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今、日本では米の不足や価格高騰が大きな社会問題となっています。しかし、問題は「食べる米」だけにとどまりません。実はもう一つの“米”、すなわちITや先端産業を支える「産業の米」とも呼ばれる半導体にも、深刻な不足が生じているのです。
食料としての米の問題は、国民生活にとって確かに死活問題です。しかし、現代の農業や物流、流通も、もはやITなしには成り立たなくなっています。ITの基盤を担う半導体が「産業の米」とも呼ばれているように、もはや食料に比肩するほどの重要性を持つ存在になっています。
今回は、この“もう一つの米問題”について、長年IT業界に携わってきたエンジニアの視点から解説していきます。
日本の半導体産業の変遷
かつて日本の半導体産業は、世界市場において圧倒的な存在感を誇っていました。1980年代にはメモリ分野を中心に世界シェアの半数近くを占め、「日本製半導体=高品質」の評価を得ていました。しかし1990年代後半から2000年代にかけて、韓国や台湾勢の台頭、特にサムスン電子などによる価格競争の激化により、日本企業は徐々にシェアを喪失していきます。
DRAM分野では、NECや日立が統合して設立したエルピーダメモリ(1999年)を最後に、他の国内企業は撤退を余儀なくされました。その後、2000年代初頭のITバブル崩壊や価格下落が追い打ちをかけ、日本のDRAM事業は実質的に壊滅状態となりました。
災害による供給網の寸断とその後の危機対応策
2011年の東日本大震災は、自然災害が供給網に与える影響がいかに甚大かつ深刻であるか示しました。東北地方には複数の半導体関連工場が存在しており、地震と津波によりこれらが被災。車載用半導体などを中心に供給が滞り、自動車産業をはじめとする多くの業界が一時的な生産停止を余儀なくされました。その影響は大きく日本のみならず他国の企業などにも波及しました。この事例は、サプライチェーンの脆弱性と、事業継続計画(BCP)の必要性を社会に強く認識させる転機となりました。
コロナ禍と地政学的リスクによる半導体不足の顕在化と慢性化
2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大は、世界的な供給網の混乱を引き起こしました。在宅勤務やオンライン教育の普及によってノートパソコンやネットワーク機器などの需要が急増した一方、半導体工場はロックダウンなどで稼働停止を余儀なくされたり、物流の停滞などによって供給と需要のギャップが拡大しました。当時、テレワークやWeb会議のために必要なWebカメラが不足し、入手に奔走した方も多いと思います。
さらに2022年以降では、ロシアによるウクライナ侵攻で、原材料やエネルギー価格が高騰。半導体製造に用いられる希少ガス(ネオン・クリプトンなど)や金属資源の供給にも不安定さが生じ、製造コスト上昇と納期遅延を招いています。また、防衛装備やドローン、無人機など軍需分野でも電子部品・半導体の需要が増加し、一部では需給逼迫の一因ともなっています。
日本の対策と今後
こうした状況を受け、日本政府は経済安全保障の観点から、半導体産業の国内回帰を目指す政策を打ち出しました。その一環として、台湾の世界的半導体製造企業TSMCを熊本県に誘致し、国内の供給能力の強化と供給リスクの分散を図ろうとしています。
半導体は今やあらゆる産業と生活の基盤技術であり、IoT機器やAIの普及、自動車の電子化、先進装備拡大により需要は今後も増加が見込まれます。一方で、原材料費やエネルギー価格の高騰、米中対立に伴う関税問題、輸出規制、地政学リスクの増大など、供給体制の先行きには依然として不透明感が漂っています。
産業を支える「もう一つの米」の確保へ
食料としての「米」も、産業を支える「半導体=産業の米」も、社会の安定と安全保障の根幹を成す重要な資源です。食料安全保障と同様に、技術と産業基盤を支える半導体について、資源がない日本においては持続可能な供給体制の構築と、戦略的な国家支援がこれまで以上に求められています。
筆者実績:http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss