【第8回】「任せる」とは何か ― 信じて手を離す勇気

佐々木康仁

佐々木康仁

テーマ:教育・ICT教育


「自分でやった方が早い。」

人を育てる立場になったことがある人なら、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。

私自身、店長として多くのスタッフと仕事をしていた頃、何度もそう思いました。

忙しい時に仕事を任せる。

しかし、なかなか進まない。

横から見ていると、

「そこはこうすればいいのに」

と言いたくなる。

そして結局、

「もういい、私がやるから」

となってしまう。

確かに、その仕事は早く終わります。

でも、それでは人は育ちません。

今回は、人を育てる上でとても大切な「任せる」ということについて考えてみたいと思います。

教えるだけでは人は育たない

仕事を覚えてもらうためには、まず教える必要があります。

やり方を説明する。
実際にやって見せる。
一緒にやってみる。


ここまでは比較的簡単です。

難しいのは、その次です。

「では、今度は一人でやってみて」

と任せることです。

教える側からすると不安になります。

失敗しないだろうか。
お客様に迷惑をかけないだろうか。
時間がかかりすぎないだろうか。


だから、つい手を出したくなります。

しかし、自転車の乗り方をいくら説明しても、自分でペダルをこがなければ乗れるようにならないのと同じです。

人は最後には、自分でやってみなければ身につきません。

店長時代に気づいたこと

私は長年、店長として多くのスタッフと働いてきました。

若い頃は、自分が一番仕事ができなければならないと思っていた時期もありました。

接客もする。
作業もする。
トラブルにも対応する。
困っているスタッフがいれば自分が代わる。


確かに、自分が動けば仕事は進みます。

しかし、それを続けていると、

「店長がいなければ回らない店」

になってしまいます。

それでは、本当の意味で人を育てたことにはなりません。

店長がいなくてもスタッフが自分で考え、判断し、行動できる。

そんな状態をつくることこそ、人を育てる立場の仕事なのではないか。

経験を重ねる中で、そう考えるようになりました。

「任せる」と「丸投げ」は違う

ここで大切なのは、

任せることと丸投げすることは違う、ということです。

「これ、やっておいて。」

それだけ伝えて、後は知らない。

これは任せるというより、丸投げになってしまう場合があります。

任せるためには、その前の準備が必要です。

何をするのか。
なぜするのか。
どこまで自分で判断してよいのか。
困った時には誰に相談するのか。


そうしたことを伝えた上で任せる。

そして必要な時には支える。

つまり、

「任せる」とは、放っておくことではない

のです。

子どもにも「任せる」経験が必要

これは子どもの教育でも同じだと思います。

子どもが何かをしようとしている時、大人はつい先回りしてしまいます。

「忘れ物はない?」
「宿題はやった?」
「明日の準備は?」


もちろん、年齢によっては大人の支援が必要です。

しかし、いつまでも大人が全部確認していたら、自分で考える機会が少なくなってしまいます。

例えば、

「明日の準備、自分でやってみようか」

と任せてみる。

忘れ物をするかもしれません。

失敗するかもしれません。

でも、

「次はどうしたら忘れないかな?」

と考える経験が生まれます。

その経験の積み重ねが、自分で考えて行動する力につながっていくのではないでしょうか。

学校現場でも感じた「任せる力」

ICT支援員として学校現場に関わっていた頃にも、子どもたちの力に驚かされることがありました。

タブレットの操作を少し教えると、子どもたちはどんどん自分で試していきます。

こちらが知らない機能を見つけることさえあります。

そして、

「先生、こんなこともできるよ!」

と教えてくれる。

そんな姿を見ていると、

大人が全部教えなくても、環境ときっかけさえあれば、子どもは自分で学んでいく力を持っているのだと感じます。

だからこそ、

教えるだけではなく、

「やってみて」と任せること

も教育には必要なのだと思います。

AI時代は「任せ方」がもっと難しくなる

そして今、生成AIがあります。

AIに任せれば、様々なことができます。

文章を作る。
情報を整理する。
アイデアを出す。
プログラムを書く。


これから私たちは、

「人に任せる」だけでなく、「AIに任せる」

という選択も増えていくでしょう。

ここで重要になるのが、

「何を任せて、何を自分でやるのか」

という判断です。

何でもAIに任せれば便利です。

しかし、すべてを任せてしまえば、自分で考える機会を失うかもしれません。

私は生成AIを活用する時にも、

AIに任せる部分。
AIと一緒に考える部分。
最後に自分で判断する部分。


この三つを意識することが大切だと感じています。

教育でも同じではないでしょうか。

AIに任せること自体が問題なのではありません。

任せた後も、自分自身で考え、判断することを手放さない。

これからの教育では、そんな力も必要になってくると思います。

任せるには勇気がいる

人に仕事を任せる。
子どもに任せる。


これは簡単なようで、とても難しいことです。

なぜなら、

任せる側も我慢しなければならないからです。

時間がかかる。
失敗する。
思っていた方法とは違うやり方をする。
横から口を出したくなる。


それでも、

「まずはやってみよう」

と待つ。

これは第5回でお話しした「見守る」にもつながります。

任せることと見守ることは、セットなのかもしれません。

最後は「自分でできる人」を育てる


教育について考えていくと、私は一つのところにたどり着きます。

教える。
見守る。
褒める。
必要な時には叱る。
そして任せる。


なぜ、そこまでするのでしょうか。

最終的には、

教えてくれる人がいなくても、自分で考え、自分で判断し、自分で行動できるようになるため

だと思います。

学校を卒業すれば、いつも先生が横にいるわけではありません。
社会に出れば、いつも上司が答えを教えてくれるわけでもありません。
そして人生には、誰にも正解を教えてもらえない場面がたくさんあります。


だからこそ教育には、

「正しい答えを教えること」だけではなく、

自分で答えを見つけられる人を育てること

が必要なのではないでしょうか。

「任せる」とは信じること

「あなたならできる。」

そう信じなければ、本当の意味で仕事を任せることはできません。

もちろん、最初から何でもできるわけではありません。

失敗することもあります。
助けが必要な時もあります。


そんな時には支える。

そして、もう一度任せる。

その繰り返しの中で、人は少しずつ自分の力で歩けるようになります。

私は、

「任せる」とは、その人の可能性を信じて、一歩後ろに下がること

なのだと思います。

手を出すことだけが教育ではありません。

時には手を離すことも教育です。

そして、手を離しても、

必要な時には支えられる場所にいる。

それが「育てる」ということなのかもしれません。

次回は、

【第9回】「失敗させる」とは何か ― 失敗できる環境が人を育てる

について考えてみたいと思います。

Today's English Phrase

Trust them and let them try.
(信じて、やらせてみよう。)


教えるだけではなく、任せてみる。

その小さな勇気が、人を大きく成長させるきっかけになるのではないでしょうか。

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佐々木康仁(ITコンサルタント)

株式会社CNCコンサルティング

対面と非対面を組み合わせた独自のマーケティング手法、ChatGPTを活用するための基礎的な講習、小学校などでのICT教育支援を事業の柱とする。数々の職業を経験し“現場感覚”でサポートできるのが強み。

佐々木康仁プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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