「前の社長の方がよかった」と古参社員が言うとき【事業承継後のゴタゴタ整理4】

「親子だから、話がこじれるんです。」
親族内承継の相談を受けると、後継者からこんな言葉を耳にすることがあります。
一方で、先代に話を伺うと、「会社のことを思って言っているだけなんだけどね。」という返事が返ってきます。どちらも間違ってはいません。
しかし、話し合えば話し合うほど感情的になり、最後は親子げんかのようになってしまう。そんな光景は決して珍しくありません。
私は、このような状況を見るたびに思います。
本来、会社で話し合うべき課題が、いつの間にか親子の問題に置き換わってしまっているのです。
家では親子、会社では経営者
親子承継には、他の事業承継にはない難しさがあります。
会社だけでなく、自宅でも顔を合わせる。仕事の話が夕食の席まで続く。休日でも、自然と経営の話になる。家族だから何でも話せると思われがちですが、実際には逆です。
長年の親子関係があるからこそ、今さら言えない、言っても分かってもらえない、そんな思いが積み重なっていることも少なくありません。
さらに、親としての立場、子としての立場、社長としての立場、後継者としての立場。これらが混ざり合うことで、議論の焦点が見えなくなります。
本当は何について話しているのでしょうか
例えば、「そんなやり方では会社はうまくいかない。」という先代の言葉。
後継者は、「また自分を否定された。」と受け取るかもしれません。しかし、先代が本当に伝えたかったのは、「資金繰りが心配だ。」「社員が戸惑うのではないか。」という経営上の懸念かもしれません。
逆に、「もう私に任せてください。」という後継者の言葉も、先代には、「親を追い出そうとしている。」と聞こえることがあります。本当は、「責任を持って経営したい。」という意思表示なのにです。
つまり、お互いが話している内容ではなく、感情のフィルターを通して言葉を受け取ってしまうのです。
「誰が正しいか」を議論すると解決しない
親子承継では、「どちらが正しいか。」という議論になりがちです。かし、経営には正解が一つとは限りません。慎重に進めるべき場面もあれば、思い切って挑戦すべき場面もあります。
だからこそ、親の価値観、子の価値観のどちらが正しいかではなく、会社にとって今、何が最善なのか。この視点に立ち返る必要があります。
主語を「私」から「会社」に変える
私は、親子承継の場では、一つのことをお願いしています。それは、主語を「私」から「会社」に変えることです。
例えば、「私は納得できない。」ではなく「会社として、この方法が最善だろうか。」
「私は不安だ。」ではなく、「会社にどんなリスクがあるだろうか。」こうした言葉に変えるだけで、議論は驚くほど冷静になります。
親子で勝ち負けを決める話ではなく、会社の未来を考える話になるからです。
第三者が入る意味
親子だけで話していると、どうしても過去の出来事が出てきます。
「あのときも、そうだった。」「昔からお前は…。」
すると、現在の経営課題よりも、過去の感情の整理が始まってしまいます。
だからこそ、第三者が入る意味があります。第三者は、どちらの味方でもありません。会社の味方です。
話を整理し、論点を分け、「それは経営の課題ですね。」「こちらは親子間の感情ですね。」と切り分ける役割を担います。
私は、コンサルタントとして最も重要な仕事の一つは、この論点整理だと考えています。
親子だからこそ、言葉にする
「親子だから、分かっている。」そう思っている会社ほど、言葉が不足しています。
経営方針。役割。期待していること。感謝していること。意外なほど、お互いに伝えていません。
会社は、言葉で動きます。社員は、経営者同士の空気を敏感に感じ取ります。
だからこそ、「言わなくても分かる。」ではなく、「言葉にして伝える。」
これが、事業承継後の組織を安定させる第一歩になります。
「経営の再編集」という視点
私は、親子承継とは「親から子へ社長を引き継ぐこと」ではないと考えています。
親子という関係を変えることはできません。しかし、会社の中での関係は、再編集することができます。
親だから厳しく言う。子だから遠慮する。そんな関係から、会社の未来について建設的に議論できる経営者同士の関係へ。
その関係を築けたとき、社員も安心し、会社全体が同じ方向を向き始めます。
事業承継後のゴタゴタとは、人間関係の問題ではありません。人間関係が会社の課題と混ざってしまうことが、本当の問題なのです。
だからこそ、家族の問題は家族の問題として、会社の課題は会社の課題として整理する。その「切り分け」こそが、親族内承継を成功へ導く大切な一歩になると、私は考えています。
次回予告
「後継者が改革を急ぎすぎると組織で何が起きるのか──『正しい改革』が失敗する理由」
新しい社長ほど、「早く会社を変えなければ」と焦りがちです。しかし、そのスピードが組織の混乱を招くこともあります。
次回は、事業承継後の改革を成功させるための「変える順番」について考えます。


