少年院送致を避けるための環境調整|家庭でできる準備

若井亮

若井亮

テーマ:少年事件

お子さんが事件を起こし、家庭裁判所の審判を待つ立場になったとき、ご家族が最初に口にするのは「少年院にだけは行かせたくない」という言葉であることが少なくありません。弁護士に相談すると「環境調整が大切です」と説明されますが、その中身が具体的に何を指すのかは、言葉だけではつかみにくいところがあります。

 少年審判では、何をしたのかという事実に加えて、その少年が同じことを繰り返さずに生活していけるか、そのために何が必要かが判断されます。ここで大きな意味を持つのが、少年が戻っていく生活の場そのものです。この記事では、環境調整という言葉が実際には何を指しているのかを整理したうえで、家庭の側で準備できることを場面ごとに説明します。

「環境調整」とは何を指す言葉か

 環境調整は、条文に定義が置かれている用語ではなく、少年事件の実務で使われている呼び方です。指しているのは、少年を取り巻く生活の条件を作り直していく作業のまとまりで、家庭の中での関わり方、学校や職場との関係、交友関係、時間の使い方、金銭の管理といった、日々の暮らしの形が対象になります。

 言い換えると、環境調整とは、審判の日に向けて何かを提出する作業ではなく、少年が事件の前と同じ生活に戻らないよう、家庭の側の仕組みを組み替えていく作業です。書面はその結果を伝える手段であって、出発点ではありません。

弁護士だけが行うものではない

 法律事務所の説明では、環境調整は付添人の活動として紹介されることが多くあります。実際に付添人が担うのは、学校や職場との連絡役、調査官や裁判所への説明、家庭で起きている変化を書面の形にまとめる部分などです。

 もっとも、生活そのものを組み替えられるのは、少年と一緒に暮らしている人たちだけです。外から持ち込める部分には限りがあり、中身を作るのは家庭の側になります。付添人がいる場合でも、家庭が何もしないままでは、伝えるべき材料が生まれません。

何が少年院送致との分かれ目になるのか

 家庭裁判所が言い渡す保護処分には、社会の中で生活を続けながら指導を受けるものと、施設に入って生活するものがあります。少年院送致は後者にあたり、今の生活の場に戻して指導を重ねるだけでは立ち直りを支えきれないと見られたときに選ばれる処分です。

見られているのは「戻る先」

 同じような事件でも処分が分かれることがあるのは、判断されているのが事件の内容だけではないためです。少年をこれまでの生活に戻したとき、繰り返しを防ぐ働きかけがその場で続けられるのかという見通しが、あわせて検討されます。

 そのため、事件の内容が比較的軽くても、生活が崩れていて帰る先が定まらない状態であれば、施設での処遇が検討されることがあります。反対に、事件の内容が重く見られる場合であっても、生活の側に立て直しの手がかりがあれば、社会の中での処遇が選ばれることがあります。

すでに処分を受けたことがある場合

 保護観察を受けている最中の非行は、社会の中での指導が十分に働かなかったという見方につながりやすい事情です。守るべき事項に従わない状態が重いと判断された場合に、あらためて施設での処遇に切り替える決定が用意されていることも、少年法の仕組みとして押さえておく必要があります。

 この場面で問われるのは、前と同じ形の約束を繰り返すことではありません。前回の指導のときと何を変えたのかを、生活の形として示せるかどうかが分かれ目になります。

家庭が整えるのは五つの経路

 環境調整と聞くと、家族の仲を良くする、反省させるといった抽象的な話として受け取られがちです。しかし実際に説明を求められるのは、もっと具体的な事柄です。整理すると、次の五つに分けて考えると準備がしやすくなります。

