【医師監修】子どもの夜泣き:つらい夜に寄り添い、乗り越えるためのヒント

夜、ぐっすり眠っているはずの子どもが突然、金切り声を上げて泣き叫んだり、恐ろしいものから逃げるようにパニックになったりするのを見て、どうしたらいいかわからず途方に暮れた経験はありませんか?もしかしたら、それは夜驚症(やきょうしょう)かもしれません。今回は、睡眠を専門とする立場から、夜驚症について分かりやすく解説していきます。
◆夜驚症とは?
夜驚症は、睡眠時随伴症と呼ばれる睡眠中の異常行動の一種です。深いノンレム睡眠の途中で、突然パニック状態になって、大声で叫んだり、泣いたり、恐怖におびえたりする症状が特徴です。
・起きているわけではない:子どもは目を開けていることもありますが、意識はもうろうとしており、親御さんが話しかけてもほとんど反応がありません。夢を見ているようにも見えますが、実は夢とも異なります。
・記憶がない:翌朝、子どもに昨晩のことを尋ねても、ほとんどの場合、何も覚えていません。泣き叫んだり、おびえたりした記憶もないのが一般的です。
・症状の持続時間:症状は数分から長くても15分程度でおさまります。その後、子どもは再び何事もなかったかのように眠りにつきます。
夜驚症は、一般的に3歳から小学校入学前くらいの子どもによく見られます。成長とともに自然に症状が出なくなることがほとんどなので、過度に心配する必要はありません。
◆夜驚症と悪夢の違い
悪夢も夜中に泣き叫ぶ原因になりますが、夜驚症とは明確な違いがあります。
○ 夜驚症
・発生する睡眠段階:深いノンレム睡眠(グッスリ眠っている段階)
・症状:パニック、叫び声、恐怖、寝ぼけたような状態。呼びかけに反応しにくい。
・翌朝の記憶:ほとんどない
・年齢層:3歳~小学校入学前
○ 悪夢
・発生する睡眠段階:レム睡眠(夢を見ている段階)
・症状:恐怖、不安。呼びかけると目覚めて反応する。
・翌朝の記憶:鮮明に覚えていることが多い
・年齢層:どの年齢でも起こりうる
悪夢の場合、子どもは目が覚めて恐怖を訴えます。悪夢の内容を話してくれることもあり、親御さんが抱きしめてあげることで安心し、落ち着きを取り戻せます。しかし、夜驚症の場合は、意識がはっきりしないため、話しかけたり、抱きしめようとしたりしても、さらにパニックになることもあります。
◆夜驚症の原因と対処法
夜驚症の正確な原因はまだはっきりとは分かっていませんが、脳の発達の未熟さが一つの要因と考えられています。深い眠りから浅い眠りへの切り替わりがスムーズに行われず、その途中で脳が一時的に混乱してしまうために起こるとされています。
また、以下のようなことが引き金になる可能性も指摘されています。
・睡眠不足:眠る時間が遅かったり、昼寝が少なかったりして、睡眠時間が足りていない。
・疲労やストレス:日中、たくさん遊んで疲れたり、新しい環境への適応などでストレスを感じたりしている。
・発熱:熱があるときにも、夜驚症のような症状が出ることがあります。
◆親御さんにできること
夜驚症が起きたとき、親御さんは不安でいっぱいになると思いますが、一番大切なのは落ち着いて見守ることです。
・安全の確保:子どもがベッドから落ちたり、壁にぶつかったりしないように、周囲の危険物を取り除いてあげましょう。
・無理に起こさない:無理に揺り動かしたり、大声で話しかけたりすると、かえってパニックを悪化させてしまうことがあります。静かに寄り添い、優しく背中をさすってあげる程度に留めましょう。
・翌朝は触れない:子どもは夜の出来事を覚えていないことがほとんどです。翌朝、昨晩の出来事を話すことで、子どもが不安になる可能性があります。夜驚症のことはそっとしておいてあげましょう。
◆予防策
夜驚症を予防するために、日頃から子どもの睡眠環境を整えてあげることが重要です。
・規則正しい生活リズム:毎日同じ時刻に眠って、同じ時刻に起きる習慣をつけましょう。
・十分な睡眠時間:子どもの年齢に合った十分な睡眠時間を確保しましょう。
・眠る前のリラックスタイム:眠る前に激しい遊びは避け、絵本を読んだり、穏やかな音楽を聴かせたりして、心と体をリラックスさせてあげましょう。
◆おわりに
夜驚症は、成長の過程で多くの子どもに見られる現象です。親御さんが不安に思ったり、どうすればいいか分からなくなったりするのは当然のことです。しかし、ほとんどの場合、子どもが大きくなるにつれて自然と治まります。もし、症状が頻繁に起こる、長引く、または日中の生活にも影響が出ているようであれば、小児科医や睡眠専門医に相談することも一つの選択肢です。
今回のコラムが、夜驚症に悩む親御さんの不安を少しでも和らげる一助となれば幸いです。子どもの健やかな成長を、専門家として心から応援しています。
雨晴クリニックでは、 夜驚症の診療を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。



