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出るものと、入るもの

谷津吉美

谷津吉美

テーマ:漢方の研究




私の漢方の師匠、田畑隆一郎博士が作りました「温成治病十五訓」というものがあります。病気を治すものが弁えなければならない教えを書いた十五の教訓です。その五つ目に次の事が書かれています。
「汗、大小便、渇、女性の生理など、出るものと、入るものを、よく把むべきこと」
病気を治すために大切なものは、お客様の体質と漢方薬の相性をいかに合わせられるかです。そのため、`出るもの`の汗、大小便、生理と`入るもの`の渇(水分)をしっかり確認しないと治るものも治りません。例えば風邪の始まりに使う葛根湯という漢方薬がありますが、汗が出ているときに使いますと汗が止まらなくなり脱水症状になってしまいます。風邪の引きはじめに便が出にくいと言って、下す漢方薬を使いますと下痢が止まらなくなる場合があります。このような時は桂枝湯と言う漢方薬を使います。桂枝湯は、妊娠中の風邪にもよく使われます。又、生理前に風邪のような症状をうったえる方がいますが、これは生理が来ない為に体内に熱がこもり起こることで、汗を出して治していく葛根湯では効きません。小柴胡湯という漢方薬を使って内の熱(血熱)を冷ますと生理(出るもの)がきて、熱が下がります。

出るものが出なくなった時

 私事ですが、お正月に餅を食べ過ぎて便秘になる事がよくあります。お餅だけではなくお節料理や美味しい物の食べ過ぎで`入るもの`が多くなります。又、気温も下がりますので新陳代謝が下がり、`出るものが`少なくなります。いつも体重増加に悩まされてしまいます。出るものが出なくなると体に老廃物が溜まり、大便の溜まり過ぎ(便秘)は大腸ガン、糖分でしたらアレルギー性鼻炎や糖尿病、油は脂肪肝と病気の原因に繋がります。アルツハイマーの原因も脳の老廃物(アミロイドベータ)が溜まりすぎると起こります。
 `出るもの`とは、体内から外に出るもので、汗、大小便、生理を言いますが、加えて`涙`があります。ドライアイもそうですが、感情の事を言います。特に現代のように熟成化社会では複雑な世の中となり、あまり感情を外に出しにくくなっています。涙が出ない世の中は感動も少なく、冷たく静かな人が増えます。ただ人間はそれほど強い存在ではありませんから、突然大きな事件を起こしてしまう方が増えています。自律神経の病気だけでなく、不妊症や婦人科の病気も涙を流せない事が原因となっている場合も多いと考えます。

現代人を悩ます「アレルギー」

 私が住んでいる静岡では年が開けると花粉症が始まります。最近頓にくしゃみや目の痒みをうったえる方が増えています。田舎育ちの私でさえこの数年くしゃみが増えています。アレルギーはなぜ起こるのでしょう。そもそもアレルギーとは過剰反応です。体中に溜まった悪い物を外に出そうとする自己防衛反応だと考えています。かゆみを起こして、くしゃみをさせたり、目をかかせたりするすると粘膜が破れて体液が出てきます。その体液から毒素が出て行くのです。又逆に甘いものを取り過ぎると体の中に毒素が溜まりやすくなります。

部屋をキレイにする事はまず捨てることから

 少し脱線しますが、ある本に部屋が片付けられない人は、物を捨てられない方が多いと書いてありました。なるほど、と納得しました。私の師匠の家の中はとてもキレイですが、確かに物がありません。またアップルのスティーブジョブズさんの部屋は、真っ白な壁の中に白いテーブルが一つあるだけと聞いています。お二人に共通して言える事はとてもクリエイティブであることです。「必要最低限のものを買い、要らないものや使わないんものを捨てる」この事は頭がスッキリして、健康にも繋がるかもしれません。まるで仙人の境地ですが、彼の有名な`老子`の思想にもこの事が書かれています。

気持ちを出す、感情を入れ過ぎないこと

 東洋医学の考え方に`気・血・水`という考えがあります。もう皆様はご存知だと思いますが、この中で一番大切な要素が、気の働きです。病は気からと言われるように、健康になるにはしっかりした気持ちを持つ事が必要です。その為には相手に対して気持ちを出していく事が大切です。ただ、感情を入れすぎない事です。一方的で独りよがりの感情は帰って自他共に不快感しか残りません。相手の立場に立って考えて見ると、考え方にバランスが出てくると思います。これが健康の秘訣と考えます。

入れる栄養剤、出す漢方薬
 
現代人は食事だけで飽き足らずより栄養素を求めて栄養剤に走ります。一時的は栄養が取れて元気になるのですが、長く続けていると効かなくなったり、余計に疲れる場合があります。それは、腸から栄養を吸収する力が怠けてしまうからなのです。過保護にする事は帰ってその子を駄目にしてしまうのと同じです。それに代わり厳しい親の役割が漢方薬なのです。まずくて飲むのが辛いですが、毒素や過剰な栄養を外に出して正常化して行きます。漢方薬をビタミン剤と勘違いしている方がいますが、考え方はその逆でデトックスしていくのです。

漢方薬はデトックス

お話が長くなりましてすいません。今年はどんな年になるのでしょうか。平成も終わりになりますが少し皆の心が落ち着く世の中になって欲しいものです。地下に溜まったマグマが吹き出した後は安定した世の中になります。人間の体も同じです。体の中に溜まった悪いものを漢方薬で`出しきり`、部屋を片付け、良い風を`入れる`事は健康への近道です。
新しい時代の幕開けを楽しみに待ちたいと思います。

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谷津吉美
専門家

谷津吉美(薬剤師)

有限会社むつごろう薬局

漢方医学を専門に23年。不妊症をはじめ各種女性の悩み・アレルギー・皮膚病・自律神経失調症などの症状に、深い知識で丁寧に対応。また静岡県立高校の進路指導講演会や不妊専門雑誌などで漢方薬を広めています。

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