第8回:スタッフを“動かす”リーダーの言葉力

「せっかく仕事を覚えてくれたのに、辞めてしまった。」
店長をしていると、こんな経験をすることがあります。
新人を採用し、時間をかけて仕事を教え、ようやく一人で任せられるようになった。その矢先に退職を告げられる。
店長にとって、これほど残念なことはありません。
人が辞めれば、残ったスタッフの負担は増えます。新たな求人を出し、面接を行い、もう一度最初から教育しなければなりません。
人が辞めることは、単に一人減るという話ではありません。
お店の時間、教育コスト、チームの雰囲気、そしてサービスの質にも影響します。
だからこそ店長には、採用する力だけでなく、人が辞めない職場をつくる力が必要です。
人が辞める理由は、給与だけではない
スタッフが退職すると聞くと、
「給与が安かったのだろうか。」
「もっと休みが必要だったのだろうか。」
と考えます。
もちろん、給与や勤務条件は大切です。
しかし、私が20年以上の店舗運営を通じて感じてきたのは、人は待遇だけで辞めるわけではないということです。
・頑張っても認めてもらえない
・失敗した時に一方的に責められる
・相談しても話を聞いてもらえない
・職場で自分の居場所を感じられない
このような小さな不満が積み重なることで、スタッフは少しずつ職場から心が離れていきます。
退職の申し出は突然に見えても、その気持ちはずっと前から始まっていることが多いのです。
「ありがとう」は最強のマネジメント
スタッフが働き続けたいと思う職場には、共通点があります。
それは、自分の存在や仕事が認められていると感じられることです。
大げさな表彰制度が必要なわけではありません。
「ありがとう。」
「助かったよ。」
「今日の対応、良かったね。」
その一言で十分なこともあります。
店長にとっては当たり前に見える仕事でも、スタッフは時間と労力を使って取り組んでいます。
その行動を見つけ、言葉にして伝える。
私は、「ありがとう」は最強のマネジメントの言葉だと考えています。
給与は月に一度ですが、感謝は毎日伝えられます。
そして感謝の言葉は、職場の空気を少しずつ変えていきます。
スタッフを「作業者」にしない
人が辞めやすい職場では、スタッフが単なる作業者として扱われていることがあります。
「これをやって。」
「次はあれをして。」
指示された仕事をこなすだけでは、仕事にやりがいを感じにくくなります。
大切なのは、その仕事の意味を伝えることです。
例えば、床を掃除してもらう場合でも、
「ここをきれいにしておいて。」
だけで終わるのではなく、
「お客様が入店された時、最初に目に入る場所だから、気持ちよく感じてもらえるようにきれいにしよう。」
と伝える。
仕事の目的が分かれば、スタッフの意識は変わります。
自分の仕事がお客様の満足やお店の評価につながっていると理解できれば、責任感もやりがいも生まれます。
教育ではなく「共育」
私は人材育成について、教育ではなく共育という考え方を大切にしています。
店長が一方的に教えるのではなく、スタッフと共に育つという考え方です。
新人スタッフから学ぶこともあります。
若いスタッフの感覚に気づかされることもあります。
ベテランのパートさんに、現場の知恵を教えてもらうこともあります。
店長が「自分は教える側だから」と構えてしまうと、スタッフとの距離が生まれます。
反対に、
「どう思う?」
「もっと良いやり方はあるかな?」
と意見を求めることで、スタッフは自分もお店づくりに参加していると感じられます。
人は、自分の意見が尊重される場所に愛着を持ちます。
小さな変化を見逃さない
人が辞めない職場をつくるためには、スタッフの変化に気づくことも大切です。
いつも元気な人が静かになっている。
遅刻が増えている。
ミスが続いている。
休憩中に一人でいることが多くなった。
こうした変化には、何らかの理由があります。
すぐに注意するのではなく、
「最近どうしたの?」
「何か困っていることはない?」
と声を掛ける。
話を聞いても、すぐに解決できないこともあります。
しかし、「気に掛けてもらっている」と感じるだけで、心が軽くなることがあります。
店長の役割は、問題が起きてから対応することだけではありません。
問題が大きくなる前に、小さな変化に気づくことです。
パートさんを敵に回してはいけない
店舗運営において、パートさんの存在は非常に大きなものです。
長く働いているパートさんは、お客様のことも、商品のことも、店舗の流れもよく理解しています。
店長より現場を知っていることも珍しくありません。
その方々を単なる補助的な人材として扱うのではなく、店舗を支える大切な仲間として尊重することが必要です。
特に新しく赴任した店長が、自分のやり方だけを押し通すと、現場との間に溝が生まれます。
まず話を聞く。
これまでのやり方を理解する。
そのうえで、変えるべきことを一緒に考える。
店長一人でお店を運営することはできません。
現場を支えている人を大切にすることが、人が定着する職場づくりの基本です。
今日からできる実践ポイント
・毎日一人以上に、具体的な感謝を伝える。
・指示を出す時は、仕事の目的も一緒に伝える。
・スタッフの意見を聞く時間をつくる。
・表情や行動の小さな変化に気づく。
・パート、アルバイト、社員を区別せず、一人の仲間として尊重する。
スタッフが辞めない職場は、特別な制度だけでつくられるものではありません。
店長の毎日の言葉と行動によってつくられます。
人を大切にする。
頑張りを見つける。
話を聞く。
感謝を伝える。
一つひとつは小さなことですが、その積み重ねが「ここで働き続けたい」と思える職場をつくります。
店長の仕事は、人を管理することではありません。
人が力を発揮できる環境をつくることです。
次回は、「マネジメントの基礎はデータにあり」をテーマに、感覚だけに頼らず、数字から店舗の課題と可能性を読み取る方法についてお話しします。
本連載について
本連載は、私の著書『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』をベースに、現場で新たに得た経験や生成AI時代のマネジメント・マーケティングの視点を加えながら再構成しています。20年以上にわたる店舗運営の経験が、店長やリーダー、経営者の皆さまの実践に少しでもお役に立てれば幸いです。
著書紹介
『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』では、20年以上の店舗運営と16年間の店長経験をもとに、現場で培ったマネジメントやマーケティングの考え方を実例とともに紹介しています。理論だけではなく、実際の失敗や成功から得た「現場で使える知恵」をまとめた一冊です。
新米店長の道しるべ16年の失敗と成功から学ぶ
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