売上と粗利益を簡単に上げるサイレントセールスマンを創る POPの力と基本原則を知る
コロナ禍は食品スーパー(SM)にとって追い風だが、業績不振に悩む企業は少なくない。原因は、以前から常態化している「悪習」が収益性を悪化させていることにある。本稿では、2022年の商品政策(MD)における競争力ある品揃えや売場展開のポイント、それを支える生産性向上などについて解説する。解説=新谷千里(サミットリテイリングセンター代表取締役)
コロナ禍で 経営の二極化が進む
周知のとおり、コロナ禍で消費者ニーズが大きく変化している。日本では20年3月ごろから感染が拡大して以降、外出を控え、長時間家庭で過ごす生活スタイルが浸透し、これによって自分で料理する人が増え、内食需要が拡大した。
その後、コロナ禍が長期化し、21年からは生活者の「料理疲れ」も指摘されるようになっている。コロナ禍1年目は低迷していた総菜をはじめとする簡便即食ニーズが回復傾向にあるなど、消費者の動向は今も目まぐるしく変わっている。
とはいえ自分で料理することに楽しさを感じる人は少なくない。いつの時代でもSMは、そういった人々のニーズに応える品揃えを実現し、提案や情報発信に取り組む努力を続けることが重要だ。
さて、ここ1年を振り返るとSM企業の経営は二極化が進んでいる。高い生産性を発揮し、営業利益・経常利益を大幅に伸ばしている企業が存在する一方、SMにとって追い風が続く現在でも収益性の低さに悩む企業の2つのパターンがある。そのうち圧倒的に後者が多いのが現状だ。
私は日々、コンサルタントとして、SMを中心に業務改善の指導に携わっている。収益性が低い企業に共通する問題は、値下げや廃棄といったロスが多いことだ。たしかに、SMを利用する人は以前よりも増えてはいる。しかし食品の取り扱いを拡大しているドラッグストア(DgS)をはじめ、業態の枠を超えた競争が激しさを増していけば、業績不振に陥る企業はさらに増えていくと予想される。
ロスが多く出る要因を突き詰めると、単品管理やPOSデータの活用ができていないことが最大の原因だ。本来、収益を確保するためには、単品ごとに落とし込んで詳細に分析する必要があるが、実際には部門単位の把握にとどまっている企業が大半である。
そういったSMは値引き率、さらに欠品率が高い場合が多く、結果としてムダな作業が数多く発生している。得られる利益が少ないと、販促戦略を打つにしても制限が出るため、思うような集客ができなくなるという悪循環に陥ってしまう。
このような企業は、現場向けの作業指示書、商品展開の計画書が適切ではない場合が大半で、最終的に人時のムダが多くなる傾向にある。そうなるとSM企業にとって大切な売場づくり、お客とのコミュニケーションにかける時間が少なくなる。人件費の総額は拡大しても、収益性が悪ければ従業員に支払う給与は低くなり、これでは現場のモチベーションにも大いに関係してくるだろう。
生鮮部門の ムダを削減する
近年、食品を積極的に販売するDgSの台頭が著しい。化粧品や医薬品と比べ、購買頻度の高い食品を品揃えに取り入れることにより、集客力の強化を図っているDgSが増えてきた。
SMにとってDgS、さらにディスカウントストア(DS)が競合店になると、ナショナルブランド(NB)の比率が高い加工食品、日配品は総じて低価格・低値入れにならざるを得ない。消費者から「高いSM」というイメージがついてしまえば客離れを起こす可能性がある。そのため、こうしたカテゴリーでは割安感を訴求することが必要となる。
そのなかでSMがとるべき対策は、差別化商材になり得る生鮮食品の強化だ。SMが得意な分野に磨きをかけることで、売上・利益を稼ぐことが可能になる。
生鮮食品を強化するにあたり、最も大きなテーマは鮮度向上だ。基本戦略は、当日仕入れた鮮度の高い商品を、できるだけその日のうちに売り切る。これができれば、ムダが発生せず、常に鮮度感のある売場を実現できるため、お客からの信頼も得られるようになる。
