メンタルケアラーの悩み:8つの「分からない」はなぜ生まれるのか

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアする人のメンタルケア

メンタルケアラーの悩み:8つの「分からない」はなぜ生まれるのか

精神疾患や精神障害のある家族・パートナーを支える「メンタルケアラー」は、日常の中で多くの悩みを抱えています。
ですがその苦しさは、「大変」「つらい」という言葉だけでは表現しきれません。
むしろ実際には、「何が正しいのか分からない」「どうすればいいのか分からない」という、「分からなさ」そのものが心を追い詰めていくのです。

この記事では、メンタルケアラーが抱えやすい8つの「分からない」悩みを整理しながら、その背景にある苦しさについて考えていきます。


1.メンタルケアラーの悩み「分からない」8選


メンタルケアラー、つまり心の病や精神障害をもつ家族・パートナー・大事な人を一番近くで支えるのは、想像するよりはるかに過酷です。
誰かを支える、ということ自体が簡単なことじゃない。その上で、相手の抱える課題は目に見えないのです。

そうしたメンタルケアラーが八方塞がりになるのは、『分からない』が次から次へと生まれることです。
大きなものを8つご紹介します。

  1. 支え方が分からない
  2. 本人の気持ちが分からない
  3. 本人の状態(病気の特性、回復度)が分からない
  4. 将来どうなるか分からない
  5. 周囲がどう思っているか分からない
  6. 自分がどうすべきか分からない
  7. どんな社会的支援があるのか分からない
  8. 誰に相談すればいいか分からない


悩んだり苦しんだり相談する以前の問題です。
分からないとは、自分の疑問が具体化していない、ということです。
だからそこから抜け出せない。


【図】メンタルケアラーの『分からない悩み』


2.「分からない」から見えるメンタルケアラーの悩み、苦しさ


この「分からない」が、どんな悩みや苦しさを生むのでしょうか。

それは、分からないのに決めなければいけない、という歪みです。

  • 支え方が分からない ⇒ それでも支えなければいけない
  • 本人の気持ちが分からない ⇒ 分からなくても一緒に生活しなければいけない
  • 本人の状態が分からない ⇒ 分からないから心配がとまらない
  • 将来どうなるか分からない ⇒ 分からなくても大きな決断を下す場面がくる
  • 周囲がどう思っているか分からない ⇒ 分からなくても周囲と関わらなくてはいけない
  • 自分がどうすべきか分からない ⇒ 分からないのに、本人の分も行動しなければいけない
  • どんな社会的支援があるか分からない ⇒ 分からないから使えない
  • 誰に相談すればいいか分からない ⇒ だけど「誰かに相談すれば」とアドバイスされる


精神疾患は、その人から思考力や活力を根こそぎ奪います。本来生活するために在るはずのそれを、病気に消費されてしまうのです。
だからケアラーがその人の代理を負担します。

仕事は休職すれば何とかなるかもしれない。
けれど生活を誰かに割り振ることは出来ません。出来るとしたら唯一家族です。

でもその家族も、このように分からないことだらけ。
目の前の責任と『分からない自分」の間で板挟みになってしまうのです。

3.なぜこの「分からない」悩みが生まれるのか


どうしてここまで『分からない』が増え続けてしまうのでしょう。

様々な要因が考えられるでしょう。
知識不足、情報不足、支援不足、コミュニケーション不足。

これは私自身の意見ですが、こうした不足の根源には精神疾患・障害への偏見があるからだと思います。

偏見、という言葉は衝撃的過ぎて誤解を生むかもしれません。ですが「スティグマ」だと伝わりにくいかと思いますので、あえてこの言葉を使わせていただきます。

今の日本では「五大疾患」と呼ばれる罹患者数が多い病気があります。

がん
脳卒中
急性心筋梗塞
糖尿病
精神疾患

です。
そして罹患者数の多さで見ると、精神疾患は上から2番目くらいです。
なのに、中々理解が深まらない、広まらない。
なぜか。症状が定まらず個人差が大きすぎて、「よく分からない病気」だからです。
そしていまだに精神疾患・障害は「出来れば知られたくない病気」と思われる傾向がある。
だから正しい知識が広まらない。
ケアラーだって、自分の家族が精神疾患にならなければ詳しく知ることはなかったでしょう。

