福岡の偉人:北九州市 “日本一の美人”になってしまった女性・末弘ヒロ子
洗剤がなくなった。
買わなきゃね。
普通なら、これで終わる話。
ところが、世の中には、
この一連の作業をもっと簡単にしようと、
知恵と技術を結集した人たちがいる。
そして、たどり着いた答え。
洗剤専用の注文ボタン。
……洗剤を買うだけなのに、
専用設備まで必要になった。
洗剤専用の注文ボタン。
Amazonには以前、
「Dash Button」というものがあった。
日用品を注文するための、小さなボタン。
洗剤なら洗剤。
飲み物なら飲み物。
商品ごとに専用のボタンを用意して、
家の中に設置する。
洗剤が少なくなったらポチッ。
それだけで、いつもの洗剤が注文できる。
スマホを開いて、
商品を探して、
注文画面に進んで……。
そんな手間がいらない。
洗剤を買うために、
洗剤専用の設備を導入。
……洗剤も、ずいぶん出世した。
我が家に、購買部を設置。
考えてみれば、すごい。
洗剤の注文は、洗剤だけの専用ボタン。
飲み物の注文は、飲み物だけの専用ボタン。
ペット用品の注文は、ペット用品の専用ボタン。
家の中に、商品別の発注窓口ができる。
「洗剤のご注文はこちらです」
「飲料の発注は、そちらです」
自宅なのに、
業務用の雰囲気が漂う。
しかも、この購買部。
発注するのも自分。
在庫を確認するのも自分。
ボタンを押すのも自分。
……人件費ゼロ。
ただし、紛失も続発。
面倒くさいにも、予算がつく。
もちろん、毎回同じ商品を買うなら、
注文の手間を省きたい気持ちはわかる。
一度設定してしまえば、
次からはボタンを押すだけ。
商品を検索する必要もない。
注文画面を開く必要もない。
便利。
ただ、ここで気になる。
人間は、洗剤を買うための操作を減らそうとした。
その結果、
洗剤を注文するための専用ボタンが生まれた。
面倒を減らすために、
面倒を解決する道具を開発する。
この発想、嫌いじゃない。
むしろ、仕事の改善でもよくある。
手間がかかる。
だから、仕組みを作る。
仕組みを作るために、
新しい作業が発生する。
その作業を減らすために、
さらに仕組みを作る。
気がつけば、
何を楽にするために始めたのか、
わからなくなる。
……改善業務、たまに増殖する。
そして専用ボタンも手元にドンドン増殖。
そして、ボタンはなくなった。
Amazon Dash Buttonは、
2019年に販売を終了。
同年8月末には、
物理ボタンからの注文サービスも終了。
理由は、物理ボタン以外の注文方法を使う利用者が増えたから。
……あら。
便利じゃなかったのか。
ところが、話はそこで終わらない。
なくなったのは、
家の中に置く物理ボタン。
注文するためのボタンそのものが、
なくなったわけではない。
Amazonには、ウェブサイトやアプリ上で商品を注文できる「バーチャルダッシュ」がある。
さらに、対応する家電などが消耗品を自動で注文する「Amazon Dash Replenishment」という仕組みもある。
音声で注文する方法もある。
つまり。
物理ボタンを押して注文する。
その物理ボタンがなくなったら、
今度は画面の中にボタンを置く。
さらに進むと、
ボタンを押す作業までなくす。
便利さの追求、
段階的に人間を退場させている。
……ボタン、失業。
いや、仕事がなくなったのは、
ボタンだけではない。
商品を探す。
注文画面を開く。
注文を確定する。
そうした作業まで、
少しずつ減らしていく。
これぞ、究極の業務改善。
ただし、洗剤は減る。
注文方法が変わっても、
買い物そのものが消えたわけではない。
洗剤は減る。
誰かが使う。
そして、補充が必要になる。
自動で注文できたとしても、
洗剤を使う暮らしは続く。
……この一連の流れだけは、
まだ我が家から退場してくれない。
便利になるのは、ありがたい。
ただ、洗剤を買うだけの話に、
ここまで技術と知恵を注ぎ込む。
人間、面倒くさがりの才能を、
ずいぶん本格的に育てている。
でも、結局手間がかかるようになっているのは変わらない。



