「その分野に強い弁護士」をどう見分けるか|専門・注力表示の読み方

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士を探していると、事務所のサイトやポータルサイトで「○○に強い弁護士」「専門分野」「注力分野」「得意分野」といった言葉に出会います。ただ、これらの言葉が何を意味しているのか、どこまでが自己申告でどこからが裏づけを伴うのかは、外からは見えにくいところです。

 実は、弁護士の広告に使われる言葉には、日本弁護士連合会(日弁連)が定めた規程と指針という共通のルールがあります。そのルールを知ったうえで読むと、同じページから受け取れる情報の量は変わってきます。この記事では、表示に使われる言葉の段階、数字や解決事例の読み方、そして自分の事案に合っているかを確かめる手順を整理します。

前提:弁護士に公的な「専門認定」の制度はない


医師の専門医制度にあたるものが存在しない


 医師の世界には、一定の要件を満たした人が特定の領域の専門医であることを表示できる仕組みがあります。弁護士には、これに相当する全国共通の認定制度がありません。弁護士は資格のうえではすべての法律分野を取り扱うことができ、どの分野を中心に扱うかは、実際の業務の積み重ねによって決まっていきます。

 つまり、「専門」という言葉が第三者の審査を経て与えられているわけではない、というのが出発点になります。

日弁連の指針は「専門」表示を控えるよう求めている


 日弁連の「業務広告に関する指針」は、専門分野といえるためには特定の分野を中心的に取り扱い、経験が豊富で処理能力が優れていることが必要と考えられるものの、現状では何を基準として専門分野と認めるのか、その判定が困難であるとしています。そのうえで、客観性が担保されないまま専門家や専門分野といった表示を許すことは誤導のおそれがあるため、表示を控えるのが望ましいとしています。スペシャリスト、プロ、エキスパートといった用語についても同様とされています。

 ここから、次の二つが言えます。

  • 「専門」と書いていないことは、その分野の経験がないことを意味しない
  • 「専門」と書いてあることは、第三者が経験を確かめた結果ではない


 この指針は近年も改正が重ねられており、運用は少しずつ更新されています。

表示に使われる言葉には段階がある


指針が整理している四つの言い方


 指針は、分野に関する表示について次のように整理しています。並べて読むと、どの言葉を選んでいるかということ自体が、一つの情報になります。

表示に使われる言葉指針上の位置づけそこから読めること
取扱い分野・取扱い業務専門等の評価を伴わない表示として、問題がないとされているその分野を取り扱う、という事実の表示
積極的に取り組んでいる分野・関心のある分野豊富な経験はないが取扱いを希望する分野について、こう表示することが望ましいとされているこれから力を入れていく段階であること
得意分野主観的な評価であることが明らかなので、問題がないとされている(得意でないものを得意と表示する場合は別)その弁護士自身がそう評価していること
専門・スペシャリスト・プロ・エキスパート客観性が担保されないため、表示を控えるのが望ましいとされている判定の基準を伴わない自称であり得ること


「注力分野」は指針の例示にない言葉


 多くのサイトやポータルサイトで見かける「注力分野」は、指針が例として挙げている言葉ではありません。事務所やポータルサイトが独自に使っている表現で、意味の幅もそれぞれです。「取扱い分野」に近い意味で使われていることもあれば、「得意分野」に近い意味で使われていることもあります。

 したがって、「注力分野」と書かれていること自体からは、経験の量までは読み取れません。見るべきは、その言葉の下に何が書かれているかです。

ラベルより、その下の記述の粒度を見る


 同じ「相続」でも、分野名が並んでいるだけのページと、遺産分割・遺留分・相続放棄・遺言の効力といった論点ごとに考え方が書かれているページとでは、読み手が受け取れる情報量がまるで違います。

 分野名は誰でも書けますが、論点ごとの説明は、実際に扱っていないと書きにくいものです。言葉のラベルよりも、その下の記述の粒度のほうが手がかりになります。

数字の表示をどう読むか


「取扱件数○○件」は数え方で意味が変わる


 指針は、誤導または誤認のおそれのある広告の例として、交通事故の損害賠償事件の件数を損害賠償事件の取扱件数に含めて延べ件数で表示し、あたかも損害賠償事件全般に習熟しているかのような印象を与える表現を挙げています。

 件数を示すこと自体が問題なのではなく、何を、どの範囲で、どの期間、誰について数えたのかが分からないと意味を読み取れない、ということです。事務所全体の累計なのか、担当する弁護士個人のものなのか。相談を含むのか、受任した件数なのか。この点が添えられている数字は、そのぶん読みやすくなります。

