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「カスタマー・ハラスメント」と「企業の安全配慮義務」!

室岡宏

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テーマ:カスタマー・ハラスメントのあれこれ




☆企業も従業員も疲弊させる
 「カスタマー・ハラスメント!」

☆カスハラの発生する企業様はどこも、
 いきなりお客様から理不尽な要求を
 突き付けられ、さぞ対策に頭を
 悩ませていることと思います。



☆そんな「カスハラ」ですが、
 今回は「カスハラ」の別の側面に
 ついて記載いたします。

       ⇓

 それは、
 企業は「常に従業員の安全(心身の健康)
 に配慮しなければならない」
 という、企業の「安全配慮義務」という
 法律についてのお話です。

 言い方を換えますと、カスハラに関して、
 「企業は被害者でもあるが、
  加害者にもなり得る」というお話です。



(1)企業(使用者)と従業員の関係
 ■使用者(企業)は雇用する従業員に対して、
  法律上、
  「従業員が安全で健康に働くことが
  出来るように配慮しなければならない」
  という「安全配慮義務」を負っています。
 ■この義務は、雇用契約書や就業規則などに
  明示されていなくても、
  雇用契約の締結に伴って会社が当然に
  負うべき義務となります。
  (平成24年8月10日基発0810第2号)


 ■そして、企業がこの安全配慮義務を
  果たしていなければ、
  債務不履行責任を問われ、従業員から
  訴えられる可能性があるのです。


  ◇労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
   「使用者は、労働契約に伴い、労働者が
   その生命、身体等の安全を確保しつつ
   労働することができるよう、必要な配慮
   をするものとする。」

  ◇民法 第415条(債務不履行による損害賠償)
   「債務者がその債務の本旨に従った履行を
   しないときは、債権者は、これによって
   生じた損害の賠償を請求することが
   できる。」


(2)「安全配慮義務」とは? 
  (平成24年8月10日 基発0810第2号)

  ■「必要な配慮」とは、一律に定まるもの
   ではなく、使用者に特定の措置を
   求めるものではありませんが、
   労働者の職種、労務内容、労務提供
   場所等の具体的な状況に応じて、
   必要な配慮をすることが求められます。
  ■「生命、身体等の安全」とは、
   心身の健康も含まれます。
   (メンタルの安全も含むということ)
  ■「労働契約に伴い」とは、労働契約に
   特段の根拠規定がなくとも、
   労働契約上の付随的義務として当然に、
   使用者は安全配慮義務を負うことを
   明らかにしたものです。


(3)安全配慮義務違反となるポイントとは?
  1)社員が健康を害することを
    予測できたか否か(予見可能性)
  2)会社として健康を害することを回避
    することができたか否か(結果回避性)

  ■安全配慮義務を履行するためには、
   2つのことを実施していなければ
   なりません。
   一つは災害発生の危険を予測し、
   もう一つは危険回避の予防対策を
   とることです。
 
 ■つまり、企業は従業員の命と心を守るために、
  災害発生を未然に防止するための対策を
  とらなければならない(義務である)、
  ということなのです。


(4)企業はカスハラの「被害者」ともなるが、
   同時に「加害者」にもなり得る!

   ■したがって、企業はカスハラの「被害者」
    対策を考えているだけでは許されない、
    ということになるのです。
   ■従業員に対する「安全配慮義務」を
    果たせなければ、その時は、
    従業員に対する「加害者の一人」に
    なってしまう、ということなのです。
   ■具体的には、企業が従業員から
   「債務不履行による損害賠償」を
    請求される可能性がある、
    ということです。
   ■パワハラに関してよく見られるため
    パワハラを例にいたしますと、
    企業がパワハラに対する予防や解決の
    ための対応を何もしないまま放置し、
    その結果、従業員が精神疾患を発症した
    ようなケースで、しばしば、
    従業員から企業に対して、
    安全配慮義務違反に基づく損害賠償
    請求訴訟が提起されているのです。
   ■当然、カスハラに関しても同様です。
    何も対策を取らないということは
    企業として許されないのです。


(5)安全配慮義務を負う者の範囲

  1)安全配慮義務を負う者は使用者に
    限りません。
  2)直属の上司や人事・総務の責任者が、
    履行補助者として刑事責任を問われる
    こともあります。
 
 
(6)安全配慮義務の対象となる相手は?

  1)正社員だけではなく、直接労働契約関係
    のある有期パート、アルバイトも対象です。
  2)派遣労働者に対する安全配慮義務は、原則、
    派遣先が負うことになります。
  3)出向者に対しては、原則として、
    直接雇用契約のある出向元と、
    実質的な指揮命令権を有する出向先企業の
    双方が安全配慮義務を負います。
  4)下請けの従業員に対しては、
    直接的な雇用関係がない場合でも、
    元請けの現場責任者が下請け労働者に
    対して直接指揮命令を行うなどのケース
    では、信義則上の義務として
    元受けの安全配慮義務が認められる場合が
    あります。

(7)安全配慮義務に関する最高裁判例
  (詳細は省略しております)

  1)陸上自衛隊八戸車両整備事件
     (最高裁:S50.2.25)
   (事案概要)
     ■自衛隊員が自衛隊駐屯地で車両整備
      に従事していたところ、
      同僚隊員が運転する大型自動車の
      後輪で頭部を轢かれて即死し、
      両親らが国に対して損害賠償請求
      し、国の賠償責任が認められた事件。

   (判決要旨:安全配慮義務部分単純化)
     ■国は公務員に対し(本件は自衛隊員)、
      公務員の生命及び健康等を
      危険から保護するよう配慮すべき
      義務(安全配慮義務)を負っている
       ものと解すべきである。
     

  2)川義事件(最高裁:S59.4.10)

   (事案概要)
     ■宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害
      された事件で、会社に安全配慮義務
      の違背に基づく損害賠償責任がある
      とされた事件。

   (判決要旨:安全配慮義務部分)
     ■使用者は、報酬支払義務にとどまらず、
      労働者が労務提供のため設置
      する場所、設備もしくは器具等を
      使用し又は使用者の指示のもとに
      労務を提供する過程において、
      労働者の生命及び身体等を危険から
      保護するよう配慮すべき義務
     (=安全配慮義務)を負っている。

     ■宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入
      できないような物的設備を施し、
      かつ、万一盗賊が侵入した場合は
      盗賊から加えられるかも知れない
      危害を免れることができるような
      物的施設を設けるとともに、
      これら物的施設等を十分に整備する
      ことが困難であるときは、
      宿直員を増員するとか宿直員に
      対する安全教育を十分に行うなどし、
      もって物的施設等と相まって労働者
      たる宿直員の生命、身体等に
      危険が及ばないように配慮する
      義務があった。



☆以上のとおり、
 「従業員の生命、身体、心を守るための
  対策を取ること」は、
  企業の人間観(道徳)としての問題に加えて、
  法律で企業に定められた義務の問題でもあり、
  企業のリスクマネジメントそのものなのです!



☆働くすべての方が幸せな人生を送れるように
 なるために、大切な従業員の命と心を守り、
 企業自身のことも守る
 「適切なカスタマー・ハラスメント対策」が
 すべての企業で行われますことを
 心から願っております!






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特定社会保険労務士
カスタマー・ハラスメント対策コンサルタント
室岡 宏

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