コロナ後遺症による熟眠障害と多夢が徐々に改善した一例
妊活のなかで、妊娠しても流産を経験することがあります。妊活中の鍼灸で私が向き合ってきたのは、身体の状態だけではありませんでした。
当院に来られた38歳の女性は、妊活を始めて約一年の間に2回の流産を経験されていました。1回目は妊娠8週、2回目は胎嚢を確認したあとの6週です。病院では詳しい検査を受けながら、血液検査や黄体ホルモンの補充などの医療を継続しておられました。
このコラムでは、その方に妊活期から出産前までの約一年、30回にわたって行った施術の内容を、時期ごとにお伝えします。妊活中や妊娠中の鍼灸で実際に何をしているのかが、少しでも具体的に伝わればと思います。
2度の流産を経て、妊活中の身体を整えるところから
最初にお伝えしておきたいことがあります。このような経過は、鍼灸院だけで判断したり対応したりするものではありません。
この方も、病院での検査と医療を続けることを前提に来院されました。ご本人は病院の漢方外来でも診察を受けており、医療機関での診療を大切にしながら鍼灸や漢方を併用することに理解のある方でした。当院でも、病院での検査や医療を優先し、それを補う形で鍼灸を行う方針を最初に共有しています。
初診は2024年の秋でした。目的は、妊活中の身体のコンディションを整えることです。手足の冷えがあり、特に就寝時に足の冷えを感じておられました。以前から左の腰から脚にかけての張りや痛みも感じておられました。
東洋医学では、こうした状態を「気滞血瘀(きたいけつお)」と考えます。気滞血瘀とは、ストレスや緊張などによって「気」の巡りが滞り、それにともなって「血」の巡りも悪くなっている状態のことです。
施術は、冷えと身体の緊張への対応から始めました。鍼とお灸を組み合わせ、下肢のツボを使い、ご自宅でも脚のツボへのお灸を続けてもらいました。
腰から脚にかけての張りには、当初は鍼に弱い電気を流す方法を用いました。刺した鍼に弱い電気を流し、筋肉の緊張や痛みに働きかける方法です。状態が落ち着いてきた時点でこれを中止し、臀部の筋肉へのリリースと持続圧迫に切り替えました。
人工授精の時期には、下腿内側への置鍼や、足のツボへのお灸を加えています。何をするかは、その日の身体を確認してから決めていました。
妊娠がわかってから施術で変えたこと
2025年4月、妊娠検査薬が陽性となりました。ここから先は「妊活のための施術」ではなく「妊娠中の体調管理」です。同じ方の身体でも、施術の目的が変われば、使う刺激の量も選ぶツボも変わります。
このときご本人の中で強かったのは、喜びよりも不安のほうだったようです。過去に2度の流産を経験しているため、陽性が出たからといってすぐに安心できるわけではありません。胎嚢が確認できるか、心拍が確認できるか、過去と同じ経過にならないか。妊娠初期は、とても神経質になっておられました。
そこで刺激量を減らし、自律神経の安定と、リラックスして過ごしていただくことを目的とした穏やかな施術を中心にしました。頭部や顔面への軽い鍼も取り入れています。施術中によく眠っておられたことが、今も印象に残っています。
その後、胎児の心拍が確認され、病院での検査も継続されました。検査の結果を待つ時期もありましたが、そのあいだ私にできるのは、その日の身体を整えることと、待つ時間を少しでも穏やかに過ごしていただくことでした。
妊活から妊娠初期にかけては、「結果を待つ時間をどう過ごすか」も課題になります。この症例では、そこが身体の問題と同じくらい大きなテーマでした。
妊娠中期に増える臀部痛と肩背部痛への対応
妊娠が進むと、身体の悩みそのものが変わっていきます。左の臀部痛が再び出てきたときには、ストレッチと持続圧迫で対応しました。妊娠19週ごろには、左側を下にして眠ることが増えたことで、左肩から背中にかけて痛みが出ています。
