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第74回 人口動態統計によれば、「さざ波」どころか凪(なぎ)により多くの命が救われている現実:五輪中止を叫ぶのであれば、論理的な議論をすべき

鈴木壯兵衞

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テーマ:特許制度の意味

 第72回で述べたとおり、SARS-CoV-2ウイルスによる死亡者は、季節性インフルエンザの毎年の平均死亡者よりも少ない。又、コロナ患者を含めた日本の全体の死亡数は、前年同期より1万4千人少ない。病床数400以上の病院のうち、22病院がコロナ重症者を1人も受け入れていないのが現状であるのに、医療崩壊を叫ぶのもおかしな論理である。日本の全体の死亡数が減っているのに、なぜ医療崩壊が叫ばれているのか。
 重要なことは経済学とは命を守ることを含めた総合的な学問である。「命か経済か」という発想自身が間違っている。医療崩壊が叫ばれるような医療機関の分配の格差を生んだ政治や行政に、経済学の失敗がある。

      §1 正しいデータの判断で五輪中止を叫ぶ必要がある:
      §2 経済学は不公平を是正する総合的学問である:

§1 正しいデータの判断で五輪中止を叫ぶ必要がある:

 2021年5月9日に国立競技場で陸上・東京五輪テスト大会が開催されたが、競技場の外から東京五輪開催に反対するデモの「医者もナースも限界だ」、「市民を殺して五輪とは」のシュプレヒコールが届いたという。「市民を殺して五輪」とは、どういうことであろうか。

 既に第72回で説明したとおり、2020年12月の厚生労働省の人口動態統計(速報)によれば、2020年1~10月の日本の死亡数は前年同期より1万4千人少ない。2020年に始まったSARS-CoV-2ウイルスの流行により、季節性インフルエンザの患者は激減しているので、2020年を除けば、季節性インフルエンザによる死亡者は年平均で1万人である。注意したいのは、この年平均で1万人というデータは、治療法やワクチンの体制が整っている季節性インフルエンザによる死亡者数である。

 近年は、日本全体の死亡数が毎年1万8千人ずつ増えていた。これを考慮すると、昨年の死亡者の減少は、実際の死亡数の予想より日本全体で3万人以上少なくなったということになる。「市民を殺して五輪とは」と叫んだ人がいるが、実は、COVID-19の騒ぎにより、市民の命は3万人以上も多く守られたのである。
 
 結局、2021年12月21日に、田村憲久厚生労働相は、例年12月下旬に公表している人口動態統計の年間推計の公表を今年は見送る方針を明らかにし、速報値しか公表されていない。疫病が流行したのに死亡者数が、3万人以上も減少してしまった理由を、厚生労働省が説明できなくなってしまったからであろう。

 内閣官房参与の高橋洋一嘉悦大教授は、元厚生労働省技官の木村盛世氏がSARS-CoV-2ウイルスの日本での流行は「さざ波」レベルだと指摘していることを例に、「五輪危機はマスコミが騒いでいるだけだ」と指摘されている。更に、日本の「緊急事態宣言」は、世界からは奇妙に見えるだろうとも、高橋先生は述べている。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/210427/dom2104270002-n1.html

 実際には、市民の命が例年の傾向よりも3万人も多く守られたという結果になったのに、なぜ緊急事態宣言が発令されたのであろうか。このことは、我が国のトップに全体を包括的に見る哲学が欠損していることを明白に示している。マスコミやメディアが「コロナ」「コロナ」と騒ぐのもおかしい。

 野党はなぜこんな状況で緊急事態宣言を発令したのかと、政府を追求しないのか。我が国はファクターXの利があるのだから、欧米の感染対策をまねることは愚かであり、我が国独自の対策を講ずるべきである。

 前回、感染者数の増減のデータは検査数を変えれば変わるので、検査数の操作で変化し、信用できないので、単位人口死亡数で「市民の命」を議論すべきことをのべた。ただし、2020年6月18日付けで厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症患者が死亡したとき」厳密な死因を問わず死亡者数として報告を求めるという事務連絡を出している。

       https://www.mhlw.go.jp/content/000641629.pdf

 よって、今発表されている死亡者数のデータは、本来SARS-CoV-2による死亡者でないものがかなり含まれていることにも留意が必要である。例えば肺炎による死亡者は毎年10万人いるのに2020年は激減しているのが気になる。

