第8回 スタッフを動かすリーダーの「言葉力」 ~「言った」ではなく「伝わった」が店長のコミュニケーション~

テーマ:マネジメント


「ちゃんと言ったのに、どうしてやっていないんだ。」

店長をしていると、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。

私自身、店長時代には何度もありました。

スタッフに指示を出した。

説明もした。

自分では間違いなく伝えたつもりだった。

ところが、結果を見ると自分が考えていたことと違う。

そんな時、若い頃の私は、

「ちゃんと説明しただろう。」
「なぜ分からないんだ。」

と思っていました。

しかし、長く店長を経験する中で、あることに気づきました。

「言った」と「伝わった」は違う。

店長が言葉を発したからといって、相手にその意味や目的まで伝わっているとは限りません。

コミュニケーションとは、店長が話したところで終わるのではなく、相手に伝わり、行動につながったところまでなのです。

同じ言葉でも、伝わり方は違う

店舗には、さまざまなスタッフが働いています。

社員。
パート。
アルバイト。
ベテラン。
新人。

年齢も違えば、経験も性格も違います。

当然、同じ言葉を使っても受け取り方は違います。

例えば、

「売場をきれいにしておいて。」

と指示したとします。

ベテランスタッフなら、

商品の向きを揃える。
POPを確認する。
床を掃除する。
在庫を補充する。

そこまで考えて行動してくれるかもしれません。

しかし、新人スタッフには、「売場をきれいにする」が何を意味するのか分からない可能性があります。

それなのに、

「普通、それくらい分かるだろう。」

と言ってしまう。

これはスタッフの問題だけではありません。

店長の伝え方にも改善する余地があります。

「何を」だけでなく「なぜ」を伝える

私がスタッフへの指示で大切だと考えているのは、仕事の目的まで伝えることです。

例えば、

「入口を掃除しておいて。」

だけではなく、

「入口はお客様が最初に見る場所だから、気持ちよく入店していただけるようにきれいにしておこう。」

と伝える。

やることは同じ「掃除」です。

しかし、後者には仕事の意味があります。

人は、意味が分からない仕事には「やらされている」と感じやすくなります。

反対に、

「何のためにやるのか。」

が理解できれば、自分で考えて行動できるようになります。

店長がすべてを細かく指示しなくても動けるスタッフを育てるためには、目的を伝えることがとても大切なのです。

命令より「質問」で人を動かす

店長になったばかりの頃は、どうしても指示が多くなります。

「これをやって。」
「次はあれをやって。」
「こうしてください。」

確かに、忙しい店舗では指示が必要な場面もあります。

しかし、いつも店長が答えを与えていると、スタッフは、

「店長に聞けばいい。」

と考えるようになります。

そこで私は、質問することも大切だと考えるようになりました。

「あなたはどう思う?」
「どうしたらもっと良くなると思う?」
「お客様だったら、どう感じるかな?」

こう問い掛ける。

最初は答えが出てこないかもしれません。

それでも待つ。

スタッフ自身に考えてもらう。

答えが自分の考えと少し違っていても、すぐに否定しない。

「なるほど。そういう考え方もあるね。」

と、まず受け止める。

そのうえで一緒に考える。

これを繰り返すことで、スタッフは少しずつ自分で考えて行動する人へと成長していきます。

「聞く力」も言葉力の一つ

コミュニケーションというと、「上手に話すこと」を考えがちです。

しかし、店長にとってそれ以上に大切なのが、

聞くことです。

スタッフが相談に来た時、

パソコンを見ながら聞いていないでしょうか。

作業を続けながら、

「うん、うん。」

と返事だけしていないでしょうか。

店長は忙しい。

これは私自身、十分に経験しています。

しかし、スタッフが勇気を出して相談していることもあります。

その時に、

「今忙しいから後で。」

で終わらせてしまう。

そして、その「後で」が来ない。

これが何度も続けば、

「店長に言っても無駄だ。」

と思われてしまいます。

すぐに話を聞けないのであれば、

「今は手が離せないから、15時に10分時間を取ろう。」

と約束する。

そして必ず守る。

これだけでも信頼は大きく変わります。

人前で叱り、人知れず褒めていないか

私が店長として気をつけたいと思うのが、褒め方と注意の仕方です。

スタッフがミスをした時、他のスタッフやお客様がいる前で強く注意する。

ところが良い仕事をした時には、

「できて当たり前。」

で終わらせる。

これではスタッフの気持ちは離れてしまいます。

私は基本的に、

褒める時はみんなの前でも。注意する時はできるだけ個別に。

という考え方が良いと思っています。

「今日の○○さんの対応、すごく良かったよ。」
「お客様への声掛け、自然だったね。」

このように、何が良かったのか具体的に伝える。

すると本人だけではなく、周囲のスタッフも、

「そういう行動が評価されるんだ。」

と理解できます。

褒めることも教育になるのです。

「ありがとう」は店長から先に言う

第4回「スタッフが辞めない職場をつくる」でも触れましたが、私は「ありがとう」という言葉をとても大切にしています。

店長になると、

