転ばぬ先の杖は、親子げんかの始まり?
96歳のお客様のお宅に、骨折をされてから毎週伺っています。
長くお付き合いしていると、以前はご自身でできていたけれど、今は少し難しくなっていることが、だんだん見えるようになってきます。
先日伺った日は、私の作業中に病院へ出かける予定になっていました。
「もし私の作業が終わる前にお迎えが来ても大丈夫ですよ。やってほしいことを言っておいてくだされば、やっておきますから」
そうお伝えして、いつものように作業を始めました。
でも最近は、言われる前に気づくことも増えてきました。
「これ、やっておきますね」
「あ、こちらもですかね?」
そんなふうに声をかけると、
「助かるわ」
と笑ってくださいます。
この日は、作業が終わる前にお迎えが来て、お客様は病院へ出かけていきました。
残った99歳のご主人に、
「これと、これもやっておきましたよ」
とお伝えすると、
「わーっ、助かる。ありがとう!」
と、とても喜んでくださいました。
若い人には「そんなこと?」でも
私がやったことは、特別なことではありません。
宅配便で届いた重い段ボール箱を、玄関から収納場所まで運ぶこと。
段ボール箱を開けること。
中に入っている栄養ドリンクを取り出して、使いやすいようにしておくこと。
500mlのペットボトルの水を何本か、段ボール箱から出して運んでおくこと。
若い世代なら、
「そんなこと?」
と思うかもしれません。
でも、重い荷物を運ぶことも、固い段ボールを開けることも、年齢を重ねると大変な作業になります。
段ボールを開けようとして、手を切ってしまうこともあります。
宅配便の方が玄関まで届けてくれても、その先の作業は残っています。
玄関から運ぶ。
箱を開ける。
中身を取り出す。
私たちが一つの動作として何気なくやっていることも、年齢を重ねると、一つ一つが暮らしの中の困り事になるのだと感じます。
頼れる家族がいても、気軽に頼めるとは限らない
以前伺っていた90代のお客様と、今伺っているお客様。
お二人から、同じような言葉を聞いたことがあります。
子どもたちは近くに住んでいる。
頼めば来てくれる。
でも、
「子どもたちには、子どもたちの生活があるからね」
と。
頼れる家族が近くにいることと、何でも気軽に頼めることは、同じではないのだと思います。
重い荷物が届いたから。
段ボールを開けてほしいから。
水を運んでほしいから。
そのたびに子どもを呼ぶのは申し訳ない。
そんなふうに考える方も少なくないのではないでしょうか。
だからこそ、お金を払ってお願いできる相手の方が、気兼ねなく頼めることもあるのだと思います。
「お嫁さんにも頼まなかったら悪いわよ」
この日、お客様ご夫婦がこんな会話をしていました。
「今日は誰が病院に連れて行ってくれるんだい?」
「お嫁さんだよ」
「娘じゃないのかい?」
すると奥様が言いました。
「お嫁さんにも頼まなかったら悪いわよ」
私はその言葉を聞いて、なるほどなあと思いました。
一般的には、お嫁さんに気を遣い、何かあると娘を頼りがちになることもあると思います。
でも、頼らないことだけが気遣いではないのかもしれません。
頼むことも、相手との関係を大切にする一つの形なのだと、お客様の言葉から気づかされました。
家族にしか頼めないこともある
少し前には、99歳のご主人が転んでしまったそうです。
自分では立ち上がることができず、96歳の奥様にも起こすことはできません。
そのときは、息子さん夫婦を呼んだそうです。
こういうときは、やはり家族の出番です。
息子さん夫婦も、
「何があるかわからないから」
と、二人そろってお酒を飲むことはしないようにしているそうです。
親は、子どもたちの生活を邪魔したくないと思っている。
子どもたちは、何かあったときには動けるように考えている。
お互いがお互いの生活を思いながら、支え合っているのだと思いました。
気兼ねなく頼める人でありたい
私は、家族の代わりにはなれません。
そして、家族にしかできないこともあります。
だからこそ私は、日々の暮らしの中にある小さな困り事を、気兼ねなく頼める人でありたいと思っています。
「何かあったら言ってくださいね」
と待っているだけではなく、
「これ、やっておきますね」
「あ、こちらもですか?」
と、できなくなったことや困っていることに気づける人でありたい。
この人になら、こんなことを頼んでも大丈夫。
そんなふうに思ってもらえる関係を作ることも、私の仕事の一つだと思っています。
暮らしの困り事は、大きなことばかりではありません。
若い人なら「そんなこと?」と思うような小さなことが、毎日の暮らしを少しずつ大変にしていることがあります。
その小さな困り事に気づき、少し手を貸す。
それだけで、
「助かった」
と笑顔になってもらえることがあります。
その積み重ねを、これからも大切にしていきたいと思います。


