40代女性「検査では異常なし」と言われた腰痛としびれ|4回の鍼灸施術例
「抱っこをしていないと寝てくれないんです」。育児中の方から、そんなお話を伺うことがあります。体重が10キロ近くなったお子さんを一日に何度も抱き上げ、前かがみでおむつを替え、洗い物をする。産後の腰痛は「そのうち良くなる」と言われがちですが、育児中は休みたくても休めません。
今回は、当院で担当した、産後の腰痛に鍼灸で向き合った一例をご紹介します。ご本人の同意をいただいたうえで、経過をたどりながらお話しします。
「朝起きる時が一番つらい」という腰痛
この方は36歳の女性で、育休中のお母さんとして10か月、体重およそ10キロの男の子を育てておられました。腰痛そのものは出産前からありましたが、育児が始まって抱っこや前かがみの姿勢が増えると、痛みはみるみる悪化していったそうです。
加えて首や肩のこり、右肩の前側の痛み、左膝の痛み、左足首の痛みまで重なり、体のあちこちに不調を抱えた状態でした。中でも一番つらいのは腰で、朝起きる時が最も痛く、前かがみになる動作や体をひねる動作でも痛みが出ていました。
しかし、お子さんは抱っこでないと寝てくれず、長い時間抱き続ける毎日。痛くても抱っこや家事をやめるわけにはいかず、無理を重ねるしかありませんでした。
接骨院には約半年通われていましたが、その場では楽になるけれど、根本的に変わった感じがしない、レントゲンでも異常は見つからない。「異常なしと言われたけれど痛い」という、慢性的な筋肉由来の腰痛によくみられる状態でした。
そんな中で当院ホームページをご覧になり、ご主人の勧めもあって、初めて鍼灸を受けに来られました。
検査で異常なしと言われた腰痛の背景
当院では、いきなり鍼をすることはしません。まず理学検査を行い、どの動作で痛みが出るのか、どの筋肉がどう硬くなっているのかを確認するところから始めます。
腰では仙腸関節の周囲と腰部多裂筋に圧痛がありました。腰部多裂筋とは、背骨のすぐ横にあって腰椎を一つずつ安定させている深層の筋肉のことです。さらに、肩を上げる動作でも腰の痛みが誘発されました。腰だけの問題ではないと考えた根拠が、ここにあります。
東洋医学的には「気滞血瘀(きたいけつお)」ととらえました。気滞血瘀とは、疲労やストレスによって気や血液の巡りが滞り、筋肉の緊張や痛みが長引いている状態を指します。育児による睡眠不足と疲労の蓄積が、そのまま体に表れていた形です。
画像で異常が見つからないと、「では原因は何なのか」と不安になる方は少なくありません。私はそういう時こそ、骨や画像ではなく「体の使われ方」のほうに原因を探します。どの動作が痛みを呼ぶのかを一つずつ確かめていけば、負担の集まっている場所はたいてい見えてきます。
初期の施術は、頸肩部と腰部への局所的なアプローチに加えて、頭部と顔面への置鍼で疲労をやわらげ、下肢への置鍼で気血の巡りを促すことを中心に組み立てました。
抱っこで負担が集中する筋肉への切り替え
転機は4回目の施術でした。施術のたびに一時的な改善は見られるものの、育児が続くうちに症状が戻ってしまう。ここで私は、施術内容そのものを見直すことにしました。
施術を変えるかどうかを判断するとき、私が見ているのは、その場で楽になったかどうかではありません。次に来られるまでの間、その状態がどれだけ保てているかです。すぐ戻ってしまうなら、狙っている場所が合っていない可能性を疑います。
腰痛の施術は、安静を前提に組み立てられることが多いと思います。ただ、育児中のお母さんに安静という選択肢はありません。そこで一般的な進め方ではなく、「抱っこで最も負担がかかる筋肉はどこか」という視点で組み直しました。
着目したのが広背筋です。広背筋とは、背中から脇の下、骨盤の近くまで広がる大きな筋肉のことで、腕を体に引き寄せる動作、つまり抱っこの姿勢で強く働きます。この筋肉に対して、腰部から腋窩(脇の下)まで低周波鍼通電療法を追加しました。
低周波鍼通電療法とは、刺した鍼に弱い電気を流し、手では届きにくい深い層の筋肉をゆるめる方法です。5回目には右の臀部にも同じ方法を加え、育児で繰り返し負担のかかる筋肉へ重点的に施術していきました。
あわせて、疲労の蓄積や睡眠不足による自律神経への負担も考え、全身の疲労回復も同時に図りました。痛む場所だけを追いかけていては、また戻ってしまうと考えたからです。
育児を続けながら変わっていった経過
変化は初回から出ました。まず、体を後ろに反らした時の腰痛が軽くなりました。2回目には膝の痛みが和らぎ、施術中に眠ってしまわれるほど全身の緊張がゆるみました。
施術中に眠ってしまう方は珍しくありません。ずっと気を張っている方ほど、体がゆるんだ瞬間に眠くなります。私はこれを、体だけでなく気持ちの緊張もほぐれてきたサインとして見ています。
5回目には腰痛が軽くなる一方で、今度は右の臀部の痛みと肩こりが目立ってきたため、施術内容を組み替えました。症状は一列に並んで消えていくわけではなく、順番に表へ出てくることがあります。
7回目には、こんな言葉をいただきました。「鍼灸を始める前に比べて育児や抱っこが楽になった」。8回目から10回目にかけては良好な状態を保ち、日常生活の負担はかなり軽くなりました。
12回目の時点で腰痛はかなり軽減していましたが、抱っこによる首と肩のこりが残っていたため、施術の重点を頸肩部へ移しました。今も良い状態を保つために施術を続けています。
最も印象に残っているのは「抱っこが楽になった」という一言です。育児中の方にとって抱っこが楽になることは、痛みが減るということ以上の意味を持ちます。お子さんと過ごす時間を笑顔で過ごせるかどうかに、そのまま関わってくるからです。
念のため申し添えると、鍼灸だけで良くなったとは私は考えていません。日々の育児での負担のかかり方や、ご本人が体の使い方を工夫されたことも重なった経過として受け止めています。
産後の腰痛や肩こりを「育児中だから仕方ない」と我慢してしまう方は、本当に多くいらっしゃいますが、痛みを抱えたまま育児を続けると、痛みをかばう動きが癖になり、首や肩、お尻など別の場所へ負担が広がっていきます。
産後は、妊娠と出産の時期に分泌されるリラキシンの影響も残ります。リラキシンとは、出産に備えて骨盤周囲の関節や靱帯をゆるめるホルモンのことで、その分だけ関節が不安定になり、筋肉へ負担が集中しやすくなります。
今回の一例でも、体の状態に合わせて施術内容を調整し続けたことで、育児を止めずに進めることができました。「子どもが大きくなれば治る」と我慢するより、早めに体を整えておくほうが、毎日の育児はぐんと楽になるはずです。
まとめ
産後の腰痛は、育児を止めなければ良くならないものではありません。負担の集まっている場所を見極めて施術を組み替えていけば、育児を続けながらでも体は変えられると私は考えています。
・抱っこや前かがみで腰が痛み、朝起きる時がつらい方
・検査で異常なしと言われたのに、腰痛や肩こりが続いている方
・通院はしているが、その場しのぎの繰り返しになっていると感じる方
金沢市北安江のトキの森鍼灸院では、初回に約30分のカウンセリングをとってから施術に入ります。今のお体で何が起きているのかをご説明したうえで進めますので、まずはお気軽にご相談ください。
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