勝訴率は、そもそも表示できないことになっている


 「弁護士等の業務広告に関する規程」は、訴訟の勝訴率を広告に表示できない事項として挙げています。指針も、勝訴率の表示は誤導または誤認のおそれのある広告にあたる例としています。勝ち負けの数え方に共通の基準がなく、事案の難易も一つひとつ異なるためです。

 同じ趣旨から、指針は「常勝」「不敗」のように結果を保証または確信させる用語、「完璧」「パーフェクト」といった完全を意味する用語、「信頼性抜群」「顧客満足度」のように実証が難しい優位性を示す用語、「最も」「一番」といった最大級の表現について、使用には十分な注意が必要としています。

「相談実績○○件」が指している範囲


 指針は、法律相談実績として、相談の申込みはあったが実際には回答していないものや、弁護士が直接回答していないものまで含めて記載することを、事実に合致しない広告の例として挙げています。

 裏返せば、実績の数字を見るときには、それが何をもって一件と数えたものかを確かめる価値がある、ということになります。

解決事例と「お客様の声」の読み方


事例が具体的すぎないのは、守秘義務の要請でもある


 規程は、過去に取り扱い、または関与した事件を広告に表示することを原則として認めていません。誰が依頼者であったかということ自体が、守秘義務の対象だからです。例外として表示できるのは、依頼者の書面などによる同意がある場合、広く一般に知られている事件で依頼者の利益を損なうおそれがない場合、依頼者が特定されない場合で依頼者の利益を損なうおそれがない場合に限られます。

 ですから、解決事例が抽象的に書かれていること自体は、経験の乏しさを示すものではありません。むしろ、依頼者が特定されかねないほど具体的な事例が並んでいる場合のほうが、慎重に見る必要があります。

架空の事例や脚色は認められていない


 指針は、事実に合致しない広告の例として、解決事例に架空の事例を記載すること、解決できた場合であっても表示されたとおりの解決ができなかった事例を脚色して記載すること、お客様の声として実在の依頼者が関与していない文章を記載することを挙げています。

 読む側から事例の真偽そのものを検証することはできません。できるのは、自分の事案と比べられる形で書かれているかを見ることです。

金額よりも「経路」を読む


 解決事例で目を引くのは獲得金額ですが、そこは事案ごとの事情に大きく左右されます。参考になるのは、その事案がどの手続をたどったかという経路のほうです。

  • どこが争点になったのか
  • 交渉で終わったのか、調停・審判・訴訟に進んだのか
  • おおむねどのくらいの期間がかかったのか
  • 依頼者は請求する側だったのか、される側だったのか


 なお指針は、ほかの事件を例として掲げ、その例と同じような結果をもたらすと思わせる表現を、誤導または誤認のおそれのある広告の例としています。金額の並んだ事例は、自分の事案の見通しとしてそのまま読むものではない、ということです。

キャッチフレーズと肩書きの位置づけ


キャッチフレーズは判断材料になりにくい


 指針は、キャッチフレーズについて、表現が抽象的で説明が十分でないため誤解や過度な期待を与えかねないとして注意を求めつつ、事実に反しない限り許される例として「市民の味方です」「懇切丁寧にやります」「闘う弁護士」「モットーは迅速第一」を挙げています。

 つまり、この種の言葉は広く使えるものであり、分野の適合を判断する材料にはなりにくいということです。印象の良し悪しは、判断の順序としては後ろに置くのが現実的でしょう。

経歴や役職の表示


 指針は、実体のない団体やほとんど活動していない団体の役職・経歴を表示することを問題としています。また、役職や前の経歴を掲げて、それによって特に有利な解決が期待できることを示唆する表示についても、誤導や過度な期待にあたる例としています。

 経歴そのものは有用な情報です。読み方としては、その経歴が、自分の事案の手続とどうつながるのかまで説明されているかどうかを見ることになります。

ランキング記事や「○○選」の扱い


 規程は、第三者が行う規程に抵触する情報の伝達や表示に、弁護士が金銭その他の利益を供与したり、協力したりすることを禁じています。指針は、その対象となる例として、勝訴率一〇〇パーセントといった記載を含む第三者の記事や、出版社などが発行する弁護士のランク付けの記事で特定の弁護士の優劣を論じる記載があるものを挙げています。

 こうした記事に掲載されていること自体は、能力が第三者に評価された結果とは限りません。掲載の基準が示されているかどうかを見ておくと、位置づけを取り違えずにすみます。

サイトの外で確認できる手がかり


所属弁護士会の表示があるか


 規程は、広告に弁護士の氏名(法人の場合は名称)と所属弁護士会を表示することを求めています。その趣旨は、広告の責任の所在を明らかにし、内容に不適正または不審な点があるときに、利用者が弁護士会に問い合わせるなどして被害の発生を未然に防げるようにすることにあります。

