のどぼとけの少し下にある小さな臓器です。
蝶が羽を広げたような形をしており、「甲状腺ホルモン」を分泌しています。
甲状腺ホルモンは、私たちの体のエネルギー代謝や体温、心拍、消化など、さまざまな働きに関係しています。
そのため、甲状腺ホルモンが多すぎても、少なすぎても、全身にさまざまな症状が現れます。
「甲状腺腫大」とは病名ではありません

甲状腺が通常より大きくなっている状態を「甲状腺腫」あるいは「甲状腺腫大」と呼びます。
ここで大切なのは、
甲状腺腫大=一つの病気ではない
ということです。
甲状腺全体が大きくなる場合もあれば、一部分に結節、いわゆる「しこり」ができて大きく見えることもあります。
その背景には、
・橋本病(慢性甲状腺炎)
・バセドウ病
・甲状腺炎
・腺腫様甲状腺腫
・良性の甲状腺腫瘍
・甲状腺がん
など、さまざまな病気があります。
甲状腺の結節自体は決して珍しいものではなく、超音波検査をすると小さな結節が偶然発見されることもあります。
ですから、首が少し腫れているからといって必要以上に怖がる必要はありません。
しかし反対に、自己判断で放置するのもおすすめできません。
まず医療機関で「なぜ腫れているのか」を確認することが大切です。
更年期障害と甲状腺の病気は、こんなに症状が似ています
例えば、更年期では、
・ほてり
・発汗
・動悸
・疲労感
・不眠
・イライラ
・不安感
・肩こり
・頭痛
など、さまざまな症状がみられます。
ところが甲状腺ホルモンが過剰になる場合にも、
・動悸
・汗をかきやすい
・暑がり
・手が震える
・体重が減る
・疲れやすい
・落ち着かない
・眠れない
といった症状が現れることがあります。
反対に甲状腺機能が低下すると、
・疲れやすい
・寒がり
・便秘
・むくみ
・体重増加
・眠気
・気力が出ない
・声がかすれる
などがみられます。
つまり、
「疲れる・眠れない・動悸がする・汗をかく」
という症状だけを見て、更年期なのか甲状腺の問題なのかを判断することは難しいのです。
「更年期かな?」と思っていても、こんな変化には注意
症状だけで自己判断することはできませんが、私が鍼灸院で特に気をつけたいのは、
・首の前側が以前より腫れている
・首にしこりを感じる
・安静にしていても動悸が続く
・手の震えが目立つ
・食事量が変わらないのに体重が大きく減った
・反対に体重増加、むくみ、強い寒がりが目立つ
・疲労感が以前とは明らかに違う
・声がかすれる
といった変化です。
「更年期だから仕方がない」
「年齢のせいだろう」
と考えてしまいがちですが、こうした場合には一度医療機関で相談することをおすすめします。
更年期と甲状腺疾患はどうやって区別するの?
ここが大切です。
鍼灸院で症状だけから「これは更年期」「これは甲状腺」と診断することはできません。
医療機関では、症状や首の状態などを確認したうえで、必要に応じて血液検査を行います。
代表的な検査には、
・TSH
・FT4(遊離T4)
・FT3(遊離T3)
などがあります。
さらに必要に応じて甲状腺に関連する自己抗体を調べたり、超音波検査で甲状腺の大きさや内部の状態、結節の有無などを確認したりします。
結節が見つかり、悪性が疑われる場合には、細い針で細胞を採取する「穿刺吸引細胞診」などが検討されます。
甲状腺の「しこり」は珍しいものではありません
「甲状腺にしこりがあります」
と言われると、多くの方はがんを心配されると思います。
しかし、甲状腺の結節には良性のものもたくさんあります。
日本内分泌学会によると、触診による甲状腺腫瘍の発見率は0.78~1.87%ですが、超音波検査をすると6.9~31.6%まで上がるとされています。
つまり超音波で詳しく調べれば、自覚症状のない小さな結節が見つかることも珍しくありません。
良性と判断されれば治療をせず経過観察になることもあります。
一方で、大きくなってくる場合や悪性が疑われる場合などには、さらに詳しい検査や治療が必要になります。
大切なのは、
「しこりがある=がん」と考えることでも、「症状がない=大丈夫」と考えることでもなく、医療機関できちんと確認することです。
日常生活で気をつけることは?
