事業承継は社長交代の日に終わるのではなく始まる【事業承継後のゴタゴタ整理1】
社員は「社長」ではなく「会社の未来」を見ている
「社長には就任したのですが、社員が思うように動いてくれません。」
事業承継後の後継者から、このような相談を受けることがあります。
会議では誰も反対しない。
「分かりました」と返事もする。
それでも、会社はなかなか変わらない。
後継者から見れば、「社員に危機感がない。」「改革に協力してくれない。」と映るかもしれません。
しかし、私はそのような場面で、まず別の角度から会社を見ます。
社員は、新しい社長に反対しているのでしょうか。
実は、多くの場合、そうではありません。
社員が見ているのは「社長」ではなく、「この会社はこれからどこへ向かうのか」という未来なのです。
社員は変化より「不安」に反応する
事業承継は、経営者にとって大きな節目です。
しかし、それは社員にとっても同じです。
新社長はどんな人なのか。
会社の方針は変わるのか。
仕事のやり方は。
評価制度は。
自分の居場所は。
社員の頭の中には、たくさんの疑問があります。
ところが、多くの会社では、「社長が代わりました。これからもよろしくお願いします。」という挨拶だけで終わってしまいます。
これでは、不安は解消されません。
人は分からないことがあると、自分にとって安全だった過去へ戻ろうとします。
だから社員は、新しい社長に反発しているのではなく、「今まで通り」を選んでしまうのです。
「社長が代わった」だけでは、人は動かない
営者は、社長就任という出来事を大きな変化として捉えます。
しかし社員にとっては、「社長が代わった。」
それだけでは、仕事の意味は変わりません。
社員が知りたいのは、
・この会社は何を目指すのか。
・自分の仕事はどう変わるのか。
・今まで評価されていたことは続くのか。
・何を期待されているのか。
ということです。
つまり、「誰が社長か」よりも、「どんな会社になるのか」。
そこが見えなければ、人は安心して動くことができません。
社員は「様子見」をしている
承継直後の会社では、多くの社員が様子を見ています。
新社長は何を変えるのだろう。
先代はどこまで関わるのだろう。
部長はどう動くのだろう。
周囲を見ながら、自分の行動を決めています。
これは消極的だからではありません。
会社で長く働いてきた社員ほど、「早く動き過ぎて失敗したくない。」という心理が働くからです。
つまり、社員は抵抗しているのではなく、観察している。
この視点を持つだけで、後継者の社員への接し方は大きく変わります。
継者が陥りやすい三つの誤解
この時期の後継者には、共通した思い込みがあります。
① 社長になれば自然に社員はついてくる
肩書は変えられても、信頼は任命できません。
信頼は、日々の判断と行動の積み重ねで築かれるものです。
② 良い改革なら理解される
改革の内容が正しいことと、社員が納得することは別です。
人は正しさだけでは動きません。
「なぜ変えるのか」が理解できて初めて、一歩を踏み出せます。
③ 早く成果を見せなければならない
焦る気持ちはよく分かります。
しかし、大きな改革を急ぐほど、社員は不安になります。
承継直後に必要なのは、大きな変化よりも、「この会社は安心して働ける。」という土台を作ることです。
私が最初に確認すること
事業承継後の会社では、私は社員へこんな質問をすることがあります。
「これから、この会社はどうなっていくと思いますか。」
すると、答えはさまざまです。
「よく分からない。」
「たぶん今までと同じでしょう。」
「何か変わるらしいですが、聞いていません。」
もし、このような答えが返ってくるなら、問題は社員ではありません。
会社の未来が共有されていないことが問題なのです。
社員が動く会社に共通すること
一方で、承継がうまく進んでいる会社には共通点があります。
それは、新社長が何度も会社の未来を語っていることです。
派手なスローガンではありません。
例えば、
「これまで大切にしてきた品質は守ります。」
「地域との信頼は変えません。」
「ただ、お客様への提案の仕方は変えていきます。」
そんな一つ一つの積み重ねです。
社員は、一度話を聞いただけでは動きません。
何度も同じ方向性を聞くことで、「本当にこの方向へ進むんだ。」と安心します。
未来が見えたとき、初めて社員は自分から動き始めます。
「経営の再編集」という視点
私は、事業承継とは社長を交代させることではなく、社員が安心して未来を描ける会社へ再編集することだと考えています。
組織図を変えるだけでも、役職を変えるだけでもありません。
社員一人ひとりが、「この会社なら大丈夫。」と思える状態をつくること。
それが、本当の意味での事業承継です。
社員は社長の肩書に従うのではありません。
会社の未来に希望を持てたとき、その未来についていくのです。
次回予告
「前の社長の方がよかった」と古参社員が言うとき
事業承継後、多くの後継者が一度は耳にするこの言葉。しかし、それは単なる反発ではないかもしれません。
次回は、古参社員の心理を読み解きながら、組織を前向きにまとめる考え方についてお伝えします。