整える対象関心が向きやすいところ家庭で決めておくこと
時間と所在昼夜のリズム、深夜の外出、日中どこで何をしているか起床と就寝の時刻、帰宅時間、外出時の連絡の仕方
お金小遣いや収入の額、使い道、事件との結びつき現金とカードの管理、記帳の担当、被害弁償の原資
人間関係事件に関わった相手や、非行を後押しした相手との距離連絡先の扱い、会う場所と時間の制限、断り方の確認
所属学校や職場に戻れるか、日中に通う場所があるか在籍の見通し、担任や上司との連絡役、通学通勤の手段
支える人と相談先家庭の外に助けを求められる相手がいるか同居家族の役割分担、相談する機関、通所の予定


五つに分けて考える理由

 「気をつけます」「見守ります」という言い方は、家庭の中では通じても、外に向けた説明としては形になりません。誰が、いつ、どうやって確認するのかまで決まって初めて、続けられる仕組みとして説明できるようになります。

 五つに分けるのは、抜けを見つけやすくするためでもあります。生活時間だけを整えても、金銭の管理と交友関係がそのままであれば、同じ経路がそのまま残ります。どの経路が事件に結びついていたのかを確かめ、そこから手をつけていくのが順序として自然です。

急ごしらえの体制が伝わりにくい理由

 審判の直前に作った決まりごとには、まだ守られた実績がありません。書面にすれば形は整いますが、続けられるかどうかを裏づける材料が伴わないため、説明としては弱くなります。

 一方で、事件の直後に始めて、途中で崩れながらも修正を重ねてきた取り組みは、実際に起きた出来事として説明できます。新しく整えた形よりも、すでに動いていて続いている事実のほうが伝わりやすいという点は、早い時期から準備を始める理由でもあります。

生活の時間と所在を作り直す

 夜間の行動が事件と結びついている場合、生活時間の立て直しは中心的な課題になります。昼夜が逆転している、深夜に外出する、日中どこにいるのか家族が把握していないといった状態は、そのままでは繰り返しを防ぐ手立てがないと見られやすくなります。

守れる水準で決める

 この場面でよくあるのが、家庭の中で厳しい決まりを一度に作ってしまうことです。門限を大幅に早める、外出をすべて禁じるといった決め方は、数日で崩れることが少なくありません。守られなくなった決まりは、守られていないという事実だけが残ります。

 決めるときは、今の生活から一段だけ変える水準に置き、守れているかどうかを毎日確認できる形にしておくほうが続きます。守れなかった日があった場合に、どう立て直すかまで話し合っておくと、崩れた時点でやめてしまう事態を避けやすくなります。

記録の残し方

 毎日の起床時刻や帰宅時刻、通学や通所の状況を、簡単な形で書き留めておくと、後から経過を説明できるようになります。凝った様式は必要なく、カレンダーへの書き込み程度でも足ります。

 書き留めるのは、良い日だけではありません。崩れた日と、その後どう戻したのかまで残っているほうが、実際の生活として受け止められやすくなります。

お金の流れと被害弁償

 金銭が事件の背景にある場合、手元のお金がどう動いていたのかは避けて通れない論点になります。小遣いの額、アルバイトの収入、使い道、家族が把握していない収入がなかったかといった点が確認されます。

手元のお金をどう管理するか

 現金を渡す頻度と金額を見直す、カードや電子決済の利用を家族が確認できる形にする、通帳や明細を一緒に見る日を決めるといった対応が考えられます。ここでも、誰がいつ確認するのかを決めておくことが要点です。

 管理を強めることが目的ではなく、少年自身が使い方を説明できるようになることが目標になります。取り上げて終わりにすると、外から借りるなど別の経路が生まれることがあります。

被害者への対応は家庭が直接動かない

 被害者がいる事件では、謝罪と被害の回復が重要な意味を持ちます。ただし、家庭から被害者やその家族に直接連絡を取ることは避けるべき場面が多いといえます。連絡そのものが負担と受け取られることがあり、後の話し合いを難しくすることもあります。

 謝罪の意思を伝える経路や時期は、付添人を通じて確かめてから動くのが安全です。家庭の側で用意しておくとよいのは、弁償に充てられる原資の見通しと、誰がどのように負担するのかという話し合いの結果です。

