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不眠症の改善方法

谷津吉美

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テーマ:漢方の研究




睡眠不足は、体力を消耗させウィルスに感染しやすくなるだけでなく、深い眠りができないことから間接的に不妊症の原因にもなります。また、眠りが浅くなると胃酸の分泌が活発となり、胃潰瘍にもつながってきます。
 時代はさかのぼり、中国の後漢の時代。「傷寒論・金匱要略」という大層難しい医学書が作られました。この本は私たちの漢方の流派、古方漢方のバイブルです。この本の持ち主は当時の皇帝でした。この中に「血痺(けっぴ)、虚労(きょろう)の病」があります。血痺とは、血がめぐらず渋滞して麻痺する病で、虚労は、体力が衰亡して疲労する病のことです。その中に不眠について書かれた文章があります。

ひどく疲れ切ったものの不眠に酸棗湯

「虚労(きょろう)、虚煩(きょはん)、眠ルコトヲ得ズ。酸棗湯コレヲ主ル。」
ひどく疲れきって、些細なことが気になって眠れないものを治すと述べています。この漢方薬は、疲れていくら眠ろうと努力しても眠れないときに使います。皆様も疲れすぎて逆に目がさえてしまうといった経験があると思います。この漢方薬の成分ですが、酸棗仁、甘草、知母、茯苓、川芎の五種類から作られています。サネブトナツメの種子(酸棗仁)がリーダーとなって、他の4種類の薬草と力を合わせ、頭に上った血を下降して気持ちを鎮静させ不眠を治します。最近増えている、人間関係からくる不眠や、考えすぎて眠りが浅くなっている方に一度試していただきたい漢方薬です。

のぼせて気があせり心下部分がつかえ出血傾向のものの不眠に瀉心湯

「心気不足、吐血、衄血スルハ瀉心湯(しゃしんとう)之ヲ主ル。」
気持ちがイライラして落ち着かず、眠れないものを治す漢方薬です。血を吐いたり、鼻血が出るのは、頭に血が上る状態がひどいもので、高血圧症、動脈硬化症、脳出血後の後遺症、神経症、胃潰瘍、痔出血、耳鳴り、眼底出血、歯根腫痛、舌炎、皮膚病の方にもよく使われます。成分は、大黄(だいおう)、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)の三種類で、頓服として服用する場合があります。出血がある場合は冷やして服用します。煮詰める漢方を、粉末にしてそのまま飲むものが三黄散です。わが薬局では、薬剤師の谷津が丹精込めて作っています。就寝前にお湯にかき混ぜて服用すると睡眠が深くなります。実は私もときどきこの漢方薬を飲んで寝ることがあります。確かに朝の目覚めが良い気がします。

心胸中もだえ苦しむ者の不眠に梔子豉湯

「虚煩(きょはん)シテ眠ルコトヲ得ズ。」
乾燥した黒豆納豆と、栗きんとんの色づけで使うくちなしの実で作った、まるでお正月料理の様な漢方薬ですが、味は非常にまずいです。何かしら胸の中が苦しくて眠れず、うつらうつらと眠るのだが、いくらかしないうちに目が覚める。ひどい方では、横になってみたり、ひっくり返ってみたり、起き上がってみたり、とにかくじっとしていられない。このような大変辛そうな方に、どうして乾燥納豆とくちなしの実が効くのか、本当に漢方薬は不思議なものです。虚煩とは、身体の中に熱のこもっているもので、その熱を除くのがくちなしも実です。くちなしの実は、漢方の世界では、「山梔子」と呼んで、食道がん、嚥下困難、食道ポリープが消えてしまった方もいるそうです。

上半身に熱がこもって眠れないものに黄連阿膠湯

「心中煩(しんちゅうはん)シテ臥スルコトヲ得ザルモノ黄連阿膠湯之ヲ主ル。」
この漢方薬は、卵黄を溶かして服用します。苦味の成分、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、芍薬(しゃくやく)に動物生薬の卵黄とゼラチンが入る、想像しただけでも不味そうな漢方薬です。良薬口に苦し、とは言えども鳥肌が立ちそうです。しかし、漢方薬が合っていますと不思議とすんなり飲めるものです。体を横にしたいほどだるいのに、横になると心臓がドキドキして眠ることができない、辛い不眠に使われます。また、疲れやすい方、唇が乾燥しやすい方、皮膚が乾燥するようなアトピー性皮膚炎にも応用されます。

 暑さで眠れない上に、のぼせて上半身に熱がこもると不眠が悪化します。養生として、寒凉性の食材で体の熱を冷ますことも大切です。梅、ゴーヤ、トマト、枝豆、おくら、瓜、いんげん、なす、新生姜、らっきょう、寒天などの、旬なものを食べてみてください。また、寝具の麻のシーツは大変気持ちがよく睡眠を深くしてくれます。

 早寝早起きは、昔ながらの健康法です。漢方薬と養生法をうまく組み合わせて、血のめぐりをよくして疲労を取り除くことが不眠の改善に役立ちます。出来るところから実践してみてください。

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谷津吉美
専門家

谷津吉美(薬剤師)

有限会社むつごろう薬局

漢方医学を専門に23年。不妊症をはじめ各種女性の悩み・アレルギー・皮膚病・自律神経失調症などの症状に、深い知識で丁寧に対応。また静岡県立高校の進路指導講演会や不妊専門雑誌などで漢方薬を広めています。

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