そして受け入れることはもっと難しい。
障害受容とは、本人だけの問題ではないと私は考えています。
一緒に行きていく家族もまた、家族なりに受容する必要があるのです。

理解が難しい、受け入れることが難しい、元々よく分からない。
それと向き合っていかなければいけないから、どうして心で抵抗が生じる。
それが「分からない」を増やしてしまう理由の一つだと考えます。

<おすすめコラム>
家族のための障害受容マニュアル:心の準備と具体的なステップ
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4.分からないだらけなのに相談出来ない矛盾


普段、分からないことや困ったことがあった時の対策として「人に聞く」つまり相談する、というものがありますよね。

私は精神保健福祉士でカウンセラーなので、困っていたら相談してほしいと思っています。
ですがケアラーでもあります。その立場からすると「相談する」のは本当にハードルが高い。

なぜなら、相談するためには現状を説明しないといけないからです。

  • 自分達家族がどんな状況で、どんな問題を抱えているか
  • それに対して出来ていることは何か
  • 何が出来ずに困っているのか
  • どうなりたいと思っているのか
  • その為に使える資源(時間、手間、人材、お金)はどれくらいあるのか


完璧に説明できる必要はないとしても、「大体こんな感じ」くらいには言語化出来ていないと手ごたえのある相談にはならないでしょう。
そしてこうした状況を知ってもらったうえでの情報提供、助言、アドバイスでなければ、「そうじゃないんだよ」感が残ってしまう。

そして「人に相談しても意味がないのでは」という感想になり、また別のところへ、が出来にくくなってしまいます。

最初の『分からない』に戻りますが、精神疾患・障害の人は状態が悪い時は思考力がかなり下がっています。そしてメンタルが不安定だから変化や刺激に過敏で、何かを冷静に決定することは難しいです。
だからケアラーが一人で全部背負う。

けれど誰かに相談したとき「家族で話し合えばいい」とか言われるんですよね。
それが出来ない状態だからこうなってるんです、ってことなんですけどね。

分からないことだらけ、だけど相談も出来ない、しようと思えなない。
だからさらに「自分で何とかしなければ」が強まって、「分からない」の森を歩き続けることになってしまうのです。

5.尽きない「分からない」を受け容れる


分からないことが言語化出来ず相談も出来ないから余計「分からない」が深まってしまう。
その原因の一つが「病気そのものへの偏見」が土台になっている可能性がある、とお話しました。

なぜ偏見が生まれてしまうのか。
それは「よく分からない」ことが悪いことだと思ってしまうからではないでしょうか。

分からないものって、この問題に限らず怖いですよね。
見通せない、予測できない、だから準備も予防も心づもりも出来ない。
どんどん不安や恐怖が募ってしまう。

だから丸ごと拒否して『分からないまま』にしてしまう。

他の問題ならそれでいいとして、家族の病気にもこのやり方を適用すると、もう家族として一緒に生きていくことも出来なくなります。

分からないことを、自分の能力不足、知識不足、動力不足だと思わないこと。
精神疾患は分からなくて当然な、難しく手強い病気なのです。
『分からなくて当たり前』です。

そうすることで、ではどうすれば分からないを減らせるか、分からないが減ったら何が出来るか、を考えることが出来るようになっていくでしょう。

6.まとめ


メンタルケアラーの悩みは、「支えるのが大変」という一言では片づけられません。
本当の苦しさは、「分からないことだらけなのに決断し続けなければいけない」という状況にあります。
本人の状態も、未来も、正解も見えない。それでも生活は止まらず、家族として日々を回していかなければならないのです。

さらに厄介なのは、その「分からない」が相談の難しさにもつながることです。
自分達の状況を整理しきれないから、助けを求めること自体が難しくなってしまう。そして「自分で何とかしなければ」という思いだけが強くなっていきます。

だからこそ大切なのは、「分からない自分」を責めないことです。
精神疾患は、支える側にとっても理解や予測が難しい病気です。分からなくて当然なのです。
その前提を受け容れられるようになると、「では何なら分かるだろう」「何を少しずつ整理できるだろう」という視点が生まれます。

完璧な理解を目指すのではなく、「分からないを少し減らしていく」こと。それが、
メンタルケアラー自身を守る第一歩になるのではないでしょうか。


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西岡惠美子
専門家

西岡惠美子(カウンセラー)

惠然庵(けいぜんあん)

◆うつ病患者家族支援…うつになった家族を支えるご家族を支えます(家族側のカウンセリング・コーチング)◆自分軸構築コーチング…充実した人生の土台となる「自分軸」の構築をお手伝いします

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