 2021年4月に発表された人口動態統計の月報令和2年11月分によれば、2020年の1月から11月までの肺炎の死者は、前年同時期比でマイナス1万5645人となっている。陽性でも発症しない人がいるのだから、SARS-CoV-2による死亡者でない肺炎の死亡者数が、かなりの割合で、SARS-CoV-2による死亡者として水増しカウントされているのであろう。
 
 政府の会議の資料として、人口100万人あたりの7日間「単位人口死亡数」のデータとして、5月5日時点で大阪は19・6人という値が提出されたという。大阪の19・6(人/M・7day)は、インドの15.5(人/M・7day)より上回っており、惨状というほかありませんと、厚生労働省関係者が述べたという記事も散見されるが、誤解を招きうる記事である。マスコミやメディアはもっと科学的な論理性のある記事を記載すべきである。
 
 インドの単位人口死亡数のデータには、地域ごとに格差や分布がある。均一な一様なデータであれば、広大なインドと地方の行政地区である大阪府を比較するのは意味があろうが、科学者であれば、このような比較をしないものである。

 インドには 28 の州と8つの連邦直轄領があり、州の下には行政権を持たない地方(日本の「地方」とほぼ同じ)、地方の下には県が存在しているのであるから、データに分布がある場合に大阪府とインド全体の単位人口死亡数を比較するのは、意図的な思惑が背後にあるのであろう。
 
 表1は、ジョンホプキンス大学(JHU) システム科学工学センター (CSSE)の2021年5月8日のCOVID-19 Dataを基礎に、筆者が各地域の人口で除して、人口100万人あたりの7日間「単位人口死亡数」を計算した結果である。5月8日の値を単純に7倍して計算しているので、表1は正確性に欠けることに留意されたい。表1から現在ロックダウンのかかっているデリーは、122.44(人/M・7day)となり、大阪の19・6(人/M・7day)よりも1桁近く大きいことが分かる。
 
 確かに、大阪の19・6(人/M・7day)という値は、厳しい数値である。しかし、インドのデリー等の特定の地域の悲惨な地域の情報が、テレビ等で報告されている現在、「大阪の19・6(人/M・7day)という値はインドを上回っており、惨状というほかありません」というのは、危険な報道の仕方である。

 インドにはビハール州やオリッサ州等のあまり感染が広がっていない地域がある。これらの感染が広がっていない地域を含めて、インドの全土の平均値を計算すると15.5(人/M・7day)となるが、大阪の値はインドの平均値を上回っていると報道すべきである。更に、デリー等のテレビで報道されている地域では大阪の1桁程度大きな値であることを、マスコミはきちんと報道すべきである。
 
 【表1】人口100万人あたりの7日間「単位人口死亡数」のインドにおける地域差

そしてオリンピックを開催する東京については、人口100万人あたりの7日間「単位人口死亡数」は、5月5日時点で1.4(人/M・7day)である。

§2 経済学は不公平を是正する総合的学問である:

 ケインズは、ケンブリッジ大学時代に数学を専攻している。経済学の基幹をなしているツールは微分・積分等の数学であり、経済学はすべての学問を包括する総合学問である。理論経済学では、微積分の他にも位相空間論、関数解析、凸解析、確率論、数理最適化などを用いたモデル化がなされている。残念ながら、まだ日本人にはノーベル経済学賞の受賞者がいない難しい学問である。

 イギリスの経済学者L.C.ロビンズ(Robbins)男爵は、1932年に著書『経済学の本質と意義』において、「他の用途を持つ希少性ある経済資源と目的について人間の行動を研究する科学が、経済学である」と述べた。米国の経済学者P.A.サムエルソン(Samuelson)の著書『経済学』には、「経済学は、生産的な財を生産して異なった集団の間に分配するために、代替的な便途のある希少生産資源を、どのように選択するかを決定する学問である」と記載されている(P.A.サムエルソン、W.D.ノードハウス共著『サムエルソン 経済学』都留重人訳、岩波書店、1985年(原書第13版))。

 即ち「経済学」とは、もともとは道徳科学(モラル・サイエンス)の一部であり、地球上の有限な資源をいかに効率的・合理的に配分し、有限な資源を最も効率的に利用し、いかに価値を生産し地球上に配分し、地球上の人間がより望ましい生活ができるようにする方法を研究する科学技術等を含めた総合的な学問のことである。
 
