ケアラーが「何もできない」と感じる時、本当に足りないものは何か

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアする人のメンタルケア

ケアラーが「何もできない」と感じる時、本当に足りないものは何か

「何をやっても変わらない」「頑張っているのに状況が良くならない」「結局、自分には何もできない」
そんな無力感を抱えていませんか。

家族を支えるケアラーは、責任感が強く、できることを探し続ける人ほど限界まで頑張ってしまいます。
けれど、「何もできない」と感じる時、本当に足りないのは努力や能力なのでしょうか。

この記事では、ケアラーが抱える無力感の正体を整理しながら、「実際の無力」と「感じている無力感」の違いを紐解き、今ある力を見直す視点をお伝えします。


1.ケアラーが無力感と疲労で何もできないと立ち止まるとき


ケアラーは常に「やらなければならないこと」に追われています。
それだけでも忙しくて時間も体力も削られるのに、そもそも「やらなきゃ」と思う理由がある。

それは「病気の家族を支えつつ、生活もちゃんと回すため」という理由です。
だからタスクをこなして終わりじゃない。
やったことに対する成果を、自分で求めます。

家族は少しでも安心して過ごせただろうか
安心して過ごせることは、病気の回復につながっているだろうか
自分が今日をきちんと回せたことで、未来は保証されるだろうか

こうした目標、かつ不安を解決するために、山のようなタスクを毎日こなします。

こなすことは出来るんです。出来るというよりやってしまう。時間や体力に無理があってもこなしてしまう。
それによって、確実に疲労はたまりますよね。
更に成果もすぐには実感できない。
歩いても歩いても目的地にたどり着かないような徒労感に襲われます。

『私がやってることって、実は無駄な努力なの?』

<おすすめブログ>
メンタルケアラー役割は責任?義務? -重いと感じたら読む話
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2.ケアラーの無力感はどこから来るのか


思ったような結果が得られない毎日が続けば、頑張っている人ほど無力感に襲われても無理はありません。
今まで、勉強や仕事などで努力の成果を得て来た経験がある人なら尚更です。

頑張れば、目標は達成できる。
これは基本的に正しいです。
ただ、私たちケアラーの目標は、点数や他者の評価、売上じゃない。
病気の家族の回復、という「人間」なのです。

学校の勉強や仕事には、教科書やお手本がありました。聞けば教えてくれる人もいました。
それを忠実に学んで実行して、成果を残してきたでしょう。
だから今回もそれと同じやり方で頑張っている。

本やネットで「家族としての接し方」を学んで、その通りに実践している。
けれど、結果が出ない。または反応が違う。
すると「自分のやり方が悪い」のか、「自分の努力が足らない」のか、と結論付けてしまいます。

でも、じゃあやり方をどう変えればいいのか分からないし、これ以上どう努力すればいいのかも分からない。

『勉強した通りにやっているのに、どうして上手く行かないんだろう。自分が無力なせいだ……』

3.実際の無力と「無力感」は違う


今、あなたはおそらく、自分が感じた失望感、疲労感、これ以上頑張りようがない限界を感じて「自分は無力だ、何もできていない」と考えていることでしょう。

しかしここで、「無力」と「無力感」を分けて考える必要があります。

①実際の「無力」とは何か


ひとつは「客観的な限界」を指します。物理的・時間的・環境的にどうしてもできないことがあれば、それはその問題に対して「無力」なのかもしれません。
たとえば、身体が動かない、情報がない、一人では解決できない問題がある場合です。

もう一つは「「事実としての制約」がある場合です。つまり状況的に今は不可能な場合の「無力」です。
たとえば仕事をしている時に家族が「不安だから帰ってきてほしい」と電話をしてきたところで、それは無理です。

②「無力感」とは何か


対して無力感とは何か。
ひとつは「「主観的な限界」です。
実際にはできる可能性があるのに、「自分にはできない」と感じてしまう心の反応などです。
たとえば「困ったことがあったら人に頼ればいい」と言われても「自分には無理だ」と感じることがこれに当たるでしょう。

もう一つは「「自分の思い込み」による感覚です。
「どうせ無理」「また失敗する」という予測が、行動を止めてしまい、結果として実績や成果が出ないから無力感を感じてしまう。

今、あなたが感じている『勉強した通りにやっているのに、どうして上手く行かないんだろう。自分が無力なせいだ……』は、まさに「無力感」でしょう。

事実として「出来ていること」があるかないかを見るよりも、「自分には無理なんだ」という感覚が先に立ってしまっている状態ではないでしょうか。





4.何もできない、と感じる心を探ろう


実際の「無力」と自分が感じる「無力感」は同一ではない。
……と分かったところで、「じゃあどうしたらいいの?」と、次の問いが生まれるでしょう。

無力と無力感が違うとしても、問題は今自分が「私は無力だ」と感じていることが辛いし、そのせいでやる気が起きないし、新しい方向を探る意欲もわいてこない。より一層責任を重く感じてしまっているのですから、重大事です。

だからここでは「なぜ自分は何もできないと感じているのか」を紐解いていきましょう。

Q:あなたが一番「私は無力だ…」と感じる場面は?