 所属弁護士会が書かれていれば、日弁連のウェブサイトの弁護士検索で、登録されているかどうかを確かめることができます。

検索システムの「取扱業務」は自己申告


 日弁連と各弁護士会が共同で運用する弁護士情報提供サービスでは、取扱業務などから弁護士を探すことができます。ただしこれは任意登録制で、すべての弁護士が登録されているとは限りません。掲載されている情報は各弁護士の自己申告に基づくもので、日弁連および弁護士会はその内容について責任を負うものではないとされています。

 入口としては便利ですが、掲載されている=審査を通っている、ではないという点は押さえておきたいところです。

弁護士会が設けている分野別の名簿


 弁護士会によっては、研修の受講や実務経験などの要件を満たした会員を分野ごとの名簿に登録し、公開している場合があります。たとえば大阪弁護士会は、交通事故・労働・離婚・遺言相続・知的財産・倒産再生の各分野について、分野別登録弁護士名簿を設けています。もっとも同会は、登録は会員弁護士の申請に基づくものであり、弁護士会が登録された弁護士の能力を保証するものではないと明記しています。

 全国一律の制度ではないため、探している地域の弁護士会に同様の名簿があるかどうかを確認してみるとよいでしょう。

来所せずに進める場合の表示


 電話やメールなどの通信手段によって法律事務を受任する場合について、規程は、通常の表示事項に加えて、受任する法律事務の表示および範囲、報酬の種類・金額・算定方法・支払時期、委任契約を委任事務の終了に至るまで解除できる旨と中途で終了した場合の清算方法を表示するよう求めています。

 遠方から依頼したい、来所せずに進めたいと考えている場合には、この三点が書かれているかどうかが実際的な確認点になります。

自分の事案に合っているかを確かめる四つの手順


①分野名を、自分の事案の型まで下ろす


 「相続」「刑事事件」といった分野名は範囲が広く、それだけでは合致を確かめられません。遺産分割の調停なのか遺留分の請求なのか、捜査段階の対応なのか公判の弁護なのか、というところまで下ろして初めて比べられるようになります。

 サイトを読むときも、相談で尋ねるときも、この粒度まで下ろすのが近道です。

②手続の名前で確認する


 交渉、調停、審判、訴訟、保全、執行。刑事の事件であれば、身柄の対応、示談、公判。手続の名前で尋ねると、経験の有無を具体的に確かめることができます。分野名では重なって見えても、手続まで下ろすと差が見えることは少なくありません。

③立場をそろえる


 同じ分野でも、請求する側と請求される側、労働者側と使用者側、被害者側と加害者側とでは、進め方も蓄積も異なります。掲載されている事例や説明がどちらの立場のものなのかは、見落とされやすい点です。

④実際に担当するのが誰かを確認する


 複数の弁護士が在籍する事務所では、サイトで紹介されている弁護士と、実際に担当する弁護士が同じとは限りません。誰が主に担当し、誰が窓口になるのかは、相談の場で確認しておける事項です。

相談の場で確かめられること


 分野の適合は、最終的には話してみないと確かめきれません。相談の際に次のような点を聞いておくと、判断の材料が増えます。

  1. 同じような事案をどのくらい扱ってきたか、どの手続まで進めた経験があるか
  2. 自分の事案で考えられる進め方は何通りあり、それぞれ何が違うのか
  3. 見通しについて、うまくいかない場合を含めてどう説明されるか
  4. 費用は何にいくらかかり、どの段階で発生するのか
  5. 連絡の方法と頻度、そして実際に担当するのは誰か


 なかでも、不利な事情や見通しの幅について説明があるかは、分野の経験と結びつきやすい部分です。扱ってきた分野ほど、うまくいかない場合の分岐まで具体的に語れるからです。

「強い」は結果の保証ではない


 最後に一つ、前提として押さえておきたいことがあります。分野の経験は弁護士を選ぶうえで大切な要素ですが、結果を約束するものではありません。同じ事実関係であれば適用される法律も基本的な結論も変わらない、という前提の上に手続は動いています。

 経験が効いてくるのは、証拠の集め方、手続の選び方、交渉の組み立て方、見通しの精度といった部分です。だからこそ、分野の適合はあくまで出発点として押さえたうえで、説明の分かりやすさ、費用の見通し、連絡の取りやすさを合わせて見ていくことになります。

おわりに


 弁護士の広告に使われる言葉には、共通のルールがあります。「専門」と書きにくい事情があること、勝訴率が表示できないこと、解決事例が抽象的になりやすいこと。これらを知っていると、書かれていないことを「経験がない」と読み違えずにすみます。

 そのうえで確かめるべきは、分野名のラベルではなく、自分の事案の型まで下ろしたときの説明の具体性です。判断に迷うときは、複数の事務所で相談を受けてみることも選択肢の一つになります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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