第8回 スタッフを動かすリーダーの「言葉力」 ~「言った」ではなく「伝わった」が店長のコミュニケーション~

「店長の仕事に、生成AIなんて必要なの?」
数年前であれば、このような話をしてもピンとこなかったかもしれません。
しかし今、ChatGPTをはじめとする生成AIは急速に私たちの仕事の中へ入ってきています。
文章を作る。
アイデアを出す。
情報を整理する。
データを分析する。
研修資料を作る。
これまで人間が時間をかけて行っていた仕事の一部を、生成AIが支援してくれる時代になりました。
では、店舗運営ではどうでしょうか。
私は、生成AIはこれからの店長にとって非常に強力な「仕事のパートナー」になると考えています。
しかし同時に、生成AIを使えば店長の仕事がすべてうまくいくとも考えていません。
大切なのは、
「AIに何を任せ、人間は何をするのか。」
その役割を考えることです。
店長の仕事は、とにかく多い
店長を経験した方なら分かると思います。
店長の仕事は多岐にわたります。
売上管理。
シフト作成。
スタッフ教育。
会議。
報告書。
販促企画。
クレーム対応。
採用。
在庫管理。
数値分析。
そして、もちろんお客様への対応もあります。
私自身、店長時代には、
「もう一人、自分がいたらいいのに。」
と思ったことが何度もあります。
今なら、その「もう一人」が生成AIなのかもしれません。
もちろんAIが店長の代わりになるわけではありません。
しかし、
店長の仕事を横で支えてくれるアシスタント
として考えれば、非常に大きな可能性があります。
例えば報告書を生成AIと一緒に作る
店長の仕事の中には、文章を書く業務がたくさんあります。
日報。
週報。
月次報告。
会議資料。
研修報告。
スタッフへの案内文。
文章を書くことが苦手な店長にとっては、かなり時間のかかる仕事です。
例えば生成AIに、
「本日の売上は○○円。目標比105%。午後から客数が増加。新商品の販売が好調だった。これを上司への報告書としてまとめてください。」
と伝える。
すると、情報を整理して報告書のたたき台を作ってくれます。
店長はそれを確認し、現場で実際に起きたことや自分の判断を加えて完成させる。
ゼロから文章を考える必要がなくなります。
ここで大切なのは、
AIが作った文章をそのまま使うのではなく、最後は人間が確認することです。
AIは現場を見ていません。
その日のスタッフの表情も知りません。
お客様との会話も知りません。
現場を知っている店長が最後に判断する。
これが基本です。
スタッフ教育にも使える
生成AIは、人材育成にも活用できます。
例えば、新人スタッフ向けに、
「接客の基本を5項目でまとめてください。」
「新人スタッフが覚えるべき仕事をチェックリストにしてください。」
「お客様から○○と質問された場合の回答例を作ってください。」
と相談することができます。
さらに、
「新人スタッフにも分かる言葉にしてください。」
「高校生のアルバイトにも理解できる内容にしてください。」
と伝えれば、対象に合わせて説明方法を変えることもできます。
これは店長にとって非常に便利です。
ただし、ここでも忘れてはいけないことがあります。
AIが教育するのではありません。
AIは教材づくりを手伝ってくれる。
実際にスタッフを見て、
「少し慣れてきたな。」
「今日は元気がないな。」
「この仕事はまだ不安そうだな。」
と気づくのは、人間である店長です。
販促アイデアの「壁打ち相手」にする
店長をしていると、
「来月のキャンペーン、どうしよう。」
「もっと売上を伸ばす方法はないかな。」
と、一人で考えることがあります。
そんな時にも生成AIは使えます。
例えば、
「30代のファミリー層が多い店舗です。週末の来店客を増やす販促アイデアを10個考えてください。」
と相談する。
すると、自分では思いつかなかったアイデアが出てくることがあります。
もちろん、すべて採用する必要はありません。
「これは使えそう。」
「これはうちの店には合わない。」
「この案と自分のアイデアを組み合わせよう。」
と判断すればいいのです。
私は生成AIを、
「答えを教えてくれるもの」ではなく、「一緒に考えてくれる相手」
として使うことが大切だと思っています。
データ分析にも生成AIを活用する
第5回では、
「マネジメントの基礎はデータにあり」
というお話をしました。
売上。
客数。
客単価。
商品別実績。
時間帯別実績。
こうしたデータを見ながら店舗の課題を考えることは、店長の重要な仕事です。
生成AIを活用すれば、
「この数字からどんな傾向が考えられる?」
「前年と比較して変化しているところは?」
「売上を改善するために、どの数字をさらに確認すべき?」
といった形で、分析を補助してもらうこともできます。
ただし、数字には表れないこともあります。
競合店がオープンした。
道路工事が始まった。
近隣でイベントがあった。
スタッフが一人退職した。
こうした現場の情報をAIが自動的にすべて理解しているわけではありません。
だからこそ、
AIの分析+店長の現場感覚
が必要になります。
AIに任せてはいけない仕事もある
ここが今回、最もお伝えしたいところです。
