「気」「血」と並んで私たちの体を構成する「水」についてのお話
煎じるということ
時代は15年以上さかのぼり、煎じ薬の効き目を探求した血気盛んなころのお話です。
「3ヶ月の間陰干にした当帰を、42℃のお湯で洗い整えて(湯もみ)、椎茸乾燥機に入れて8時間ほど経つと表面だけが乾いて中に水分が残る。握ってみるとスポンジのようである。45時間後ちょうど良い具合に乾燥が仕上がる。梅の花がほころぶ頃、暗い早朝からの作業は寒くて辛いが、それよりも睡眠不足の方が体に堪える。乾燥機内の湿度を調節するのに手間がかかり、作業は夜通しに亘るからである。作業次第で生薬中の有効成分量が決まるので手が抜けない。生薬の乾燥は、当然ではあるが表面から少しずつ乾いていくのでその成分は中へ中へと移動する。(有効成分含量を少しでも高めるためなるべく温度を上げ過ぎずに時間をかけてゆっくり乾かす。)切断面の色は中心に行くほど濃くなっていくのでその様子がよく分かる。生薬を乾燥する作業とは、成分を壊さないように生薬の奥深くに保存させるという事である。
漢方薬を炊くということは、生薬の奥に集約された有効成分をより確実に抽出する為である。3ヶ月と45時間かけて閉じ込めた成分を、今度は生薬の奥のほうまで熱を加え1時間かけてゆっくり外へ外へ取り出していく。そして取り出された複数の生薬成分がお湯の中で対流し、熱の力を借りて新しい成分が作り出される。この生薬の相乗効果は時に予想外の力を発揮する。」
実際に生の生薬を、洗い、乾燥させ、刻む作業を通して、刻み生薬の持っている意味を考えるきっかけとなりました。生薬を手で掴みその気を感じ取る事が、煎じ薬の効きをよくする要であると思います。また、漢方を学ぶ上でも大切なことになるのではないでしょうか。