挿入がなくても罪になる場面|不同意わいせつ罪との線引き
女性用風俗(「女風(じょふう)」と呼ばれることもあります)が広く知られるようになるにつれて、料金や行為をめぐるトラブルの相談も表に出てくるようになりました。ただ、風俗トラブルを扱う解説のほとんどは男性が客である場面を前提に書かれていて、女性が客の側に立ったときに法律がどう働くのかは、まとまった形では整理されていません。この記事では、女性用風俗を利用した女性客が当事者になる場面を、責任を問われる側になる場合と、被害を受けた側になる場合の両方から整理します。男性向けの風俗と共通する部分も多いため、男性の利用者にとっても、自分の側の立ち位置を確かめる材料になるはずです。
この記事で扱う範囲
成人同士のやり取りを前提としています。18歳未満が関わる場合、すでに逮捕されている場合、警察や検察から呼び出しを受けている場合は、一般論だけでは判断できません。早い段階で個別に相談してください。
また、この記事は特定の行為を勧めるものでも、利用そのものを責めるものでもありません。個別の店舗やサービスの評価にも触れません。金額の相場についても、事情によって大きく変わるため取り上げていません。
女性用風俗は「法律の外」にある業態ではない
まず整理しておきたいのが、「女性向けのサービスだから風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)とは関係がない」という理解が広く見られる点です。しかし、条文はそのようには読めません。
風営法2条7項1号は、無店舗型性風俗特殊営業の一つとして「人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの」を挙げています。ここでいう「異性の客」は、男性が女性に提供する場合も、女性が男性に提供する場合も含む書き方です。自宅やホテルにセラピストを呼ぶ形の女性用風俗は、この類型に当てはまると整理されるのが一般的です。
この類型に当たる営業をしようとする者は、事務所の所在地を管轄する公安委員会に届出をしなければなりません(同法31条の2)。届出をせずに営業すれば、罰則の対象になります。実際、女性用風俗の店舗情報サイトの運営者が、掲載しているのは無店舗型性風俗特殊営業の届出を出している店に限られ、届出をせずに営業する個人も存在すると聞いている、と述べたことが2026年3月に報じられています。
すべての女性用風俗が同じ扱いになるわけではない
添い寝やデートのみで、性的な接触を伴わないと整理されるサービスは、この類型に当てはまらない場合があります。反対に、マンションの一室に客を迎える形をとっていれば、店舗型として別の規制が問題になります。看板やコース名ではなく、実際に何が行われているかで判断されるという点は、男性向けの風俗と変わりません。
この違いは、客の側にも影響します。届出のない営業だったからといって、支払った料金が当然に戻ってくるわけではありませんし、客が届出義務の違反に問われるわけでもありません。ただ、店が公的な手続きの外にいる場合、トラブルが起きたときに連絡先すらたどれなくなることがあります。
男性が客の場合と、同じところ・違うところ
| 観点 | 男女で共通する点 | 女性が客の場合に特に問題になる点 |
|---|---|---|
| 風営法上の位置づけ | 派遣型は届出が必要な営業として扱われる | 「女性向けだから対象外」という誤解が残りやすい |
| 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪 | 条文は当事者の性別を限定していない | 問われる側にも、被害を受けた側にもなりうる |
| 撮影に関する罪 | 撮る側・撮られる側の性別を問わない | 自分が撮る場面と、撮られる場面の双方が起こる |
| 店から客への金銭請求 | 規約や誓約書を根拠に行われることが多い | 請求の根拠が示されないまま金額だけ伝えられる例がある |
| 恋愛感情に乗じた営業 | 金銭をめぐる争いの背景になりやすい | 2025年の改正で規制されたのは接待飲食営業で、直接には及ばない |
| 警察への相談 | 自分の行為も問われうる場合に相談しづらい | 「自分から呼んだ」という引け目が加わりやすい |
ホストクラブに入った規制が、そのまま当てはまるわけではない
2025年6月28日、風営法の改正法(令和7年法律第45号)の大部分が施行されました。ホストクラブやキャバクラなどの接待飲食等営業について、料金に関する虚偽の説明、客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求、客が注文していない飲食等の提供などが遵守事項として追加され、注文や支払をさせる目的での威迫、売春や性風俗店での勤務・AV出演の要求は、罰則付きで禁止されました。性風俗店については、スカウトによる紹介への報酬(いわゆるスカウトバック)の禁止が新たに設けられています。