甲状腺疾患がある場合の日常生活上の注意点は、病気の種類や甲状腺機能の状態によって異なります。
そのため自己流の食事療法を始めるより、まず主治医の指示に従うことが基本です。
特に日本人は海藻類からヨウ素を摂取する機会が多いため、甲状腺疾患があるからといって海藻をすべて禁止する必要はありませんが、昆布などヨウ素を多く含む食品を極端に大量摂取することは避けたほうがよい場合があります。
健康食品やサプリメントにもヨウ素が含まれている場合がありますので、甲状腺疾患を指摘されている方は医師に相談してください。
そして何より、
「年齢だから」「更年期だから」と体調の変化をすべて片づけてしまわないこと
が大切だと思います。
鍼灸院では甲状腺をどう考えるの?
私は甲状腺の腫れが疑われる方が来院された場合、
「甲状腺を鍼灸で治しましょう」
とは考えません。
まず医療機関を受診していただき、原因を調べてもらうことを優先します。
そして病院で必要な治療や経過観察を受けながら、
・肩こり
・首や背中の筋肉の緊張
・睡眠の問題
・疲労感などに伴う生活上のつらさ
といった、その方のQOL(日常生活の質)を低下させている症状について、鍼灸がお手伝いできることを考えていきます。
病院か鍼灸かという二者択一ではありません。
病気の診断・治療は医療機関で。
日常生活をつらくしている症状には、必要に応じて鍼灸も併用する。
それが私の基本的な考え方です。
【症例】「更年期だと思っていた」50代女性
50代女性。
数年前から肩こりがありましたが、最近になって疲労感や首こりが強くなり、
「最近は疲れやすくて、仕事が終わると何もしたくない」
とのことで来院されました。
そのほか、
「寒さに弱くなった」
「便秘気味になった」
「少し体重が増えた」
「眠っても疲れが取れない」
といった症状もありました。
ご本人は、
「年齢的に更年期だと思います」
と話されていました。
ところが首や肩の状態を確認していると、首の前側、甲状腺のあたりが少し腫れているように見えました。
本人は気づいていませんでした。
そこで、
「肩や首については鍼灸で対応できます。ただ、この首の腫れについては、更年期だけと考えず、一度病院で甲状腺を調べてもらいましょう」
とお伝えしました。
医療機関で血液検査と超音波検査を受けた結果、橋本病(慢性甲状腺炎)が確認されました。
甲状腺機能については医師のもとで定期的に検査しながら経過観察することになりました。
その後、鍼灸院では甲状腺そのものを施術対象とするのではなく、以前から困っていた肩こりや首・背中の緊張、睡眠などを中心に施術しました。
施術を重ねる中で、
「肩の重さが以前より気にならなくなった」
「眠りやすい日が増えた」
「仕事の後に少し余裕が出てきた」
など、日常生活上の変化がみられました。
甲状腺については、引き続き医療機関で経過をみています。
「更年期だから」で終わらせないことも大切です
40代、50代になると、
「疲れるのは年齢のせい」
「汗が出るのは更年期」
「肩がこるのは仕事のせい」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、本当に更年期に伴う症状であることもあります。
しかし、その中に甲状腺をはじめ、医療機関で確認しておいたほうがよい病気が隠れていることもあります。
鍼灸師の役割は、すべての症状を鍼灸で何とかすることではないと私は考えています。
身体を丁寧に観察し、医療機関で調べる必要があるものに気づいたら、適切な医療につなげる。
そして病院での診断や治療を受けながら、肩こりや睡眠など日常生活をつらくしている症状については、鍼灸でできることを考えていく。
「医療と鍼灸、どちらか」ではなく、
医療と鍼灸を上手に併用しながら、その方の日常生活を支えていく。
トキの森鍼灸院では、そのような施術を大切にしています。


