漢方薬における副作用とは?
新しい畑を求めて・・・
毎年、暑く湿度の高いこの時期になると必ず思い出すことがあります。それは、新しい畑を求めて静岡の山間部、井川周辺に通った時のことです。もう十余年前の事になります。
七月から作業に入り炎天下のもと一日中草刈に追われ、その後耕運機で石の畑を掘り起こしました。秋の芍薬の植え付けの時期まで何とか間に合い、300本の芍薬を植えたのですが、少しずつ枯れ始め、2年目にして急遽、水はけのよい別な畑に移植しました。そのときは、残り100本もなかったと記憶しています。掘り起こすとどれも根の成長はほとんどなく力ない容貌でした。その土地は雨が降ると水はけが悪く、足を踏み入れると長靴が脱げてしまうほど。地下の岩盤による水はけが悪いことが原因でした。まるで畑の水毒です。「水毒」とは体の余分な水分が増えて色々な病気を起こしてしまうことを言っています。大自然の水毒は、植物の根腐れとして現われ、人間の水毒は、皮膚病の滲出液、鼻水、尿や涙の過多、水様性下利、むくみ、胸水、腹水、関節の腫れ、動悸、めまい、耳鳴り、頭痛、のどの乾き、むかつき、咳、痰、と現れ方は様々です。また、時として不妊症の原因にもなるのです。
少し専門的に言いますと「痰飲(たんいん)」、「懸飲(けんいん)」、「溢飲(いついん)」、「支飲(しいん)」に分かれます。痰飲は、胃がチャポチャポする事で鼻水、下痢の原因となり、懸飲は、体を動かしたり咳をするとひきつり痛む慢性胸膜炎で、溢飲は、手足の皮下に溜まった水腫や浮腫で腎炎、心疾患、脚気につながり、支飲は、水分が鳩尾に溜り呼吸困難と促迫がはげしくなる心不全のことです。どれも水毒が原因でおこる病気です。
ぬかるみに足をすくわれる
3年間子供が出来ない女性から相談がありました。10年前から多嚢胞性卵巣といわれていて排卵しにくい状態でした。経血量や帯下も多く、生理痛が激しく、塊も多い方でした。疲れやすく、顔と足がむくみ、貧血、肩こり、頭痛そして慢性的に咳がありました。漢方薬も当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、温経湯とどれもうまく行かず、3回目の夏に、顔のむくみと湿った咳そしてお腹のチャポチャポ音を目標に甘草乾姜散を処方しました。今まではない帯下が沢山出て、その後ご妊娠されました。
この方の体の中は、畑の`ぬかるみ状態`になっていたのでしょう。この余分な水は、冬になると薬草の根を冷やし成長を止めてしまいます。女性のお腹がぬかるみ状態となり冷えてしまい卵の成長を悪くしていたのでしょう。漢方薬によって、その冷たい水が滞下となって排出され、身体が温まったと考えられます。
夏の水蒸気
地下の岩盤による水のぬかるみ状態は、冬に冷たい水となり、夏には水蒸気となって薬草の地上部に襲い掛かります。まるで熱いお湯の中に浸かっている状態です。この夏の水蒸気を東洋医学では「気逆上衝」と言います。のぼせてめまいが起きている状態です。漢方薬は苓桂朮甘湯の出番となります。
飛蚊症のご相談は28歳の女性の方でした。性格は少し心配性で、時に動悸がありました。立ちくらみ、耳鳴りがひどく、出来れば子供を授かりたいという希望もありました。苓桂朮甘湯を服用して10日後、日中の小便の量が増え、ドライアイがあった目からは涙が出るようになりました。数ヶ月ご飛蚊症の症状が軽くなり視力が上がりました。2年の月日が流れ、子供の笑顔がよく見えると喜んでおられます。
暑さで目が回る
八月ともなれば、暑さで地面は乾き薬草の葉は項垂れてきます。一生懸命葉を広げ根元を乾かないようにするのですが、雨が降らなければ追いつきません。いくら油で身を防いでも水が蒸発して、しぼんで行きます。薬草の芍薬や牡丹は早くから葉を枯らし地面に落とし根を守ります。私達であれば熱中症の手前でしょうか。こんな時ほど漢方薬。体の熱を冷まし、汗を止め、血液中を潤す「白虎湯、三物黄芩湯、五苓散」という夏の三銃士の出番です。以前ご紹介のご婦人が遠く尾張の国からご来店されました。悩みは、口臭。人に話をする仕事をしていました。体に冷えはなく、むしろ暑がりで喉も渇き気味、便秘が少しありました。好んで冷たいものを服用、口内炎も時々できました。口臭の原因は胃に熱を持っていた事でした。白虎湯を服用して3ヶ月すっかり良くなりました。これを機に食べ物の改善と体を動かすことにも気を使って頂き、状態は安定しています。手前味噌ですが夏でも温かいものを飲むようにしましたら、汗かきが大分よくなりました。喉越しを求めているのは、喉だけで入ってしまえば同じなんですね。
畑に一日出ていると大変気持ちが良いです。風の音、季節の匂い、そして何より日の光の温かさと、雨の大切さを。このことは、漢方相談に活かされます。体の中の水の動きみたいなものを感じるのです。これからも何かひとつ畑から学ばせていただければと思っています。