注意したいのは、恋愛感情に関するこれらの規定が向けられているのは接待飲食等営業であるという点です。女性用風俗は性風俗関連特殊営業に位置づけられるため、同じ規定がそのまま適用されるわけではありません。セラピストへの好意を背景に高額の利用が重なったという相談でも、風営法の新しい条文で解決するというより、民法の詐欺・錯誤・不法行為といった一般的な規定に立ち返って検討することになる場面が多くなります。
女性客が責任を問われる側になる場面
性的な行為をめぐるもの
2023年7月13日に施行された刑法改正で、強制わいせつ罪・強制性交等罪は不同意わいせつ罪(176条)・不同意性交等罪(177条)に改められました。暴行や脅迫のほか、アルコールの影響、拒む余裕がなかったこと、経済的・社会的な関係に基づく影響力など、同意しない意思を示すことが難しい状態を生じさせる事情が条文に列挙されています。
これらの条文は、行為をする側の性別も、される側の性別も限定していません。店の規則で禁止されている行為を強く求めた、いったん断られたのに続けたといった場面では、女性客の側が問われる可能性があります。「料金を払っている」「そういうサービスだと思っていた」という説明は、それだけで同意があったことを示すものにはなりません。
撮影に関するもの
同じ日に施行された性的姿態撮影等処罰法は、性的な部位や下着姿などを同意なく撮影する行為を処罰の対象としています。この法律も、撮る側・撮られる側の性別を区別していません。記念のつもりだった、顔は写っていないといった事情があっても、撮影そのものが問題になります。撮った画像を友人に送る行為は、提供として別に評価されます。
連絡や接触をめぐるもの
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるつきまとい等を対象としており、こちらも性別を問いません。店を通さずに連絡を取り続ける、本名や自宅を調べる、SNSで名前を挙げて繰り返し投稿するといった行為は、指名を重ねてきた関係であっても対象から外れるわけではありません。
料金の支払をめぐるもの
延長料金、キャンセル料、指名料などの不払いを理由に請求を受けることがあります。ここでの争点は「払うか払わないか」ではなく、「いくらなら払う義務があるか」であることがほとんどです。キャンセル料の条項は、平均的な損害を超える部分について消費者契約法9条1項1号により効力を否定される余地がありますが、条項があるだけで無効になるわけでもありません。実際の運用と、店側が主張する損害の中身を確認していく作業になります。
女性客が被害を受けた側になる場面
立場は簡単に入れ替わります。次のような相談は、女性用風俗に限った話ではありませんが、女性が客の側に立つことで、相談のしづらさが加わる点に特徴があります。
- サービスの範囲を超えた行為をされた、拒んだのに続けられた。
- 同意なく撮影された、撮られた画像をもとに関係の継続を求められた。
- 当日になって聞いていない追加料金を告げられ、その場で支払ってしまった。
- 好意を前提に、貸付けや立替えという形で金銭を求められた。
- 店を通さない個人的なやり取りに移った後で、金銭や関係をめぐる問題が生じた。
- 利用していた事実や本名を、SNSや周囲の人に明かされた。
このうち、同意なく行われた性的な行為や撮影については、女性客が問われる側になる場面と同じ条文が、今度は女性客を守る側で働きます。条文が性別を限定していないというのは、そういう意味です。
注意が必要なのは、店を通さない個人的なやり取りに移っていた場合です。店の側は「業務外の私的な関係で起きたことだ」として関与を断ることが多く、店に対して責任を問う道は狭くなります。一方で、相手個人に対する請求ができなくなるわけではありません。どこまでが店とのやり取りで、どこからが個人とのやり取りだったのかを、記録の上で切り分けておくことが役に立ちます。
「呼んだこと」「払ったこと」は同意の証明にならない
女性用風俗をめぐる相談で、最もすれ違いが起きやすいのがこの点です。整理しておきます。
- 会うことへの同意と、個々の行為への同意は、別のものとして扱われます。
- 料金は提供される役務の対価であって、その場で起こるすべてのことへの包括的な同意ではありません。
- その場で強く拒めなかったことは、同意があったことを意味しません。2023年の改正では、驚きや恐怖で反応できなかった、拒む余裕がなかったといった事情が、同意しない意思を示しにくい状態として条文に書き込まれています。
この考え方は、一方向にだけ働くものではありません。女性客が問われる側になった場面でも同じです。「相手が嫌がっているように見えなかった」「断られなかった」という説明は、それだけでは同意があったことの説明になりません。自分が被害を訴えるときに頼りにする理屈は、自分が説明を求められる側に回ったときにも、そのまま向けられます。