たとえば「どんなに寄り添っても、家族とのすれ違いが埋まらない」ことに無力感を感じている、とします。

うつ病だと、心的エネルギーも思考力も根こそぎ奪われますから、口から出る言葉は100%ネガティブです。
それも病的ネガティブですから、レベルが違います。
「いなくなりたい」「4にたい」「自分は生きている価値がない」「皆から嫌われて邪魔ものだと思われている」
これがスタンダードです。家族は常にこうした言葉と接しながら生活しています。
そしてこれは脅しでも誇張でもない本音だと、顔を見ればわかります。だから受け止めるしかないですよね。

この時、ケアラー側の本音はどうなっているでしょう。
何を目的として、この言葉を受け止めて、家族の側にいますか?
おそらく

「否定せず聞いてあげることで、心が落ち着いていくかも」
「落ち着いてくれば、いないほうがいい、というのは自分の本心ではないと気づいてくれるかも」
「自分で自分の価値に気づいてくれたら、病気療養に前向きになってくれるかも」
「本人が前向きになったら、きっとどんどん病気が良くなる」
⇒だからしっかり聞いてあげよう。


こんな感じかもしれません。
この流れはきっと正しいと思います。
ただ、目的達成や成果を感じるまでに、時間がかかります。
ネガティブな気持ちに寄り添ってあげたから、じゃあすぐ「安心した、もう大丈夫」にはならない。
あなたの目的が達成されるのは、多分今じゃなくてもう少し先の話です。
しかしあなたは「今」達成されるか、その片鱗が見えないことで「寄り添っても無駄なんだ」「私に出来ることはないんだ」と結論付けてしまっているのではないでしょうか。

自分の予想・期待と、現実の変化にタイムラグがある。その差が辛い。
このケースの無力感とは自分自身が無力なのではなく、現実が期待通りに進まないことへの無力感なのです。

5.出来ることはある―リソース、ストレングスの話


自分が期待した通りの効果が今すぐ実感できない。そこに対して無力感を感じてしまうのは仕方のないことです。
では、あなたは本当に無力なのか。出来ること・出来ていることは全くないのか。
というと、それもまた違うと、私は思います。

私たちケアラーは、常に「もっと出来ることはないか、もっと頑張らなきゃ」と考え続けている。
常に前や先を見ている。自覚はないけどめちゃくちゃポジティブです。
しかしそれが行き過ぎて「今」が見えていない。「過去」も見えてない。
そこが逆に落とし穴になっているのです。落とし穴、という言い方が適切でないなら「灯台下暗し」です。

ここで二つのお話をしたいと思います。

①リソースとは


リソース、つまり「資源」です。個人にとっての資源とは以下のようなものです。

時間
体力
健康
能力・スキル
財産
経験・実績
人間関係
趣味・嗜好
得意・不得意
好き・嫌い
快・不快

他にもあるかもしれません。
つまり、普段の生活を上手く回すために活用できる要素全てを指します。
特別なものではないですが、私たちは無意識にこれらを使って生きて、問題を解決して、前に進んでいます。
「無意識」だからこれらの価値が今ひとつ実感出来ないんですよね。
そして無意識に解決したり乗り越えたりしているから、実感が無くて「私は無力だ」と思い込んでいるのです。

②ストレングスとは


ストレングスとは直訳すると「力」「強さ」です。
そして私はストレングスは要素ではなく、自分のリソースへの「捉え方」だと考えます。

たとえば先ほど挙げたリソースの一つの「時間」。
時間自体は誰にとっても同じ、1日24時間です。
これをどう使うか、ですよね。

24時間を「何とかやり過ごす24時間」として捉えるか、「やりたいことを実現するための一部」として捉えるか。
そこで1日に対する自分の態度が変わります。
1日だけなら大差はありません。それが一定期間続くことで差が現れます。

何とかやり過ごすのだって充分価値があることです。しかし意識してやっているわけじゃないから手ごたえがないし、逆にケアラーにとっては「疲れるだけの毎日」という印象が残りがちです。

対して「やりたいことを実現する一部としての1日」として過ごした場合。1日に出来ることはわずかかもしれませんが、「自分は○○を目指して着実に進んでいる」と自覚することが出来ます。

私たちケアラーが、頑張っても頑張っても「自分は無力だ」と感じて立ち止まりそうになった時は、この「リソース」を再確認し、「ストレングス」な態度で向き合い直してみてください。


【図】リソースとストレングス


6.まとめ:今すぐ100を目指そうとしない


「何もできない」と感じるときどうすればいいか、についてお話させていただきました。
いかがでしたでしょうか。

もし今自分がやっていることが「他人の人生」だとして眺めてみましょう。
その人は本当に何もできていないでしょうか、無力でしょうか。
絶対に違いますよね。出来ていることだらけです。

しかしそれが自分のこととなると、そういう評価が下せない。
なぜなら「今出来ていること」よりも「いつか必ずこうなりたい」未来像にフォーカスする力が強すぎるからです。
山の頂上だけを見ていると、今自分が一歩ずつ上っているスピードがもどかしくてたまらなくなる、それと一緒です。

ですが人生も登山も同じです。一歩ずつ歩いていくしかない。登山は場合によっては車とかヘリコプターとかケーブルカーなんかもありますが、人生にはありません。
そしてあなたは、無力感を抱えつつも今日もまた一歩、先へ進んでいるのです。


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西岡惠美子
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西岡惠美子(カウンセラー)

惠然庵(けいぜんあん)

◆うつ病患者家族支援…うつになった家族を支えるご家族を支えます(家族側のカウンセリング・コーチング)◆自分軸構築コーチング…充実した人生の土台となる「自分軸」の構築をお手伝いします

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