交友関係とスマートフォン

 共犯者がいる事件や、特定の相手との関わりの中で繰り返されてきた非行の場合、交友関係の整理が課題になります。ここは、家庭にとって踏み込みにくい領域でもあります。

連絡先の切り方

 やり取りを止めると決めても、方法まで決まっていないと元に戻りやすくなります。連絡手段をどうするか、会う約束を持ちかけられたときにどう断るか、断りにくい相手にはどう対応するかを、あらかじめ言葉にして決めておくと実行しやすくなります。

 相手が同じ学校や同じ職場にいる場合は、関わりを完全になくすこと自体が現実的でないこともあります。その場合は、会う場所や時間帯を限る、二人だけで行動しないといった形で、実行できる範囲に落とすほうが続きます。

取り上げるだけでは説明が続かない

 端末を取り上げる対応は、その場では分かりやすい変化に見えます。ただ、返した後にどうするのかが決まっていなければ、状態としては元に戻ります。使う時間帯を決める、家族の目の届く場所で使う、アプリの追加を相談してから行うといった形で、返した後の運用まで決めておくほうが説明として続きます。

 なお、事件に関係するやり取りを消したり、端末を初期化したりすることは避けてください。証拠を残さない行動と受け取られるおそれがあり、立て直しの取り組みそのものの見え方にも影響します。

学校・職場という「所属」

 日中に通う場所があるかどうかは、生活の立て直しを支える柱になります。在学中であれば在籍を保てるか、働いているのであれば職場に戻れるかという点が、早い段階から問題になります。

在籍を保つための連絡

 学校や勤務先への説明は、時期と伝え方によって受け止められ方が変わります。家庭の判断だけで先に説明してしまうと、後から取り返しにくい状況になることもあるため、どの範囲に何を伝えるかは付添人と相談してから進めるのが安全です。

 連絡役は家庭の中で一人に決めておくと、伝えた内容の食い違いを防げます。誰がどの窓口とやり取りするのかを最初に決めておいてください。

所属がない場合

 学校を離れている、仕事も決まっていないという状態であれば、日中の過ごし方を作ること自体が準備になります。通信制課程や定時制課程への進学、資格取得の講座、地域の就労支援の窓口、親族の家業の手伝いなど、続けられる形であれば入口はさまざまです。

 ここでも、決まっていない予定を約束として示すことは避けてください。申し込みが済んでいる、面談の日程が入っているといった、確かめられる段階まで進めてから伝えるほうが、実際の準備として受け止められます。

保護者自身の関わり方も見られている

 少年事件の調査で確認されるのは、少年の様子だけではありません。家庭の中でどのような関わり方がされてきたのか、これから誰がどう支えるのかという点も、あわせて確かめられます。

家庭裁判所は保護者にも働きかける

 少年法には、家庭裁判所が保護者に対して訓戒や指導その他の措置をとることができるという定めが置かれています。少年の問題として切り離すのではなく、家庭全体の課題として扱われる場面があるということです。

 この点を踏まえると、保護者の側にも準備があります。これまでの関わり方で足りていなかったと感じている部分、これから変えようとしていること、実際に始めていることを、自分の言葉で説明できる状態にしておくことです。

家族の間で説明が食い違わないように

 両親や同居の家族がそれぞれ別の説明をすると、家庭の中で方針が定まっていない印象につながります。あらかじめ話し合いをしておくべきなのは、事件そのものの説明ではなく、これからの役割分担です。

 誰が生活時間を確認するのか、金銭の管理は誰が担うのか、少年が困ったときに最初に話す相手は誰かといった点を決めておくと、それぞれが同じ内容を説明できるようになります。

家庭だけで抱え込まないために

 事件の後、家庭が孤立してしまうことは珍しくありません。しかし、家庭の中だけで完結する体制よりも、外に相談先がある体制のほうが、続けやすく、説明もしやすくなります。

少年鑑別所の相談窓口

 少年鑑別所は、事件で送致された少年を収容するだけの施設ではありません。少年鑑別所法に基づく地域援助として、法務少年支援センターの名称で、一般の方からの相談を受け付ける業務が行われています。

