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柴胡剤と婦人病

谷津吉美

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テーマ:漢方の研究



皆さん、三島柴胡はご存じですか。
漢方の世界では、高麗人参と同じくらい有名な薬草です。三島柴胡と言うだけあって静岡県の三島が本場の産地。只今では野生のものは殆どありません。その柴胡は、私にとって一番の思い出深い生薬なのです。なぜなら薬草栽培で初めて育てた生薬だからです。その当時を思い出してみました。

柴胡栽培

春の彼岸過ぎに蒔いた三島柴胡の種は、1ヶ月後に漸く2本の可愛らしい葉を出しました。5月になると気温も上がり、畑は芍薬、牡丹の花でにぎやかになります。野良仕事は専ら成長が遅い柴胡を助けるため雑草引きとなります。枯れてしまう柴胡が出てくるのもこの時期で、その原因は土の中にあります。雨が少ないこの時期、植物たちは水を求めるため根をのばします。そのため地上部の成長速度を緩め、地下での水の争奪戦に力を集中します。元来、根が短い柴胡の形勢は不利で、雑草に覆われてしまうと負け戦さになります。この畑の様子は「傷寒論」で言う少陽病期に似ています。病気の進行が表面上は(植物の地上部)微少に見えますが、実は体内(地下部)で進行している(少壮;さかん)ものが少陽病期です。(少陽病の「少」の意味は、微少、少壮の意味となります。)
柴胡は繊細な植物で、栽培に苦しみます。理由は根が小さい事で、いつも乾燥を怖がっているように見えます。柴胡が油を多く含むのは、この恐怖から身を守る爲であり、そしてこの精油が人の肝臓を含む胸隔内に溜った汚れた油を溶かし消化器官へ排出してくれるのです。少陽病期とは病邪との戦いの場所が胸郭内に移り、その結果、胸苦しさ、微熱、口苦、咽乾、めまいなどの症状が現れます。病邪の侵入を脇膈内まで許してしまった状況を立て直すため、油と共に病邪を速やかに腸管に流し、次の治療に繋げるのが柴胡の役割なのです。 
食養生に「身土不二」という言葉があります。その土地で採れた物を食べると健康になるという事ですが、まさに柴胡で有名な静岡では、柴胡剤で救われる方が多い気がします。また柴胡がよく育つ山々では、温かい海風と、富士山から吹き降ろされる冷たい風が交差します。柴胡が治す熱風邪の状態は、寒さ暑さが交互に来るような状態です。あたかも育った環境に影響されているような感じですね。この状態を専門的には「往来寒熱」と言います。




薬草「柴胡」

学名はギリシャ語のBupleurum falcatum Linne。牛という意味のbousと、肋骨という意味のpleuronからつけられた名前で、葉の形を言っています。falcatumは鎌形と言う意味でやはり葉の形から。以前、無農薬有機肥料による自社栽培を何度も試みましたが労力とコストが噛み合わず断念しました。ただ、現在使用しているものは、無農薬に近いもを仕入れています。
柴胡は、人間の脇の部分に働らく薬草です。例えば、耳の下の凝り、脇の下が苦しい感じ、などです。また内臓で言うと肝臓、膵臓、胃、胆嚢辺りに働きます。具体的には、口の苦味、喉の渇き、めまい、赤目、耳の聞こえが悪い、生理前の風邪のような症状を目標にしています。

漢方は複数の組み合わせで力を発揮する

どくだみ、センブリ、たんぽぽ茶などは「民間薬」と言って単独で使います。漢方薬は、基本的に二つ以上の薬草が組み合わさって力を発揮します。「柴胡」も同じで単独には使いません。交友関係が幅広い柴胡の一番の親友はコガネバナ「黄芩」です。柴胡は黄芩の力を借りて胸から脇にかけての苦しさ、往来寒熱、生理前の熱感を除いていきます。また、「甘草」と組むことにより、取り越し苦労などの精神症状によく働きます。また、複数組み合わせることにより、薬草の副作用を緩和することもできるのです。

柴胡は、夏の終わりに可愛らしい黄色の小さな花を咲かせます。その姿を見ているだけで気持ちが落ち着きます。柴胡の花はよく花屋でも見かけることがあります。25年前に初めて作った、まるで鼠の尻尾のような乾燥した柴胡の根は、いまでも大切に店のショーケースに飾ってあります。ご来店時に覗いて見てください。

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谷津吉美
専門家

谷津吉美(薬剤師)

有限会社むつごろう薬局

漢方医学を専門に23年。不妊症をはじめ各種女性の悩み・アレルギー・皮膚病・自律神経失調症などの症状に、深い知識で丁寧に対応。また静岡県立高校の進路指導講演会や不妊専門雑誌などで漢方薬を広めています。

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