生成AIが便利になるほど、
「では、人間は何をするのか?」
を考える必要があります。
例えば、スタッフが、
「店長、少し相談があるんですが……。」
と話しかけてきたとします。
そのスタッフが悩んでいる。
人間関係で困っている。
仕事を辞めようか迷っている。
そんな時に必要なのは、AIではありません。
店長が目の前に座り、
「どうした?」
と話を聞くことです。
お客様が怒っている時も同じです。
表情を見る。
声のトーンを感じる。
気持ちを受け止める。
そして、自分の責任で判断する。
こうした仕事は、これからも店長にとって重要であり続けるでしょう。
むしろAIが普及すればするほど、
人間にしかできない仕事の価値は高くなる
と私は考えています。
AIが考えてくれるから「考えなくていい」ではない
生成AIを使う上で、もう一つ気をつけたいことがあります。
便利だからといって、何でもAIに聞いてしまうことです。
「どうしたらいい?」
「何をすればいい?」
「答えを教えて。」
これを繰り返していると、自分自身で考える機会が減ってしまいます。
私は、生成AIを使う時こそ、
「まず自分で考える」
ことを大切にしたいと思っています。
自分なりの仮説を持つ。
そのうえでAIに相談する。
AIから別の視点をもらう。
最後は自分で決める。
この使い方であれば、AIは思考を奪う存在ではなく、思考を広げる存在になります。
私が考える「ヒューマンAIバランス」
私は、これからの生成AI活用で大切なのは、
「ヒューマンAIバランス」
だと考えています。
AIが得意なことはAIに手伝ってもらう。
人間が得意なことは人間が担う。
例えば、
情報整理はAI。
最終判断は人間。
文章のたたき台はAI。
自分の経験や思いを加えるのは人間。
アイデア出しはAI。
実行するかどうかを決めるのは人間。
データ分析はAI。
現場を見て判断するのは人間。
このバランスを取ることが、これからの店長には必要になるのではないでしょうか。
AIによって生まれた時間を「人」に使う
私は、生成AIを導入する最大の目的は、単なる業務効率化ではないと思っています。
報告書を30分早く作れるようになった。
資料作成が1時間短縮できた。
では、その時間をどう使うのか。
私は、
「人に使ってほしい。」
と思います。
スタッフと話す。
売場を見る。
お客様と話す。
新人を教える。
店舗の外を歩いてみる。
次の企画を考える。
AIによって生まれた時間を、人と向き合う時間へ戻す。
これこそが、店舗における生成AI活用の理想ではないかと私は考えています。
今日からできる実践ポイント
・まずは文章作成や情報整理など、小さな仕事から生成AIを使ってみる。
・AIの回答をそのまま採用せず、必ず自分で確認する。
・「答えを教えて」だけではなく、「一緒に考えて」と使ってみる。
・個人情報や会社の機密情報の取り扱いには十分注意する。
・AIに任せる仕事と、人間が行う仕事を意識して分ける。
・AIで生まれた時間を、スタッフやお客様とのコミュニケーションに使う。
生成AIは、店長の仕事を奪うためのものではありません。
私はむしろ、
店長を「店長本来の仕事」に戻してくれる道具
になる可能性があると思っています。
書類作成に追われる時間を減らす。
情報整理にかかる時間を減らす。
アイデアを考える負担を軽くする。
そして生まれた時間で、
人を見る。
人を育てる。
お客様と向き合う。
考える。
決断する。
店長にしかできない仕事に集中する。
AI時代だからこそ、最後に問われるのは「人」なのかもしれません。
AIを使える店長になること。
そして、それ以上に、
AIにはできないことができる店長になること。
この二つが、これからの店長に求められる新しいスキルだと私は考えています。
次回、第10回は第1章「店長という仕事」の最終回です。
テーマは、
「成功より継続を」
です。
優秀な店長だから成功するのか。
特別な才能があるから店を成長させられるのか。
私はそうではないと思っています。
16年間の店長経験の中で、成功以上に大切だと感じてきた「続ける力」について、第1章の締めくくりとしてお話しします。
本連載について
本連載は、私の著書『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』をベースに、現場で新たに得た経験や生成AI時代のマネジメント・マーケティングの視点を加えながら再構成しています。20年以上にわたる店舗運営の経験が、店長やリーダー、経営者の皆さまの実践に少しでもお役に立てれば幸いです。
著書紹介
『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』では、20年以上の店舗運営と16年間の店長経験をもとに、現場で培ったマネジメントやマーケティングの考え方を実例とともに紹介しています。理論だけではなく、実際の失敗や成功から得た「現場で使える知恵」をまとめた一冊です。
新米店長の道しるべ16年の失敗と成功から学ぶ
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