「みんなが使っている」は一番良いの?ITシェア集中がセキュリティリスクになる理由

古賀竜一

古賀竜一

テーマ:専門家からの提言と考察


皆が使っているものが本当に一番良いもの?

ITで今問題になっているのは何といってもセキュリティーの問題。その中でも一番リスクを高める原因になっているものがあります。それは市場占有率――いわゆる「シェア」と呼ばれるもので、ソフトウェアや機器などが他のライバルメーカーのものよりどれだけ多く使われているかという割合のことです。

多く使われているということはそれだけ良いものという証拠……と誰もが思ってしまうのですが、ITではそうとは限りません。多く使われている理由としてあるのが、人に合わせることでわからないことを教えてもらえたり、ネットに情報が豊富にあるといったメリットです。

また、流行のものを使いたいとか、仲間外れにされたくないという理由もあります。例えばiPoneが日本ではそういう動機で選ばれているという実態があります。しかし、それ以外にも良いものはたくさんあります。その物の優劣とは関係ない部分のため、本当に良いものの利用が広がらないという矛盾を生みます。

IT機器という性能評価が必要なものを選ぶことは、詳しくないユーザーにとって敷居が高く難しいこともあります。みんなと同じものを使っていればとりあえず問題はないだろうということで選び、選択の悩みから解放されて気分的に楽になるからかもしれません。

「みんなが使っているから安全」という思い込みが招いた大規模障

人に合わせることが、ITでは問題になる場合があります。2024年7月に起きたCrowdStrike社のセキュリティソフト障害は、その象徴的な出来事でした。世界中の企業が同一のセキュリティソフトに依存していたがゆえに、わずか数時間で約850万台ものWindowsデバイスが同時に起動不能となり、航空会社・病院・金融機関など社会インフラが広範囲にわたってマヒしました。

「みんなが使っているなら安全が確保されているはずだ」という思い込みがいかに危険か、この一件は世界規模で証明してしまいました。これはいわゆる同調バイアスの問題です。

さらに、広く使われているソフトウェアのライブラリやツールを狙った「サプライチェーン攻撃」も深刻化しています。シェアが高いほど、攻撃者に狙われる価値も高くなるのです。

AIサービスへの急速な集中も同じ構図

LINEやZoomが急速に普及した初期のころ、セキュリティ面での問題が相次いで明らかになりました。今まさに同じことが、生成AIサービスで起きようとしています。ChatGPT・Copilot・Geminiなど特定のAIサービスへの業務依存が急拡大する中、情報漏洩リスク、サービス停止リスク、利用規約の突然の変更――これらへの備えが追いついていないのが現状です。

また、クラウドインフラの分野でもAWS・Azure・GCPの3社で世界市場の約65?70%が占められており、インフラレベルでの集中リスクも看過できません。クラウドの1社が大規模障害を起こすたびに、世界中の数え切れないサービスが同時に止まるという事態が繰り返されています。

ITでは「使いやすい」「便利」「安い」ということがシェア拡大の最大の要素になっていて、安全性や堅牢性をある程度犠牲にしてでもシェア獲得が正義であるという風潮も根強く、みんなが使っているものが決して良いとは限らなくなっています。

優れているものが成功するわけではない典型的な例

その昔、ビデオ規格の「ベータ対VHS戦争」というのがありました。SONY陣営と松下陣営の家庭用ビデオ規格をめぐる競争です。技術的にはベータのほうがサイズが小さく画質も優っていたにもかかわらず、営業的な面で成功したVHSが勝利を収めました。

優れていないものが同調バイアスによって良いものを駆逐してしまうことを証明した例として今でも語り継がれています。しかしこれは美談なのでしょうか?ユーザーは良い画質かつ小さいサイズという二重のメリットを享受できないまま終わったのです。

この勝負には後日談があります。実は両者とも最終的には敗者でした――デジタルに。次のトレンドがやってくれば、以前のものは駆逐されます。そのような繰り返しの中にあるITにおいては、固定観念や先入観は障壁でしかありません。

「今使っているもの」が10年後も通用するとは限らない

かつてInternet Explorerは日本で圧倒的なシェアを誇っていましたが、2022年にサポートが終了し、今はその存在自体が過去のものとなりました。しかし、その影響はあまりに大きく日本ではいまだに「Internet Explorerモード」なるもので多くの大手企業でも存続している実態があります。

今日「当たり前」として使われているサービスやプラットフォームも、10年後に同じ形で存在しているという保証はどこにもありません。

生成AIの登場によって、検索エンジン・オフィスソフト・クリエイティブツールなど、これまで「当たり前」だった多くのサービスのあり方が今まさに塗り替えられようとしています。それだけITは流動的で革新的な分野なのです。

安全性ではなく、どれだけ多くの人が使っているかでシェアが拡大していくというITの傾向は、セキュリティ面からするとそれだけ狙われやすくなり、リスク拡大につながります。自分でも情報を収集し、ある程度考えて判断することが、これからの安全で安心なIT運用には不可欠です。

筆者の実績 :http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss

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古賀竜一(システムエンジニア)

九州インターワークス

ITのユーザーサポートの現場で実際に問題を解決しながら、ITの最新の状況とその問題点を追及している専門家です。多様で複雑になってきたITのことをユーザーにわかりやすく丁寧にお伝えします。

古賀竜一プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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