このとき行ったのは、妊娠そのものに対する施術ではなく、姿勢の変化によって負担がかかった筋肉への対応です。妊娠中に出てくる痛みには、妊娠にともなう身体の変化が背景にあるものと、寝方や姿勢といった生活の変化から来ているものがあります。どちらとして見るかで、触れる場所は変わります。
またお腹が大きくなるにつれて、仰向けの姿勢そのものが負担になってきました。そこで仰臥位だけでなく、左右の側臥位、つまり横向きでの施術を取り入れています。
妊娠後期に増える脚のつらさへの対応
後期に入ると、また別の悩みが出てきました。胎児の成長にともない、左脚から臀部にかけての張りや、脚がつるようなつらさが強くなりましたので、左臀部への置鍼に加えて、下肢のツボを使っています。必要に応じて、皮膚に貼り付けて穏やかな刺激を持続させるタイプの鍼も使用しました。
このころ、便が細くなって排便しにくいという訴えもありました。胎児の成長による圧迫の影響も考えられましたが、私はここで鍼灸だけで判断しないことにしました。出産後も続くようであれば医療機関で大腸内視鏡検査を受けていただく、と決めたうえで経過をみています。
妊娠中の不調は、妊娠のせいだと片づけてしまえる分だけ、見落としが起こりやすいと考えています。鍼灸院で対応する範囲と、病院で確認していただく範囲を先に分けておくことは、私が妊娠中の施術で必ず決めていることの一つです。
一年間、同じ施術は一度も繰り返さなかった理由
この症例で最も重視したのは、約一年のあいだ、同じ施術を繰り返さなかったことです。
妊活中と妊娠成立後では目的が違います。妊娠初期・中期・後期でも、身体の状態は大きく変わります。実際には、次のように内容を変えていきました。
妊活期:冷えと下肢の張りへの対応
妊娠初期:刺激量を減らし、不安や緊張への対応
妊娠中期:臀部痛や肩背部痛など身体の変化への対応
妊娠後期:脚のつらさやつりへの対応
姿勢も同じです。妊娠が進んでからは仰向けにこだわらず、横向きなど楽な姿勢で施術しました。お灸も、体調や部位に合わせて台座灸の硬さを使い分け、刺激量を調整しています。細かいことのようですが、この積み重ねが一年間続けられるかどうかを分けると考えています。
妊活中はどうしても「妊娠すること」だけに目が向きがちです。ただ私は、その期間を少しでも穏やかに過ごせる身体を整えることも、同じくらい大切だと考えています。妊娠後も、腰痛、臀部痛、肩こり、脚のつりと、週数によって悩みは移り変わっていきます。
病院の医療を第一に、鍼灸は体調管理の一つとして
妊娠の経過にはさまざまな背景があり、まずは産婦人科など医療機関で適切な検査と診断を受けることが何より大切です。この症例も、鍼灸だけで妊娠の成立や継続を目指したものではありません。
病院での医療を受け、人工授精や妊娠後の検査・管理を継続されたうえで、鍼灸では冷え、痛み、身体の緊張、妊娠にともなう筋肉の負担などに対応してきました。
そして2025年11月、30回目の施術をもって産前の鍼灸施術を終了しました。その後、無事に出産されたと伺っています。長く経過を見てきた施術者として、うれしい知らせでした。
ただしこの経過は、鍼灸によって妊娠や出産がもたらされたということではありません。病院での医療を受けながら、その時々の身体を整えていった1年間の記録です。なお、本症例は一個人の経過であり、同じ変化を保証するものではありません。
妊活中や妊娠中の身体のことで気になることがあれば、金沢市北安江のトキの森鍼灸院までご相談ください。初診では約30分かけてお話を伺い、今の身体の状態と施術の進め方をご説明してから施術に入ります。
施術内容や「初めての方」コースの詳細は、当院ホームページと施術ページ施術ページをご覧ください。
まとめ
妊活も妊娠も、身体は同じ状態のまま止まっていてはくれません。だからこそ鍼灸も、その時々の身体に合わせて変えていくものだと私は考えています。
・妊活中の冷えや身体の緊張が気になっている方
・病院の医療と併用できる体調管理の方法を探している方
・妊娠中の腰痛・臀部痛・脚のつりに悩んでいる方
ご相談・ご予約は、トキの森鍼灸院公式サイトからお願いします。


