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影の立役者 (芍薬の役割)

谷津吉美

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テーマ:漢方薬入門


                  (むつごろう薬局無農薬有機肥料で作った芍薬)

さて、今回のお話は「影の立役者」です。きっかけは中国古典の一節に興味深い文章を見つけたことからでした。
「天は長く、地は久し。天地の能く(よく)長く且つ(かつ)久しき所以(ゆえん)の者は、その自ら生きざるを以(も)ってなり。故(ゆえ)に能く長生す。ここを以って聖人はその身を退けて身(み)先(さき)んじ、その身を外にして身存す。その私なきを以ってにあらずや。故に能くその私を成す。(老子)」
 
これは有名な老子のことばです。何を言っているかと申しますと、
「天と地の寿命は永遠である。その理由は、自分自身のために生きようとしないからである。自分を中心にしないで、まず相手を立てると、かえって人から立てられ重きを置かれる。私ごとを捨てるとかえって自分が生かされることになる。」ということです。残念なことに現代社会では、この反対が主流となりつつあるのではないでしょうか。自分の身を引いて相手を立てるというのは、漢方の世界でもよくあるのです。

我が身を引いて相手を立てる薬草「芍薬」
 冒頭に出てきた、真っ赤な芽を春一番に出す芍薬がこのお話の主人公になります。「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という故事ことわざに出てくる芍薬の根っこ。美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを花にたとえて形容する言葉ですが、芍薬や牡丹の根っこは、婦人科の漢方薬に多く使われていて、血行をよくして女性を元気にする薬草なのです。また漢方処方全体から見てもなくてはならない大切な薬草です。例えば、皆様がご存知の風邪薬、葛根湯にも含まれます。この芍薬が、我が身を引いて相手を立てることがあります。それが、桂枝去芍薬湯という漢方薬です。桂枝湯から芍薬を除く(去)という意味です。桂枝湯は漢方薬の中で一番の基本処方で、五種類(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)の薬草から作られています。そしてこの中での芍薬の役割は`重石`の働きがあり、他の4種類の生薬の調節役として大切な成分です。この安定した組み合わせを崩してまで芍薬を除く理由とは・・・・・・。






肺癌に効を奏した桂姜棗草黄辛附湯
 先日、私の漢方の師匠から連絡がありました。漢方薬を服用した方の肺癌が6分に1の大きさになったそうです。直接その人とお話する機会があり大変喜んでおられました。漢方薬の力は時としてすごいものがありますね。使われた漢方薬は桂姜棗草黄辛附湯で、桂枝去芍薬湯に麻黄附子細辛湯を混ぜた漢方薬です。この漢方薬の注目する所は、芍薬を除いてあることです。たかが一味でそんなに変わるのと思われるかもしれませんが、これが漢方特有の匙加減なのです。決して芍薬が癌に悪いと言うわけではなく、芍薬を除くことにより皮膚の緊張をゆるませ、毒素を発散させやすくするからなのです。
 少し話が難しくなりますが、金匱(きんき)要略(ようりゃく)という古典の医学書があります。そこには「気分、心下堅、大ナルコト盤ノ如ク、辺旋杯ノ如キハ、水飲ノ作ス所」と出ています。翻訳すると、「胸苦さがあり、鳩尾と臍のちょうど中間の場所に円盤の塊があり押すと痛む」となります。 塊を取り除き胸苦しさをのぞく目的を強めるために重石(芍薬)をはずし、その結果、肌表の緊張を緩ませ一気に中間にある水毒を発汗させると考えます。影の立役者「芍薬」の目立たぬ身の引き方はお見事です。
 その他、心臓疾患で強心しなければならない場合や、腸に侵入した菌を下痢させて外に出さなければならない状況下でも芍薬は自ら身を引きその働きを助けているのです。

無農薬栽培にこだわった理由
 芍薬一味の働きを知れば知るほど漢方薬全体がわかってきます。その除き方を知ると反対に正しい使い方がわかってきます。ところで東洋医学の考え方に「表裏」というものがあります。皆様はもうご存知かもしれませんが、「皮膚と内臓」と考えて下さい。芍薬は内臓の筋肉を緩めて皮膚を緊張させる働きがあると思います。また、芍薬を除きますと皮膚の緊張が取れます。この働きを利用して多くの不妊症を中心とした婦人科の病気、心臓疾患や自律神経失調症の方など、よい経過を辿ったと思います。そして、明らかに芍薬は漢方薬の中で最も重要な薬草の一つなのです。だからこそ私たちは20年以上無農薬栽培にこだわってきたのです。

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谷津吉美
専門家

谷津吉美(薬剤師)

有限会社むつごろう薬局

漢方医学を専門に23年。不妊症をはじめ各種女性の悩み・アレルギー・皮膚病・自律神経失調症などの症状に、深い知識で丁寧に対応。また静岡県立高校の進路指導講演会や不妊専門雑誌などで漢方薬を広めています。

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