その一言がないだけで伝わることが全部ズレる
ホテルの部屋に、会話するロボットがいる。
時間や天気を教えてくれたり、
部屋の設備を操作してくれたりする。
便利な時代になった。
……はずだった。
お客さま、夜勤発動
日本の「とあるホテル」。
客室に導入された会話ロボットについて、
宿泊客のレビューを分析した研究に、
気になる事例があった。
寝ている宿泊客のいびきを、
ロボットが命令と勘違い。
夜中に反応して、
宿泊客を起こしてしまったという。
……いびきです。
呼んでません。
指示してません。
ただ、寝ていただけ。
まさかの、睡眠中に業務発生。
ホテルに休みに来たのに、
ロボットの都合で起こされる。
宿泊プランには書いていなかった。
「当ホテルでは、客室ロボットの稼働状況により、
お客さまにご協力いただく場合がございます」
……それは、宿泊約款なのか。
業務委託契約なのか。
……とはいえ、もう一つの疑問。
どんな〝いびき〟だったんだ?
ロボット新人、周囲が育つ
ロボットを導入する理由のひとつに、
人手不足への対応がある。
受付を任せる。
荷物を運ばせる。
案内をさせる。
人間がやっていた仕事を、
機械に移していく。
ところが、機械がうまく動かなければ、
誰かが対応する。
チェックインでエラーが出れば、スタッフ。
荷物を運べなければ、スタッフ。
話が通じなければ、利用者。
……最後だけ、ずいぶん人選が自由。
仕事を任せた側ではなく、
仕事を任された側の周囲に、
新しい仕事が発生する。
もちろん、ロボットがきちんと働けば、
負担が減る仕事もある。
問題は、うまくいかなかったとき。
誰が助けるのか。
誰が説明するのか。
誰が代わりに動くのか。
そこまで決めておかないと、
省いたはずの仕事が、
別の姿で戻ってくる。
しかも今回は、
宿泊客まで動員されている。
お客さま、ロボット対応の研修をお願いします。
ロボットが言葉を聞き取れない。
宿泊客が言い直す。
それでも通じない。
操作方法を確認する。
別の言い方を試す。
機械の反応をうかがう。
……何の時間だろうか?
ホテルに泊まりに来たはずなのに、
気がつけばロボットとの意思疎通に奮闘。
客室に設置されたのは、
ロボットではなくロボット操作研修会場に変換。
しかも、講師は宿泊客。
受講者はロボット。
研修費は出ない。
講師料も出ない。
こちらは、ちゃんと宿泊料金を払っている。
ずいぶん珍しい人材育成制度。
人手不足の調達先?
機械に仕事を任せる。
それ自体は悪くない。
ただ、機械ができないことを誰が引き受けるのか?
その設計まで済んで、
ようやく仕事を任せられる。
そこが抜けていると、
仕事は消えずに、担当者だけが変わる。
スタッフの仕事が減ったと思ったら、
今度はお客さまに出番が回ってくる。
人手不足対策のはずが、
宿泊客を労働力として再発見。
ロボットは、今日も働いている。
スタッフも働いている。
そして、いびきをかいていた宿泊客まで、
ロボットの稼働に貢献している。
……まさかの、現物支給ですらない。
人件費は削減。
教育費は、お客さま持ち。