そのうえで生鮮食品の加工度を上げ、総菜、即食商品として提供することも1つの選択肢だ。青果部門であればカットフルーツやサラダ、鮮魚部門であれば丸魚だけでなく刺身や寿司、さらに焼魚、煮魚を展開することなどによって、各部門の粗利益率を大きく向上させることができる。
注意すべきは、生鮮食品は強みになる可能性があると同時に、ロスも出やすい分野であるという点だ。人時もかかるため、その意味でも生産性を上げなければ競争力向上につなげることは難しい。
最終的に営業利益を残すための大原則は、粗利益の対前年伸長率を、常に売上高よりも高く保つことだ。その状態を維持できれば、多少売上高が下がっても営業利益を確保できる。他方、粗利益率は、ムダをなくせば上がっていく。繰り返しになるが、それを部門単位だけでなく、カテゴリー、単品に落とし込みながら管理する。欠品をなくすことができるだけでも、かなりの確率で粗利益率は改善するはずだ。
営業利益と粗利益は、同じ利益でも伸長させるためのアプローチは異なる。値入れを高く設定できる総菜の粗利益は大きいが、総菜部門全体の営業利益が高いとは限らない。加工のための大きな人時も吸収できるほどの粗利益を保ち、結果として営業利益も確保できることがベストであろう。いずれにせよムダ・ロスを低減するための取り組みは、今後、さらに重要性が増していくのは間違いない。儲けどころがない企業はますます厳しくなる。
価値を訴えるPOPで 購買意欲を高める
収益拡大をめざすSM企業にとって頭の痛い問題の1つは、世界的な原材料・輸送費の高騰だろう。業態を越えた競争が激化していることに加え、消費者の節約志向も高まっているなかで低価格販売も行わなければならないという厳しい状況だ。
SMの打つべき対策は、「価値」を売ることで、利幅を大きくすることである。単に付加価値型の商品を売場に並べるだけでは不十分で、価値が伝わりお客の購買意欲を高めるPOPの工夫が必要だ。
SMの売場を見て回ると、効果的なPOPをつくっているケースは非常に少ない。商品名、メーカー、産地、価格といった基本的な事項は記載されているが、肝心の商品をアピールする情報は目立たない場所に記載されているか、あるいは書かれてすらいないことが多い。
付加価値型商品を訴求するため、POPには、原材料や製法、安心安全、健康へのこだわりなど伝えたい情報を目立つように書くべきだ。バイヤーが産地に足を運んでいるのであれば、生産者の思いを表現するのもよい。さらにフェイスブック(Facebook)、インスタグラム(Instagram)といったSNSも活用すれば、若い世代にも効果的にアプローチできるだろう。
生活シーンに 関連付けた売場展開を
また、小売業の基本的な戦略だが、商品を売場で効果的に展開するには、関連購買、想起購買、衝動購買を誘うような陳列を意識し、買いやすさにも留意すべきである。そのためには用途で商品を関連付け、重点カテゴリーを中心に商品を並べることが重要だ。これを実現するには、バイヤーや売場担当者の、消費者の生活シーンに対する感性が求められるのはいうまでもない。
近年、需要が急速に拡大している冷凍食品を売場で展開する際にも、同様の手法が有効だ。売場でただ品揃えを充実させるだけでなく、使い方について提案するのがポイントとなる。おいしさを伝えるのはもちろんだが、忙しい現代人が求める「時短」の要素も合わせて伝えるべきだ。
今後、競争環境はさらに厳しさを増していく。経費率が10%半ばのDgSやDSとも戦わなければならないケースも多くなってくる。そういった状況でも強い競争力を発揮するには、生産性の向上は不可欠である。
私が手掛けた例では、収益性の低さに悩む企業でも、わずか1年間の取り組みで月次ベースの経常利益率5%を達成したケースもある。同様の成果を出すためには、従来、常態化していた商品のロスを削減し、人時や在庫などのムダを排除すべきだ。SMにとってこうしたムダは「悪習」とも言える。強い目的意識と粘り強い取り組みを地道に続ければ、成果は必ず出るだろう。