スーパーの売上を上げる8施策まとめ 買い上げ点数を上げ、客単価向上を目指せ
≪発注ミスによって在庫過多になってしまいました……お客様、助けてください!≫
――スーパーマーケットやディスカウントストアなどで、このような悲痛なお願いが書かれた販促用のPOPを目にしたことはないだろうか。
近年、SNSでの拡散により、急激に認知度が高まってきた“発注ミスPOP”。スーパーなどの小売店において、発注担当者のミスで大量に仕入れてしまった商品を売り切るために、消費者の同情を誘い買ってもらおうとする販促方法だ。
発注ミスがSNSで広まって大量の商品が完売することもあり、これまでは比較的にネット上の美談として受け止められてきた。しかし、昨今ではあまりにも類似したPOPがSNS上に溢れかえってしまったため、「わざとやっているのでは?」、「ありきたりすぎて新鮮味がない」と訝しむ声も少なくない。
また、7月17日にTwitterで、ブラック企業アナリスト・新田龍氏が投稿したツイートによってさらに不信の声が広がっているようだ。
≪『発注ミスしました!助けて下さい!』
私の苦手な言葉です。
・客の善意につけ込んでるようにしか見えない
・担当者はミスを繰り返すな。開き直るな
・経営者は誤発注を防ぐ仕組みを構築しろ
・卸も異常値発注が来たら確認しろ
『どうせ販促手段でしょ』と警戒され、本当に困った時に使えなくなるよ…≫
新田氏によるこのツイートは、2.1万以上の“いいね”を獲得(9月1日現在)しており、続くツリーでは「まさにその通り」、「反省している感ゼロ」など発注ミスPOPに批判的なコメントが多く寄せられていた。
よくも悪くも世間に浸透してきている発注ミスPOPだが、いったい小売業界では何が起きているのだろうか。そこで今回は、スーパーマーケットのコンサルティングを行う経営コンサルタントの新谷千里氏、販促・広報・マーケティングコンサルタントを手がける西川立一氏に、発注ミスPOPの実情について詳しく解説していただいた。
POPに書かれた発注ミスがウソの場合もある?
はじめに、本当に発注ミスをしてしまってPOPを出しているのか、それとも実は発注をミスしているのではなく、販促のためにウソのPOPを出しているのか、どちらのケースが多いのか教えていただこう。
「大多数の店舗は本当に発注ミスをしてしまい、発注ミスPOPを出していると考えられます。発注を行うのは人間ですし、10品を100品と間違って仕入れることも起こりうるでしょう。ですから発注ミスという事実がないにもかかわらず、ウソをついてわざとそういったPOPを出す小売店は少ないと思います。
小売店からしてみれば、ウソの発注ミスPOPを出して目先の利益を得るより、長期的に考えて客との信頼関係を築くほうが大事です。例えば店舗内で発注ミスPOPが増えすぎてしまうと、『どうなっているんだ』と不安に思う客も出てくるでしょう。誤発注が多発する店なんて信用できないから通うのをやめようと、客足が遠のくリスクもあります。そのため、あまりに多用すると、店側にとっては信用を失うというデメリットのほうが大きいと思います」(西川氏)
新谷氏もおおむね同意見のようで、小売店の売上は客との信頼関係によって成り立つものだと指摘する。
「スーパーマーケットは、週に2回から毎日来店する客が大半です。ですから発注ミスPOPを頻繁に出すと、定期的に訪れる客に不信感を与えてしまい、その商品はいくらか売れても、徐々に店全体の売上に悪影響を及ぼす恐れがあります。また店と客の距離が近い店舗だと、どの担当者がどんなミスをしたのかわかってしまいますし、仮に発注ミスがウソだった場合、“〇〇さんらしくない”と客に看破されてしまうこともあるかもしれません。当然、偽ったことが発覚すれば信用失墜につながります」(新谷氏)
なお両氏いわく、こういった発注ミスPOPは、業界内ではマーケティング手法としては確立されていないとのことだ。
徐々に業界内で広まっていった販促方法だった
ウソの発注ミスPOPを出す小売店が少ないことはわかったが、よく目にするようになったという声はネットを中心に散見される。増加した理由はあるのだろうか。
「経営コンサルタントの小阪裕司さんがある雑誌で書いていた、『高級プリンを大量に誤発注してしまったあるスーパーが、手書きでPOPを書いたら完売した』という話は大きな影響を与えたのではないかと思います。こんな販促方法があるのかと目から鱗が落ちた業界関係者は多かったのではないでしょうか。「お客との絆で売れる」ということではなく、手法として真似する店が増え、現在に至ったのではないかと考えられます」(新谷氏)
また西川氏によると、店の発注方法が変化した影響も大きいという。
