漢方医学の始まり
皆さんが、家族の方や友達と会った瞬間、その表情や顔色から、なんとなくいつもと違うと感じたことはありませんか。「何か元気が無いな、気が沈んでいるな」などなど。その「何か」はうまく説明できませんが、何かが違うことはわかります。実はこのことが東洋医学にとってとても大切なことなのです。
漢方薬が初めて作られたのは今から2000年以上前。人はもっと野性に近い存在でしたから感性も豊かであったに違いありません。漢方医は、外から事細かく観察することを重視し、その「何か」を顔色、舌の状態、口臭、動き方、咳の音、汗の出方、脈やお腹を押した時の反発力の強さなどから感じ取り、その人の病気を想像して行きました。その情報を漢方薬に結びつけ、再現できるようにしたのです。
「望んで(のぞんで)之(これ)を知る(しる)を神(しん)という」
素問(そもん)という中国古典医学書に出てくる言葉です。外から見ただけで、その病気や治し方がわかる漢方医は、神の域に達している、という意味です。観察力が必要なのですね。ここまで来ると`センス`なのかもしれません。
師匠の田畑隆一郎薬学博士に弟子入りして間もないころ、患家を前にして漢方相談をしている姿を見たときのことです。何も言わず患家の頭から足先まで、まるでエコーを撮っているかのように見ていました。その後、食事についていくつかの質問をした後、その人の体質をほとんどを言い当ててしまいました。まさに「望んで之を知る」という言葉通りです。では、どうしてそのような事ができるのでしょうか。
砂糖顔、肉顔、果物顔
漢方には四つの診断方法があります。見ること、音を聞くこと、質問すること、触って判断する(脈やお腹)ことです。専門的には「望(ぼう)・聞(ぶん)・問(もん)・切(せつ)」と言います。この中で一番大切なのが、「望(見て判断すること)」です。漢方の大家は、病気の反応が体表面に現れることをよく知っていたのです。例えば、胃に熱があると(胃の炎症)口内炎や口臭となって現れたり、子宮が冷えていると帯下がたくさん出たり、胃の働きが悪いと唾液がたくさん出たり、などです。
また、驚くべきことに、食べ物の反応が顔に出てくることを、師の師匠である小倉重成医師が話していましたので、ここにご紹介させて頂きます。
砂糖顔・・・Ⅰ期は、皮膚がカサカサ乾燥して、女性は化粧ののりが悪く、白粉が浮きやすい。Ⅲ期はメラニンが地図状や点状に沈着し、肝斑が見られる。Ⅱ期はその中間。また、咀嚼玩味(よくしっかりかんで食べる)しないと、皮膚があれて艶がなくなる。
肉顔・・・・Ⅰ期は、顔が赤茶けてくる。Ⅱ期は、テラテラと光り色素沈着が始まり、にきびが多く頰に血の通わぬ細絡が紫赤色に浮き出ることがある。Ⅲ期は、油ぎってドス黒く、肝臓に負担がかかり肝斑が顔一面に広がる。
果物顔・・・青白い、幾分黄ばんだ蝋人形のごとく透き通るような冷えっぽい顔つきが果物顔である。Ⅲ 期にもなると、氷の中から抜け出してきたようで寒々しい顔つきになる。
獣肉を食べ過ぎると、血液がドロドロしてきて肝臓に負担がかかり、瘀血(古血の滞り)がお腹のあたりに溜まってきます。顔色が悪くなり目の周りや歯茎が黒ずんでくるのは、瘀血がお腹の中にある証拠になります。青黄白色の顔色は、果物、青汁、アイスクリーム、ビール、ワイン、冷蔵庫食品の食べ過ぎから起こり、ストレス、運動不足、睡眠不足がそれに輪を掛け、果物顔を悪化させます。そして、今私たちが一番気を付けなければならないものは砂糖なのかもしれません。砂糖は癌細胞も一番欲しがるものですし、取りすぎはアレルギーを起こしやすくなります。そして注目しているのが、不妊症との関係です。貧血して蒼白い砂糖顔の方に使う当帰芍薬散は、不妊症によく使われる漢方薬のひとつです。また、肉顔の方には大黄牡丹皮湯、桃核承気湯、桂枝茯苓丸が使われます。
果物顔は、小児期では小建中湯、青年期では柴胡桂枝乾姜湯、中年では当帰芍薬散加人参湯、老年では四逆湯が合う漢方医学的な体質に変化していきます。
少年時代にアイスクリームを食べ過ぎたこの文書の著者は、そのツケがまわって今でも皮膚のかゆみに悩まされることがあります。自分の顔には自身は持てませんが、砂糖顔、肉顔、果物顔にならないよう、少しでも気を付けていきたいと思っています。皆様も参考にしてください。