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生薬の話 麦門冬(ばくもんどう)

谷津吉美

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むつごろう薬局の駐車場にある鉢にジャノヒゲが植えてあります。ジャノヒゲをかき分けてみたら、白い蕾がありました。6月下旬、もう少しで咲きそうです。
根の膨らんだものは生薬の麦門冬(バクモンドウ)で、温経湯(ウンケイトウ)や麦門冬湯(バクモンドウトウ)に入っています。



今回は、『麦門冬』 という生薬を紹介します。 麦門冬という名前は、この草の根が麦に似てヒゲがあり、 葉は冬になっても枯れないことからこの名がつけられました。 麦門冬はユリ科の多年草、ジャノヒゲまたはその他同属植物の塊根です。 ジャノヒゲはリュウノヒゲとも言われ、 細い葉が蛇や龍のヒゲに例えられます。 麦門冬は、 紡錘形で長さ1~2cm、 淡黄色で外面に縦じわがあるのが特徴です。味はやや甘くて粘着性があります。
効果としては、肺を潤し、痰を除き、咳を止め、 心熱をとり、水を行き届かせ燥を潤す働きがあります。 麦門冬を使う漢方薬には、 麦門冬湯、温経湯、炙甘草湯などがあります。 麦門冬湯は、痰の切れにくい咳や気管支炎、気管支喘息などに用います。 麦門冬湯は、麦門冬、半夏、大棗、人参、甘草、粳米の6味から成ります。 麦門冬は半夏と組んで肺を潤し上逆する気を引き下げる働きがあります。 また、人参は気を補い、血液を含む生理的な体液である津液 (しんえき) を生じて精神を安定させる働きがあり、 麦門冬と組んで滋潤作用を発揮します。さらに麦門冬は粳米と組んで逆行する気を止め、胃気を補い胃中に津液を生じ、和潤する働きがあります。 その結果、 痰はなく、もしくはあっても切れにくく、激しい空咳が出て、のどがつまって呼吸がしにくくなるものに効果があります。 麦門冬の咳は、妊婦の方が発する咳、下に力がなく、こみ上げてくるような強い咳がお腹にひびいてこたえる、のどの奥が乾いている感じで乾燥して潤いがない状態にも効果があります。 麦門冬湯に含まれる半夏の性質は本来、上部の湿を除き、 下部の燥を潤すものですが、 麦門冬湯や温経湯を使う場合は反対に、上部の燥を潤し、下部の湿を除く働きを必要とします。 ここに麦門冬を含むことで上逆する気を下げ、バランスをとり補うことができます。
温経湯は、麦門冬、半夏を含む12味から成っています。 温経湯は、生理不順、月経困難などの婦人病、不妊症によく用いられます。手の平が熱っぽく、唇が乾いている場合が多いのが特徴です。甘い物、お菓子をよく食べると身体を冷やし、血液の流れが悪くなり血(おけつ)になります。これは婦人病になる原因の一つです。

ジャノヒゲは能の老人の面である「尉(じょう)」のあごひげに、葉の形を見立てたものという説があるそうです。

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谷津吉美
専門家

谷津吉美(薬剤師)

有限会社むつごろう薬局

漢方医学を専門に23年。不妊症をはじめ各種女性の悩み・アレルギー・皮膚病・自律神経失調症などの症状に、深い知識で丁寧に対応。また静岡県立高校の進路指導講演会や不妊専門雑誌などで漢方薬を広めています。

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