「インターネット普及前のスーパーマーケットでは、電話やFAXで発注することが一般的でした。その時代には電話口で数を確認したり、手書きの発注リストを送ったりしていたので、確認できるタイミングがあった分だけ発注ミスは今よりも少なかったはずです。しかしネット環境の整備が進むにつれて、ハンディターミナルという端末で発注できるようになり、現在はスマホで行えるところも多くなりました。その分、ヒューマンエラーで入力ミスが起こりやすくなり、ネット普及以前と比べて発注ミス自体が増えているのではないでしょうか」(西川氏)
電話したり紙に書いたりと煩雑だった発注が、スマホひとつで完結するのは確かに便利。だが発注までのプロセスが簡略化された分、ミスを引き起こしやすくなっているのも否めないのかもしれない。
現実問題、発注ミスをなくすのは難しい理由
スマホ時代の誤発注を防止するため、ミスをチェックする体制やシステムはないのだろうか。
「大手コンビニのようにスケールメリットがあり、高度のシステムを持った企業の店舗では、発注数が普段と1桁でも違えばアラームが鳴るような仕組みが導入されている場合が多いです。けれどもスーパーマーケット全体で見ると、そういった事前にチェックできるシステムを完備しているところは圧倒的に少ないというのが私の所感です。通常、発注は担当者が一人で行うものであり、上司が逐一チェックしているわけではないので、現場任せとなっています。ですから発注ミスを完全になくすのは非常に難しいでしょう」(新谷氏)
発注担当者以外がいちいちチェックするのは現場の負担が増すし、コンビニのようにミス防止のためのシステムを新規導入するには膨大なコストがかかってしまう。小売店としても発注ミスは避けたいところだろうが、費用対効果を考えるとそこまで人員投入や設備投資できないというのが実情なのかもしれない。
一方、商品を卸す卸売業者側から発注ミスを防ぐ助力をするのは難しいようだ。
「過去に例がないほど極端な数字の大量発注が来た場合などは、さすがに小売店側に連絡して確認するでしょうが、基本的に卸売業者は発注をそのまま受けて納品するというスタンスです。なぜなら、小売店側がセールや特売を開催する可能性があったり、そもそもいちいち連絡するようなサポートサービスをやる余裕がなかったりと、卸売業者も小売店側に踏み込めない事情があるからです」(西川氏)
ミスは仕方ないが客に真摯な対応で商売すべし
発注ミスPOPのほとんどは本当に間違いを起こしてしまったケースのようだが、やはり虚偽のミスで客の同情を誘って商品を購入してもらおうとする、あくどい小売店は一部存在するという。新谷氏によるとそういった小売店にはいくつか特徴があるとのこと。
「品質管理ができていない小売店には気を付けたほうがいいでしょう。たとえば、山積みになった商品が通路に出しっぱなしになっていたり、要冷品が冷蔵ケースに入っていなかったりした場合は要注意。また身だしなみが整っておらず、接客もまともにできない店員がいる小売店も危険ですね。スタッフ教育が充分に行われておらず、結果的に売り場のPOPもきちんと管理されていないため、無法地帯のようになっている可能性がありますね」(新谷氏)
また西川氏は売上アップを目標に掲げすぎる小売店も注意すべきだと話す。
「売上至上主義的な小売店は、販促手段を問わず、あの手この手で客に商品を買わせようとする傾向があります。特に現場の権限が強い小売店は、本部の指導を離れて暴走した販促を行うことがあるかもしれません」(西川氏)
一部小売店ではそうした姑息な手も見られるため、最近はSNS上で発注ミスPOPが否定的な文脈で受け取られるケースも多いと西川氏は分析してくれた。
「ほとんどの小売店が誠実に営業しているので、一部の卑怯な小売店のウソのせいで、業界全体が悪く言われてしまうのは極めて残念です。そういった店が減るのを願うとともに、本当に発注ミスをしてしまった場合は致し方ないので、客にミスの詳細な経緯を説明した誠意あるPOPを作り、販売してもらえればと思います」(西川氏)
新谷氏も発注ミスPOPを出すこと自体は問題ないと語る。
「ミスした事実をきちんと説明して販売するのであれば、発注ミスPOPを作ること自体は全然構わないでしょう。ただやはり、商品を買いに来る客との信頼関係を第一にした商売を心がけてほしいですね」(新谷氏)
――発注ミスPOP自体が物珍しかった頃は同情票が圧倒的に多かったのだろうが、氾濫しすぎた現在、客のなかに同情心よりも不信感が芽生えてしまうリスクもあるだろう。いずれにしても、小売店はできるだけ発注ミスをなくし、発注ミスが起こってしまった場合は真摯な対応を取ってもらいたいものである。
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