『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
今回は連続赤字の厳しい経営状態から、半年で大幅に営業利益を改善した、私のクライアントの事例を交えて、中小スーパーの業績向上策を解説します。
今回紹介する事例は、地方に三店舗を展開する中小企業です。
社長は、父親が経営するスーパーマーケットを引き継いで、最近社長に就任しました。
しかし、業績は芳しくなく、全く明るい未来が見えてこない状態で日々悩んだ末、私の
YouTube動画を観て「この人だ・・・」と思い相談をしてこられたそうです。
最初に訪問した基幹店舗は、昔ながらの売場づくりで、照明も少し暗く目新しいものもありません。
売場の一部に地場の野菜や魚が並んでいて魅力も感じますが、グロサリーはコモディティー商品が殆どで、何の特徴もなく、新商品はほとんど陳列されていません。
多額の借り入れと月々増え続ける赤字
社長から、最初に連絡いただいたときにお聞きした事情も踏まえ、損益計算書に目を通すと、予想をはるかに超える赤字で、ここ数年月々苦しい経営状態です。
赤字の一番の原因は、各部門ともに粗利益率が低いことです。
特にグロサリーの利益率が低く、部門損益を見るまでもなく大幅な赤字が予想できます。
ここ数年、競合店との価格競争と少子高齢化などの影響で売上が徐々に低下して、グロサリー部門の赤字が数百万円に膨らんでいます。
このような状況が続く中で、何も具体的な対策を立てることが出来ないまま経営を続けていたため、金融機関からの借入金も多額に膨らんでしまっています。
このまま経営を続ければ、近いうちに倒産に追い込まれることは間違いありません。
低価格だけが売りの戦術と客数低下
このスーパーは、低価格を武器に、地域ではそれなりの支持を得ていた様ですが、競合スーパーやディスカウント・ドラッグとの進出によって、徐々にその魅力度が低下し、指示を失い、客数も減少しています。
また、品揃え上でも価格を優先するあまり、2流3流の商品も多く、一部のお客からは支持を得ていたものの、新商品やナショナルブランドを低価格で販売するドラッグストアと競合をすることになり、売上は確実に低下しました。
そして、生き残りのための方向性を見つける意味での戦略を策定することなく、今までのやり方をただ続けて、時間の経過とともに業績は振るわなくなってしまいました。
このことは、今現在、客数減や売上の低迷に苦しんでいるスーパーのほとんどに共通していることでもあります。
簡単に言ってしまえば、「自分たちのやり方」をただ続けているだけでは、競合店と比べて店舗の魅力度は低下して、お客は自然の流れとして、魅力的な品揃えやサービスを提供する他店に向かうことになってしまいます。
特に、このことは販売側から考えるプロダクトアウトではなく、お客の視点で考えて行動するマーケットインを強く意識することが重要となります。
真面目な従業員と投資のできない会社
訪問1回目と2回目は、売場確認と社長への聞き取り、損益計算書などのデータ確認を行い大方の問題を把握しました。
訪問3回目は、主要メンバーに集まっていただいて全体ミーティングを行い、互いに自己紹介を行った後、私自身が社長に呼ばれた理由と、今後業績向上のために行っていくべきことの概略を簡単に説明しました。
全員私の話を真面目に真剣に聞いてくれ、素直さが感じ取れました。
そして、少し具体的に荒利益や売上のことを各人に聞いていくと、「あまり数字を具体的に把握してない」ということが解りました。
生鮮部門は月々の実地棚卸を実施してないことから、社内で通常使われるのは、粗利益ではなく売買差益のようです。
仕入れは場当たり的で、予算化されていため、粗利益と売買差益の乖離は大きくなっています。
ミーティングでは毎回簡単な改善課題を伝えます。
回を重ねるごとに、指示したことを素直に実行していただきます。
なかなか素晴らしい個人とチームであることを再度確認できました。
この記事を読んでいただいているあなたは、もう感じていると思いますが、彼らに大きな問題があるわけでも、能力が低いわけでもありません。
簡単に業績を向上させることが出来る
会社自体が明確な戦略やコンセプトを策定し、ターゲティングとポジショニングを決めるという、販売戦略上・基本的なことをやっていないことが、業績低迷の一番の原因であることが証明されました。
そして、それを実現するための実行計画の策定が必要です。
そしてそれらを、紙に書いて言語化し、共有することがとても重要です。
今回紹介した企業は、
・意識付け
・データの活用する方法の理解
・目標設定
などをしてもらっただけですが、3カ月程度で生鮮部門、粗利益率を業界標準以上にアップしてくれました。
そして、このことで会社の赤字も解消されたのです。
グロサリーは今後、
・レイアウトの変更
・品揃え計画の見直し
・定番(ステープル)売場の設定
・非定番(ポップアップ)の計画
を行う計画で、売上前年対比110%、粗利益150%の予算を設定しています。
そして、今まで管理がずさんだった月次の損益計算書は、税理士事務の協力を得て条件を整備して、私のほうで部門別損益計算書を作成して、見かたと活用法、戦略的活用まで、各チーフに落とし込んでいます。
これらのことにより、赤字だった営業利益を飛躍的に向上させることが出来ると思います。
繰り返しになりますが、
現場に人財がいなかったのではなく、眠ってしまっていたのです。
そして、
会社が学ぶことに投資していなかったのです。
この簡単なことに気付き、今までと違う行動をとれば、かなりの確率で、そして短期で、業績を向上させることは可能です。
さて、
あなたの会社は、行動を日々変えているでしょうか・・・?