 夜遊びや外泊、暴力といった問題行動への対応の仕方、本人の特性を知るための心理検査など、心理学等の専門の職員が対応します。相談は無料で、事件になっているかどうかにかかわらず利用できます。受付の時間や方法は施設ごとに案内されているため、お住まいの地域の少年鑑別所に確認してください。

  • お住まいの地域の少年鑑別所(法務少年支援センター)の相談窓口。
  • 自治体の子ども家庭に関する相談窓口や児童相談所。
  • 学校のスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー。
  • 就学や就労を支える地域の支援機関。
  • かかりつけの医療機関、または地域の相談機関で紹介される専門機関。


裏目に出やすい準備

 よかれと思って行ったことが、かえって不利に働く場面もあります。次のような行動は、動き出す前に確認しておいてください。

  1. 事件の説明を家族と少年ですり合わせておくこと。話の一致そのものが疑いを招くことがあります。
  2. 被害者やその家族に、家庭から直接連絡を取ること。
  3. 少年の端末を初期化したり、やり取りを削除したりすること。
  4. 面接や審判の場で、保護者が少年に代わって答えてしまうこと。
  5. 実行の見込みが立っていない転居、転校、就職を約束として示すこと。
  6. 学校や勤務先への連絡を、家庭の判断だけで先延ばしにすること。


決定の後も環境調整は続く

 審判の日が終われば環境の調整も終わる、というわけではありません。制度の側にも、決定の後に生活環境を整えていく仕組みが置かれています。

保護観察になった場合

 少年法には、保護観察と少年院送致の決定において、保護観察所の長に家庭その他の環境の調整に関する措置を行わせることができるという定めがあります。家庭が事件の後に始めた取り組みは、決定の後の指導の中でもそのまま引き継がれていくことになります。

少年院送致になった場合

 更生保護法には、少年院に収容されている人について、保護観察所の長が家族その他の関係人を訪問するなどして、釈放後の住居や就業先といった生活環境を調整するという定めがあります。収容されている間も、戻る先を整える作業は続きます。

 つまり、審判前に家庭が積み上げた準備は、望んだ決定にならなかった場合でも引き継がれていくということです。準備の意味は、審判の日だけにあるわけではありません。

動き出す前に確かめておきたいこと

 ご家庭の状況によって、優先して手をつけるべき場所は変わります。次の点を確かめたうえで、順序を決めていってください。

  • 事件が今どの段階にあり、次に何が予定されているか。
  • 調査官との面接や家庭訪問の予定が入っているか。
  • 少年が今どこにいて、いつ会うことができるか。
  • 家庭の中で誰が窓口になり、学校や勤務先とやり取りするか。
  • 被害者がいる事件で、謝罪や弁償の話をどの経路で進めるか。


少年事件のご相談について

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件と少年事件のご相談をお受けしています。お子さんの事件では、ご本人だけでなくご家族が何をすればよいのか分からないまま時間が過ぎてしまうことが少なくありません。今の段階で何ができるのか、どこから手をつけるべきかを整理するところから、一緒に考えていきます。

まとめ


  1. 環境調整とは、少年が戻っていく生活の条件を作り直す作業を指す実務上の言葉である。
  2. 少年院送致は、今の生活の場での指導では立ち直りを支えきれないと見られたときに選ばれる。
  3. 家庭が整えるのは、時間と所在、お金、人間関係、所属、支える人と相談先の五つに整理できる。
  4. 決まりごとは、誰がいつどうやって確認するかまで決めて初めて、説明できる材料になる。
  5. 直前に作った形よりも、途中で崩れながらも続いている事実のほうが伝わりやすい。
  6. 保護者の関わり方も確認の対象で、家庭裁判所が保護者に働きかける仕組みも置かれている。
  7. 被害者への直接の連絡や端末の処分など、家庭が独自に動くと裏目に出やすい場面がある。
  8. 決定の後も環境の調整は続くため、審判前の準備が無駄になるわけではない。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