任意後見契約の特色と、代理権の範囲 ☆vol.11⑨☆
こんにちは、司法書士佐井惠子です。
結論から言えば、任意後見契約と法定後見とは並立することはありませんし、
任意後見契約が法定後見に優先するのが原則です。
任意後見契約は、将来に備えて予め、本人の意思に基づいて締結した契約です。
法定後見は、本人の判断力が減退したときに、家庭裁判所が選任した後見人です。
本人の自己決定権の尊重ということから考えれば、任意後見契約が優先します。
任意後見と法定後見の並立を認めないのは、権限が重複したり、
法律関係が混乱を生じ、結果として本人の保護に欠けるためです。
但し、例外があります。
任意後見契約効力発効行前の時点で、本人の利益のために特に必要があると
認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができます。
特に必要があると認めるときとは、
例えば、任意後見契約に定めた代理権に必要なものが抜けていた。
あるいは、1人で家にいるときに、問題のある契約を結んでしまうことが度重なり、
本人の保護を考えると、法定後見人となって取消権の行使ができるようにしておく必要がある場合など、考えられます。
もっとも、任意後見契約は発効前ですので、法定後見が開始しても任意後見契約は存続しています。
では、既に後見等が開始している場合はどうでしょうか。
任意後見人が働き始めようとするには、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てるわけですが、
原則、任意後見が優先して、法定後見開始の審判は取り消されます。
例外として、法定後見等を継続することが本人の利益のために特に必要であると判断されたとき、
法定後見が優先されて、任意後見監督人選任申立は却下されます。
一度、任意後見契約の効力が発行した後に、後見等が開始した場合は、
任意後見契約は終了してしまいます。
親族間の主導権争いに、成年後見制度が利用されるということは残念なことです。
法定後見の場合、親族間が争っている場合、後見人には第三者が選ばれるところですが、
任意後見契約はそうではありません。
本人の居住用住宅を売却する場合も、任意後見は契約に定めていれば自由にできます。
法定後見のように、裁判所の許可は必要とされていません。
自己決定権の尊重という理想を掲げた任意後見制度。
自身が、判断能力のしっかりとある時に、将来に備えて準備してこそ、
制度の本来の趣旨を生かすことになるものです。
任意後見契約締結に関わる公証人や司法書士など専門職は、本人の意思の確認に
十分な注意を払う必要があります。
任意後見契約締結時、意思能力が無かったという裁判になるようなことは、
避けたいものです。
笑顔の和が広がりますように
司法書士佐井惠子
http://sai-shihou.jp
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