 経済学でいう「資源」とは、生産要素のことであり、土地及び資本の物的資源と労働の人的資源を意味する。経済学では、「土地」には石油や鉄鉱石などの天然資源も含むとされる。地球上に有限に存在する食料、鉱物資源、エネルギ資源等を含めたより広い意味の資源をいかに配分するかが、経済学の対象とすることである。

 SARS-CoV-2ウイルスの正体が不明であった段階では、感染症法の「2類感染症並み」にSARS-CoV-2ウイルスの感染者を指定したことはやむを得ないであろう。SARS-CoV-2ウイルスの正体が判明してきた現在では「2類感染症並み」の指定を解除して、病床の無駄な逼迫を緩和させるべきである。ステージⅢやステージⅣの指標で最も重要とされる「病床のひっ迫の状況」も、「2類感染症並み」の指定の解除で変わる。

 先日、体外式膜型人工肺(ECMO)を他の医療機関から借りた病院の例が報告された。ECMO(エクモ)は余っているのであり、医療崩壊ではない。日本には約1400台のECMOがあり、世界的にも断トツに多い。ただし、コロナ指定病院にECMOとそれを扱える技術者が足りないだけである。経済学における最適な資源配分ができていないということである。

 大阪府は2021年4月19日、病床を確保するために、一般病床200床以上の医療機関に10床、200床未満の2次救急医療機関で、内科・呼吸器内科の治療を行っているところに5床を要請したという報道もある。日本全体を見れば病床の余裕はあるのである。病床を確保する経済学に失敗がある。COVID-19で医療崩壊といわれ、COVID-19よりも死亡者の多いインフルエンザで医療崩壊が叫ばれなかった理由がここにある。
 
 医療崩壊の状況になっているのは、コロナ指定病院に指定された一部の病院の話である。マスコミは「医療崩壊」ではなく、「コロナ指定病院における医療崩壊」と正しく報道すべきであって、日本の医療が崩壊しているわけではない。今問題なのは、コロナ指定病院に指定された一部の病院の困窮を緩和する経済学である。これは政治や行政における経済学の欠如である。
 
 「命が優先なのか経済が優先なのか」という議論も間違っている。経済は命を守るために、最適な資源配分をする学問である。日本は医療における最適資源配分ができていないことこそが問題であることを、マスコミやメディアはもっと追及し、話題にすべきである。

 経済学者の池田信夫先生は「人口動態統計は、コロナの社会的ダメージを知る客観的指標である。それを隠して緊急事態宣言を出すのはおかしい。日本の感染症対策は大成功だったのだ。」と言われている。

       https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63963

 厚生労働省は「さざ波」であることを知りながら、いい加減な態度でごまかしている。経済学者はきちんと政府を追及すべきである。

 表2は、昨年分の公表が見送られた2018年と2019年の人口動態統計に示された10大死因とその死亡数を示す。命の大切さを叫ぶのであれば、総合的・包括的に考えるべきである。

 【表2】厚生労働省公表による人口動態統計に示された10大死因とその死亡数

 表2の死亡者数を波の高さに対応させれば、昨年水増した人数を加えても、1万人に満たなかったSARS-CoV-2ウイルスによる死亡者数を、元厚生労働省技官で現在医師である木村盛世氏が「さざ波」レベルだと指摘したのは首肯できる。

 病床数400以上の病院の多くがSARS-CoV-2ウイルスの患者を受け入れない現実には理由がある。その理由とは、医療関係者が「さざ波」レベルであることを承知しているからである。日本の大病院は大波を扱っているのである。

    弁理士鈴木壯兵衞(工学博士 IEEE Life member)でした。
    そうべえ国際特許事務所は、「独創とは必然の先見」という創作活動のご相談にも
    積極的にお手伝いします。
              http://www.soh-vehe.jp


 

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鈴木壯兵衞(弁理士)

そうべえ国際特許事務所

外国出願を含み、東京で1000件以上の特許出願したグローバルな実績を生かし、出願を支援。最先端の研究者であった技術的理解力をベースとし、国際的な特許出願や商標出願等ができるように中小企業等を支援する。

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