『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
最近、スーパーマーケット企業3社とのリアルとオンラインでの面談があった。
何れの企業も、現在の経営環境の厳しさを痛感し、そして、業績低迷と将来への不安を抱えている。
私はよく、「厳しい経営環境」的な話をするが、決してスーパーマーケットの全企業を対象にして言っているわけではない。
あくまでも、生産性が低く、これまでその問題に対して、直接的な手を打ってこなかった企業のことを話している。
そして、その多くは、中小企業や零細企業である。
残念ながら、現在まで、その学習をする機会を得ていない場合が多く、機会があっても、経営者の問題意識の欠如から、学習に至っていない場合も多い。
学習とは、投入する人やお金に対して、生産性を向上させるための実践的マーケティングやオペレーションなど、基本原則を学ぶことだ。
しかし、商品や資材の原価が上がり、電気代をはじめ各種の経費が高騰し、業態を超えた競争と飲食業界の回復など、目先の戦術的対応では解決できない状況であり、これからも続く。
生産性アップは、会社を存続させるために、避けては通れない戦略的課題である。
パート社員の目がキラリと光った!
先日、私は、ある企業(スーパーマーケット)の基幹店舗で、女性のパート社員を含む十数名に対して、作業改善の話をする機会を得た。
青果部門のバックルームで椅子を用意してもらい、話を始めた。
経営幹部以外は、私と初めて会った人ばかりだ。
内容は、販売実績の資料をもとに、値引きロスや欠品の問題とその解決策である。
一見、難しいことの様に思うが、データを目的をもって整理して、簡単に見やすくして、誰でもが理解しやすい様に帳票に仕上げている。
彼女らを納得させて、行動を起こしてもらうためには、解りやすい説明に努めることが重要がある。
少しずつ話を進めていったが、私の説明から目を離す人はいない。
全員真剣に聞いてくれている。
今回の店舗においては、5%以上の値引きロスを削減できるカテゴリーもあり、欠品も併せて考えると、相当な粗利益アップが期待できる。
説明の最後に、簡単な改善方法などを伝え、明日から実行してもらうことになった。
日々繰り返してきたルーチンの作業に対して、彼女らが、考え方を理解し、やり方を変えてもらうことが重要で、結果として、生産性は確実に向上することになる。
労働集約型のスーパーマーケットは、その多くを占めるパート従業員の意識改革とスキルアップによって、生産性を押し上げることが出来る。
「そんな考え方が有ったのか・・・」 バイヤーの一言
先述したように、中小零細のスーパーマーケット企業では、生産性向上に関わるオペレーションやマーケティングなどの学習機会を得ていない場合が多い。
これまで、我武者羅に遣っていれば結果が出た時代はよかったが、もうそんな環境ではない。
経営者が悩んでいるように、現場の責任者であるバイヤーや店長も、業績を向上させるために日々苦労している。
先日、初めて訪問した企業で、青果部門のバイヤーから話を聞いていたときの話だ。
彼は、その担当部門25年のベテランで、多くのデータをもとに、考え方や今の自分たちの活動状況を熱心に話してくれた。
私は、彼の話を聞き終えた後に、簡単な質問をした。
・重点商品と実践的マーケティングの取組み
・マグネットの活用方法
・商品の見切り方法
など、幾つか、その考え方や具体的な方法について、現状の取組みを聞いた。
すると、その全てにおいて「遣っていない」「知らない」との答えが返ってきた。
彼は頑張り屋で、熱心で、売場を見ても、それが読み取れる良い売場だった。
だから、彼が、基本原則を学んで実行してくれたら、間違いなく今以上の業績を実現してくれるだろう。それも、ムダ無く、楽に簡単に。
「そんな考え方(やり方)があるんですね・・・」
彼は、「遣ってみます」と言って、次の日から実践に移してくれた。
勉強においても、スポーツにおいても、基本原則を学んでいれば、結果を大きく変えることが出来る。
勿論すべてではないが、可能性は高まるし、ムダな行動も少なくなるだろう。
当然、ビジネスの成長のためには、基本原則を学習し、実践することを常とするべきだ。
「今までのやり方では、絶対無理」 社長の正しい判断
冒頭で、スーパーマーケット企業3社と面談を行ったことを話したが、3社の社長はともに、「今までのやり方では、絶対無理」と口をそろえる。
全国的に見ても、中小のスーパーマーケットの売上は、前年対比95%前後の企業が圧倒的に多い。外部環境を考えると、当分この程度の推移で進むのではないかと考える。
つまり、経営としては、これらを前提として戦略を立てて、戦術を実行する必要があるということだ。
外部環境は変えられないのであるから、内部(社内)を変えていく必要がある。
当然、何も改善行動を取らなければ、ドラッグストアやディスカウントストアの進出、外食産業への需要シフト、原価や資材の高騰、光熱費など固定経費の高騰など、それら影響をまともに受けて、利益は確実に低下することになる。
売上は上がらない。粗利益は低下して、経費はアップする。
当然、営業利益は、大幅に低下することになる。
損益計算書を理解していれば、簡単に理解できる。
改善のカギを握るのが、生産性のアップである。
実践的マーケティングと数量管理と品質管理で、値入れを高めてロスを少なくして、粗利益を高める。
オペレーション全体を見直しと数量管理で、ムダを少なくして、人件費などのコストを低減する。
これらの基本原則を勉強して、正しく理解(学習)し、ゴールを設定して、効果的な改善行動を取ることだ。
現場はチャンスの山! 現場とデータは宝の山
先述した事例のように、特に計画的な教育訓練を行っていなければ、発注や売場管理、POPやSNSの活用など、パート従業員のスキルアップによって、生産性向上の大きな可能性がある。
数量管理、取り分け単品管理の技術を高めることが出来れば、ムダな在庫を削減し、欠品も減らすことが出来る。
鮮度は向上し、競争力は高まり、商品ロスとチャンスロスの削減、そして、ムダな人時投入のコストも大幅に減らすことが出来る。
このほかにも、問題は多いかもしれないが、その分、大きな改善効果が期待できるということだ。
そのためには、基本原則を正しく学び、実践してみることだ。
ここは、前向きに考えていきたい。
生産効率の向上は、目的ではない
今回紹介した事例の共通点は、「知らなかった」「学習してこなかった」ということがある。
そのために、思う様な成果を実現できていない。
スーパーマーケットの営業戦略上の要は、言うまでもなく、『鮮度』と『味』の高位実現だ。
そして、それが地域一番であることが 『強み』 となり、顧客の支持を高めることが出来る。
目先の売上を追うと言う様な、戦術的の話ではない。
そのためには、これらの目的を実現するために、学ぶこと、聞くことが重要だ。
ムダを無くし、目的を実現するための時間を増やし、優先課題を実行することが重要だ。
生産効率を上げることは目的ではなく、顧客満足度や従業員満足度を高めるための実行課題なのだ。