あわせて問題になりやすい2つの論点
売春防止法との関係
売春防止法2条は、売春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義しています。主語は対償を受け取る側です。女性用風俗で対償を受け取るのはセラピストの側ですから、この定義への当てはめは、まずセラピスト側について検討されることになります。
同法3条は「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定めており、性別を限定していません。ただし、この条文に罰則は付いていません。罰則が向けられているのは、周旋、場所の提供、管理売春といった行為です。客がどこに置かれているかについては、別のコラムで条文に沿って整理しています。
結婚している場合の民事責任
既婚の方の場合、配偶者に知られたときに慰謝料を請求される可能性があります。有償のサービスであること、恋愛感情がなかったことは、結論を当然に左右する事情ではありません。一方で、請求されたからといって、言われた金額をそのまま負担することになるわけでもありません。この点は、請求される側の立場から別のコラムで整理しています。
起きた直後にとる行動と、避けたい行動
その場で結論を出さないことが、いちばん効きます。そのうえで、次のことをしておくと選択肢が残ります。
- 店名、セラピストの源氏名、利用した日時と場所を、覚えているうちに書き出す。
- 予約に使ったアプリやサイトの画面、メッセージのやり取り、決済の記録を、消さずに保存する。
- 金額を告げられた場合は、その名目と根拠を書面かメッセージで示すよう求める。
- 体に痛みや不調がある場合は、早めに医療機関を受診し、記録を残す。
- 支払や合意を求められても、その場では返答を保留し、いったんその場を離れる。
反対に、避けたほうがよい行動もあります。
- その場で示された書面に、内容を確認しないまま署名する。
- 現金をその場で渡し、受領の記録を残さないまま終える。
- 相手や店とのやり取りを削除する。不利に見える内容でも、消したこと自体があとで不利に働きます。
- SNSに経緯を書き込む。相手の名前を出せば、別の問題を抱えることになります。
- 「これで最後にしてほしい」とだけ伝えて支払う。範囲を決めずに払うと、同じ話が繰り返されることがあります。
相談先をどう選ぶか
相談先は、警察、消費生活センター、弁護士の三つが基本になります。どこから入るかは、自分の側に問われうる行為があるかどうかで変わります。
自分の行為に問題がないことがはっきりしている場合は、警察への相談が有効です。一方、自分の行為も問われうる場合には、順序を考える必要があります。被害を届け出た結果、自分の行為についても説明を求められることがあるためです。この場合は、先に弁護士に事情を整理してもらってから進めるほうが、結果として安全なことが多いといえます。
よくある質問
男性が客の場合と、法律の扱いは違うのですか
性犯罪や撮影に関する条文は当事者の性別を限定していないため、扱いは基本的に同じです。違いが出るのは、規制の当てはまり方(ホストクラブ向けの規定が及ばないなど)と、相談のしづらさの中身のほうです。
店とセラピスト個人の、どちらに話せばよいのでしょうか
料金や予約に関することは店、行為そのものに関することは相手個人が中心になります。もっとも、店に所属して働いている以上、店の側にも一定の責任が問われる余地はあります。どちらか一方に絞る前に、二つの層があることを意識して、やり取りの記録を残しておくのがよいでしょう。
名前を出さずに相談できますか
最初の問い合わせの段階で、事情の概要だけを伝えて相談することはできます。ただし、相手方が誰かを確認しないと利益相反の有無を確かめられないため、依頼に進む段階では一定の情報が必要になります。
まとめ
- 女性用風俗も、派遣型であれば風営法上の届出が必要な営業として扱われます。「女性向けだから法律の外」ではありません。
- 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪も、撮影に関する罪も、当事者の性別を限定していません。女性客が問われる側にも、被害を受けた側にもなりえます。
- ホストクラブを念頭に置いた2025年の改正は接待飲食営業に向けられたもので、女性用風俗には直接には及びません。
- 「呼んだ」「払った」ことは、個々の行為への同意を示すものではありません。この理屈は、自分が説明を求められる側に回ったときにも同じように働きます。
- その場で署名や支払を済ませないこと、記録を消さないことが、あとの選択肢を残します。
- 自分の側にも問われうる行為がある場合は、相談の順序を考えたほうが安全です。
早く相談すれば必ず良い結果になる、というものではありません。ただ、選べる手が残っているうちに事情を整理しておくかどうかで、取りうる対応の幅は変わります。