「スタッフが仕事をするのは当たり前。」

と思ってしまうことがあります。

しかし、本当にそうでしょうか。

忙しい時間帯を支えてくれた。
急なシフト変更に対応してくれた。
お客様へ丁寧に接してくれた。
店内をきれいにしてくれた。

そこには一つひとつ、スタッフの行動があります。

だから、

「ありがとう。」

と伝える。

特別な費用はかかりません。

時間も数秒です。

しかし、その一言によって、

「自分の仕事を見てもらえている。」

と感じる人がいます。

私は、店長こそ誰よりも「ありがとう」を言う人であってほしいと思います。

クレーム対応にも「言葉力」が表れる

店長の言葉力が最も試される場面の一つが、クレーム対応です。

お客様が怒っている時に、

「規則ですから。」
「こちらに問題はありません。」

と正しさだけを伝えても、気持ちは収まらないことがあります。

まず、

「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
「詳しくお話を聞かせていただけますか。」

と、お客様の話を聞く。

クレーム対応では、「何を答えるか」だけではなく、どのような姿勢で聞くかも重要です。

これはスタッフとのコミュニケーションでも同じです。

相手の立場に立って聞く。

相手が何を伝えようとしているのかを考える。

言葉力とは、話術ではありません。

相手を理解しようとする力でもあるのです。

店長の言葉が、店の空気をつくる

朝一番に店長が、

「今日もよろしく!」

と笑顔で声を掛ける。

忙しい時に、

「みんな、ありがとう。あと少し頑張ろう!」

と伝える。

失敗したスタッフに、

「次はどうしたらうまくいくか、一緒に考えよう。」

と声を掛ける。

こうした一言が、職場の雰囲気をつくっていきます。

反対に、

「なんでできないんだ。」
「前にも言っただろう。」
「忙しいから後にして。」

そんな言葉ばかりの職場では、人は少しずつ発言しなくなります。

やがて、店長に報告や相談もしなくなる。

これは店舗にとって非常に危険な状態です。

スタッフが話せる店をつくるのも、店長の仕事です。

今日からできる実践ポイント

・「言った」ではなく「伝わったか」を確認する。
・仕事を指示する時は「何を」だけでなく「なぜ」も伝える。
・すぐ答えを教えず、「あなたはどう思う?」と聞いてみる。
・スタッフが話している時は、手を止めて聞く時間をつくる。
・良い行動は具体的な言葉で褒める。
・一日に何回「ありがとう」と言ったか振り返ってみる。

店長には、特別な話術が必要なわけではありません。

流暢に話せなくても構いません。

大切なのは、

相手に伝わるまで伝えること。

そして、

相手の話を理解しようとすること。

スタッフを動かすのは、役職でも命令でもありません。

最終的には、

「この店長と一緒に頑張りたい。」

と思ってもらえる関係性です。

その関係をつくる一番身近な道具が、毎日何気なく使っている「言葉」なのです。

店長が言葉を変える。
するとスタッフの反応が変わる。
スタッフの行動が変わる。
そして、少しずつお店が変わっていく。

私は16年間の店長経験を通して、店長の言葉には、お店を変える力があると感じています。

次回、第9回は、

新時代のマネジメント―生成AIを活用する

をテーマにお話しします。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、店長の仕事をどう変えるのでしょうか。

報告書、スタッフ教育、販促企画、データ分析など、生成AIに任せられる仕事が増える一方で、今回お話しした「人の話を聞く」「相手の気持ちを理解する」といった力は、これからますます重要になります。

AIに任せる仕事と、人間だからこそ担う仕事。

生成AI時代の店長の役割について考えていきます。

本連載について

本連載は、私の著書『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』をベースに、現場で新たに得た経験や生成AI時代のマネジメント・マーケティングの視点を加えながら再構成しています。20年以上にわたる店舗運営の経験が、店長やリーダー、経営者の皆さまの実践に少しでもお役に立てれば幸いです。

著書紹介
『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』では、20年以上の店舗運営と16年間の店長経験をもとに、現場で培ったマネジメントやマーケティングの考え方を実例とともに紹介しています。理論だけではなく、実際の失敗や成功から得た「現場で使える知恵」をまとめた一冊です。
新米店長の道しるべ16年の失敗と成功から学ぶ


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佐々木康仁
専門家

佐々木康仁(ITコンサルタント)

株式会社CNCコンサルティング

対面と非対面を組み合わせた独自のマーケティング手法、ChatGPTを活用するための基礎的な講習、小学校などでのICT教育支援を事業の柱とする。数々の職業を経験し“現場感覚”でサポートできるのが強み。

佐々木康仁プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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