妊活と漢方薬
雑草がまだ賑わいださない春先に、地面から血が吹き出すごときに芽を出す芍薬。その効果は、筋肉の緊張を緩め、地面から吹きだす血の如き血の巡りを良くする。学名のPaeoniaは、ギリシャ神話の医師Paeonに由来。Lactifloraは、乳色をした花の意味。芍薬を見た感性から、芍薬と血の巡りの関係を大学の講義で話をしたら何人かの学生が真剣に共感してくれた。漢方の大切さは、まず、「感じること」であるといつも私の師は言っている。「腹証奇覧」で言う小建中湯の腹直筋の2本の棒はまるでそこに芍薬が入っている如きである。夕方に疲れた顔をして猫背で声が小さく、唇が乾燥しているお客様を見ると、そのお腹に2本棒が見えてくる。付け加えるならば先日、不妊症で当帰芍薬散を服用中のお客様に、顔の水気と、湿った咳と、胃内停水を目標に甘草乾姜散を兼用していただいたら、その後今まではないたくさんの帯下が出て、1ヶ月でご妊娠された例があった。このときの薬方の決定は、咳の音と顔に水が上がっている雰囲気を感じたことだ。
芍薬は、甘草と組んで、筋中の血行を良くし、腹痛・腹満・頭痛・麻痺・疼痛・欬逆・下利・腫瘍・瘀血を和す。この、「芍薬・甘草」が主役の薬方は、虚満の桂枝加芍薬湯であるが、これに膠飴を加えると「傷寒論」で言う「腹中急痛」の小建中湯となる。以前、第5腰椎椎間板ヘルニアを患い、左のふくらはぎの痛みと痺れが3ヶ月間続き、ステロイド点滴で完治せずその後ボルタレン坐薬を日に2回使用していた30代の女性に、腹満を目標に、桂枝加芍薬湯加黄耆附子を服用していただくこと1ヶ月でボルタレンが止められ、痛みが止まってしまった。その後2ヶ月で廃薬、本人は漢方の予期せぬ効果に驚き、皮膚のかさつきの理由を教えてくれた。次に控えていた相談は20年間の類乾癬であった。皮膚の色は渋紙色で、かゆみはなく、乾燥している。左乳腺の張りがあり、血圧が高く(最高156,最低95)、足は冷え、寝つき悪く、鳩尾から臍にかけて押すと痛みを感じる。口臭、口内炎があり、貧血がひどく立ちくらみが多い。ステロイドと、ブラックライトで治療中。「当帰・芍薬」の四物湯に黄連解毒湯を合方した、温清飲を3ヶ月。その後、柴胡、ヨクイニンを加え、7ヶ月服用して頂いた。悪性リンパ球が0になったと、連絡が入った。再検も異常なし。薬方中に苦労して乾燥させた芍薬が含まれていたことは嬉しかった。また、17歳の男子。部活は、陸上のマラソン選手。名門校で練習もたいへん厳しい。2年前に月に13Kg減量してから貧血に悩まされている。皆に負けたくないという気持ちから、練習がついつい多くなり、Hbは、11.8であった。身長173㎝、59Kg。顔色は焼けすぎて当てにならないが、どこか黄色味掛かっている。本人からの訴えは、立ちくらみとガスでお腹の張るぐらいで、寡黙の人である。練習中に倒れてしまうことを改善したいのが目的である。また、腹直筋の2本棒は、服の上からでも確認が出来そうな姿勢をしている。小建中湯と服用して1ヶ月、HBは13に上がり、筋肉の炎症反応の数字もよくなり、腹満、立ちくらみが減り、その後3ヶ月服用後廃薬となった。「芍薬・甘草」が、筋肉中の血流をよくして、筋肉の炎症を沈め、また、「膠飴・甘草」の甘さが、緊張を緩め、「生姜・大棗」が飲食物の吸収を助け「桂枝・甘草」が裏の気を表位まで巡らせ、「大棗・芍薬」が上半身に上がった血を消化器に戻した結果、血が作られたのだと考察する。小建中湯は、凡そ痛み以外は、長期服用で効果を出すことが多いと言われるが、「証」が合ったときの変化は、実に即効的である。また、私たちが力を入れている「不妊症」では、10年間子宝に恵まれない34歳女性に、お腹の張り、生理痛、唇の乾きを目標に、当帰建中湯を5ヶ月服用していただき自然妊娠された例がある。また、真武湯の目標になる、藤平先生が言われていた「地震感」「雲上歩感」のひどいめまいの42歳女性に、唇の渇き、腹痛、腹満を目標に小建中湯を出す事一週間、血圧、体温が上昇し、腹満、腹痛が無くなり、午前中のめまいがなくなった。その後1ヶ月で廃薬となった。
収穫の後の畑はとても静かになる。気が抜けた様だ。5年間畑の栄養をたっぷり吸い上げたからであろうか。あと、数ヶ月もすれば、再びその子供たちの赤い芽が出始める。また畑に生命力が満ち溢れてくる。まるで親から子へ、子から孫へと生命がつながっていくようである。特に現代社会はそのつながりの大切さが失いかけているように思えてならない。
私たちは、「不妊症」体質改善に力を入れている。親から子の`血‘の繋がりを1人でも多くの方に味わっていただきたい。この私たちが作る「芍薬」を通して。